全米ホースマン共済協会(National Horsemen's Benevolent and Protective Association: NHBPA)は、獣医師による競走前検査に悪影響を与える現在のフェニルブタゾン(phenylbutazone)の認可閾値を一律に引き下げることに反対している。
7月21日〜25日にミネアポリスで開催されたNHBPAの夏季会議を受けてNHBPAの理事会は、北中米競馬委員会協会(Association of Racing Commissioners International: RCI)が非ステロイド系抗炎症剤であるフェニルブタゾン(ビュートBute)のモデルルール閾値を全米で一律に変更しようとすることに徹底的に反対すると述べた。RCIのモデルルール委員会(Model Rules Committee)は、現在の血漿あるいは漿液1 mlあたり5.0μgであるフェニルブタゾンの閾値を8月に2.0μgに引き下げることを検討する予定である。
薬物規制標準化委員会(Racing Medication and Testing Consortium: RMTC)は、4月に、フェニルブタゾンの高いレベルは競走前検査の際に跛行や故障を隠蔽するという取締担当獣医師の懸念に対処するために、低い閾値を勧告した。RCIの薬物検査基準・実施委員会(Drug Testing Standards and Practices Committee)はすでに閾値を引き下げることを勧告している。
RCIは、大半の競馬管轄区の統轄機関により構成されている。州間で一貫性をもたせるため、RCIはモデルルールを可決しているものの、現在なおルールは州によって異なる。
NHBPAの理事会は、現在の閾値レベルが競走前検査の正確さに影響を及ぼしているという科学的根拠は見当たらないとしている。NHBPAはまた、現在の閾値レベルの競走能力への影響においては科学者の意見が一致していないと述べた。また理事会は、現状でも圧倒的多数の競走馬は検査で2.0μg以下となっていると語り、現行の5.0μgの閾値レベルはただ、不確かな陽性反応を避けるための安全域を提供するだけであると付け足した。
NHBPAのジョー・サンタンナ(Joe Santanna)理事長は、「私たちは北米の競馬関係者の大多数を代表しています」と述べ、次のように語った。「このようなルール変更は害がないように思われるかもしれませんが、ホースマンに不当な責任を負わせ、メディアに対し不必要に否定的な態度で競馬界への監視を行わせることになります。したがって、すべての重要なルール変更の場合と同様、ここでの懸念は、科学的根拠です。引き下げられた規制閾値と筋骨格の故障および競走中の予後不良事故の減少との間に明確な関連性があるのでしょうか?現在のところ私たちの見解ではそれはないようです」。
6月の競走馬の福祉と安全に関するサミット会議(Welfare and Safety of Racehorse Summit)の発表において、RMTCの専務理事であるスコット・ウォーターマン(Scot Waterman)博士は、2.0μgから5.0μgに変更した2州においては予後不良事故が増加したと述べた。これら2州のうちの一方の州では、変更後に出走頭数延べ1,000頭のうち1.31頭であった予後不良事故率が1.95頭に上昇した。もう一つの州では、変更後に1,000頭のうち0.69頭であった予後不良事故率が2.26頭に上昇した。後者の州は閾値を2.0μgに戻し、その後1年間において予後不良事故率は1,000頭のうち1.18頭に減少した。
ウォーターマン博士はこの数字は科学的研究に基づくものではないと認めたものの、この結果を“無視することは愚かなこと”であると付け足した。
アイオワ州とヴァージニア州はいずれも、以前閾値を2.0μg としていたがその後5.0μgに引き上げた州である。ヴァージニア州はその後2.0μgに戻した。NHBPAの夏季会議で発表された研究は、これら2州の数字を問題として取り上げたが統計的に顕著な変化がなかったことを示唆した。
By Frank Angst
(関連記事)海外競馬情報2010年No.10「薬物規制標準化委員会、フェニルブタゾンの閾値引下げを勧告(アメリカ)」
[Thoroughbred Times 2010年8月7日「Horsemen oppose lowering phenylbutazone thresholds」]