馬の故障を追跡するプロジェクトのために集められたデータを分析した疫学者たちによれば、人工馬場での予後不良事故は、ダート馬場での予後不良事故に比べて統計的に有意に少ない。
2010年10月31日までの2年間における延べ75万4,932頭の出走馬を対象に調査したところ、予後不良事故の発生は、ダート馬場で出走馬1,000頭につき2.14頭の割合であったのに対して、人工馬場では出走馬1,000頭につき1.51頭の割合であった。
なお、この調査における全体の予後不良事故率は出走馬1,000頭つき2.00頭であった。
人工馬場における予後不良事故率の原データは一貫してダート馬場での予後不良事故率より低かったものの、当初集められたデータを調査した疫学者たちは、相対的なデータ不足のため統計的に有意な差異にはならないと述べていた。
しかし疫学者たちは、ここ6ヵ月の追加データの収集により状況は変わったと述べた。
米国のジョッキークラブに雇われて“馬故障データベース(Equine Injury Database)”というプロジェクトのためにデータ分析を行ったグラスゴー大学の獣医師で疫学者のティム・パーキン(Tim Parkin)博士は、「調査2年目に37万6,000頭の出走馬がデータベースに加わったことで、私たちはデータに見られる一定の傾向の正当性を統計的に立証できるようになりました」と語った。
そして次のように付言した。「追加データが調査に使えるようになり、より複雑な統計分析が実行されることになるので、いろいろな傾向がさらに浮き彫りになってくるでしょう」。
この調査に携わった疫学者たちは、予後不良事故率に差異が見られる理由については何も述べなかった。
今回行われた人工馬場の生体力学的調査によって、馬の肢は人工馬場をギャロップしているときはダート馬場よりも圧力やストレスに晒されにくいことが明らかとなったが、これらの調査は人工馬場で軟部組織の怪我が多く発症するという事実を無視していると主張するホースマンたちもいる。
人工馬場で軟部組織の疾病の発症率が高いことを明らかにした調査はまだなされていない。
分析によれば、芝馬場では、1,000頭の出走馬のうち1.74頭の割合で予後不良事故が起きた。また2歳馬の予後不良事故は、1,000頭の出走馬のうち1.51頭の割合であった。そして5歳馬は、1,000頭の出走馬のうち2.45頭の割合で予後不良事故を起こし、最も予後不良事故を起こしやすい年齢層であった。
データ分析はまた、予後不良事故率が競走距離、負担重量あるいは芝からダートへの変更には影響されないことを一貫して示している。
“馬故障データベース”は、レース中および調教中の予後不良事故を追跡するために2年以上前に設立された。その設立理由の1つは、2008年ケンタッキーダービーで入線後に亡くなった牝馬エイトベルズ(Eight Belles)の悲劇をうけ、競馬に対する市民監視が強まったためである。
競馬場の大半は、馬の予後不良事故や怪我に関するデータを送ることで、自発的にこの調査に参加した。
人工馬場とダート馬場での予後不良事故率の違いは今や統計的に有意であるとの結論が、競馬産業の関係者に議論を巻き起こすことは確実である。
多くのホースマンたちと競馬場は当初人工馬場を受け入れていたが、その後人工馬場は多くのホースマンたちや競馬予想屋の非難の的となった。そしてサンタアニタ競馬場は2010年、激しい雨が降ったときに一定した馬場状態を維持することが困難であるため、人工馬場を撤去しダート馬場に戻した。
By Daily Racing Form/Matt Hegarty
[Racing Post 2010年12月15日「Analysis shows lower US fatality rate on synthetics」]