BHA(英国競馬統轄機構)は、競馬に透明性を持たせ、賭事客により多くの情報を与えるために推し進めている施策の一つとして、禁止薬物に陽性反応を示した馬の名前を罰則が課される前に公表する措置を検討している。
しかし、2011年チャンピオンハードルにおいて人気馬ビノキュラー(Binocular)がレース直前で出走を取りやめるときに判断材料とした選択的薬物検査の陽性反応結果については、いずれにせよBHA内部限りとされ、公表されない予定である。
なお、この場合の選択的薬物検査は、2011年3月にビノキュラーを管理するニッキー・ヘンダーソン(Nicky Henderson)調教師が、自身の厩舎の馬が競走後のA検体テストでビノキュラーに投与したのと同じ薬物に対し陽性反応を示したことをうけて、BHAに要求したものである。検査の結果、ビノキュラーも陽性反応を示したことから、BHAは同調教師に、ビノキュラーは競走日の薬物検査においても陽性反応を示すかもしれないと助言し、同馬のチャンピオンハードルへの出走は取り消された。
BHAの馬科学・福祉担当理事であるティム・モリス(Tim Morris)氏は次のように語った。「BHAは馬の詳細情報は公表していましたが、A検体(訳注:ルーチン検査に用いる検体。方法は国によって様々だが、レース後に指定された競走馬から尿または血液を検体として採取。これをA検体とB検体に分割して検査機関に送り、このうち最初のA検体から薬物が検出されると保存されていたB検体に同じ薬物が存在するかをさらに確認することとされており、世界の競馬開催国で広く採用されている)の陽性反応結果に関わる薬物については明らかにしていませんでした。しかし、今般それが変更されました」。
「私たちは現在、競走前、競走後あるいは調教時の薬物検査において陽性反応が出た場合、出走馬への適正手続と賭事客の利益となる透明性との間で全体的バランスを保つことを追求しています」。
「私たちは新技術を念頭に置いて、この事柄を考慮しなければなりません。新技術はより早く結果を生むとともに、これまでにない透明性と出来るだけ多くの情報に基づいて馬券を検討することを望む賭事客を保護することになります」。
モリス氏は、より多くの調教師が選択的薬物検査を利用するよう奨励したいと考え検査結果は公表しないと述べた。
投与禁止時期が勧告されているコルチコステロイドのような薬物の数を増加させるため、海外の競馬統轄団体と一緒に取り組んでいるモリス氏は、次のように語った。「ヘンダーソン調教師は、選択的薬物検査を試みることで適切な行動をとりました。これこそが私たちが調教師たちに求めていることであり、それはつまり希望的観測に任せるのではなく実際に検査を受けてみることです」。
モリス氏は、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency: WADA)における議論の進展にも絶えず注目している。WADAは、ダブルチェックとしてのB検体テストは費用が掛かるにも拘わらず、A検体のテスト結果を確かめるだけであるため、B検体テストを廃止することの是非について提起してきた。
同氏は次のように語った。「スクリーニング検査が先ず行われ、陽性反応が出た場合に厳格な検査であるA検体テストが実行されることになるので、ある意味ではA検体テストはそれ自体スクリーニング検査に続く第2段階のプロセスなのです」。
By Howard Wright
[Racing Post 2011年6月1日「BHA considering new rule over positive drug tests」]