海外競馬ニュース 2012年03月29日 - No.14 - 3
英国競馬界はオリンピックを上手く活用できるだろうか?(イギリス)[その他]

 英国と世界中の目がロンドン東部に釘付けになっても、英国競馬界は、2012年のオリンピックを上手く活用して好機にすることはできるだろうか? そのためには、オリンピックを開催するのと同じぐらいの努力が必要となるだろう。

 ロイド-ウェバー(Lloyed-Webber)卿はロンドンの劇場がオリンピックのために大不況に苦しむだろうと警告したが、競馬界の広報担当者とスポンサーは、競馬はオリンピックを上手く活用できるだろうと主張した。

 オリンピック開催期間中に90万人以上の観光客がロンドンに滞在すると予測され、競馬界のリーダーは、6月の欧州サッカー選手権と7月27日〜8月12日のロンドンオリンピックという夏のスポーツイベントにより活性化される国内市場から利益を得ることを望んでいる。ハンドボールや新体操のような目立たないイベントでさえもチケットが飛ぶように売れた関心の強さから判断すると、彼らの考え方は的を射ている。

 競馬界のオリンピックへの対応案作りに深く関ってきた競馬変革プロジェクト(Racing For Change: RFC)のCEOニック・アッテンボロー(Nick Attenborough)氏は、楽天的に考えている。

 同氏は次のように語った。「観光客は平均して8日間滞在しますが、滞在期間中のすべての日のオリンピックチケットを手に入れている訳ではないでしょう。従って、ロンドンにおいて何か活動させる余地があります」。

「私たちはまた、この期間中にレジャーを楽しみたいもののオリンピックチケットを手に入れる幸運に恵まれなかった英国人に対し、競馬を奨励する方法もあると確信しています」。

 RFCは英国内および海外で、観光局のほか飛行機内やフェリー内での広報を通じて競馬への関心を高めることを計画している。もう1つのアイデアは、競馬に行く可能性があっても、英語を流暢に話せない人々のために外国語の情報を提供することである。

 アスコット競馬場はオリンピック開催期間中に3日間の開催を施行し、国際的な話題を集めやすいシャーガーカップがオリンピック目当ての観光客の興味をそそることを期待している。今年のシャーガーカップ開催日は、オリンピック最終日前日の8月11日である。

 アスコット競馬場のPR部門トップのニック・スミス(Nick Smith)氏は、「オリンピック期間中は素晴らしい雰囲気に包まれるでしょうし、私たちにとって追い風になると思います」と述べた。

 競馬界はこれまで大規模なスポーツイベントとの競い合いをうまくしのいできた。ジョッキークラブ競馬場社(Jockey Club Racecourses: JCR)のPR担当役員であるスコット・ボウワーズ(Scott Bowers)氏は、「素晴らしい事例としては2010年のサッカーワールドカップがあり、その時カーライル競馬場は“家族の日”を催して1万1,000人弱の記録的な入場者数を打ち立てました。もしその数日前に英国チームが敗退していなければ、当日は英国チームが試合に出るはずの日でした。しかしそれにも拘らず前売券は良く売れていました」と語った。

 誰もが楽観的というわけではない。レヴォリューション・スポーツ・マーケティング社(Revolution Sports Marketing)のロッド・コーラー(Rod Kohler)社長は、競馬界がオリンピックを上手く活用しようと必死になるだろうと考えており、次のように語った。「競馬界は観光客の呼込みに異常に積極的になっていると思います。たぶんサンダウン、ケンプトンおよびアスコット競馬場は恩恵を受けるかもしれませんが、その可能性は小さいでしょう」。

 大規模なスポーツイベントの社会経済的影響について研究したリーズ・メトロポリタン大学の上級講師であるイアン・リチャーズ(Ian Richards)博士は、オリンピックの表彰式が終わってアスリートたちが帰国した後に競馬にとっての最大の恩恵がもたらされるかもしれないと考えている。

 同博士は、「オリンピック終了後にスポーツのライブ観戦およびテレビ観戦がブームとなる可能性があります」と語った。

 JCRは、オリンピック観戦のために多くの予算を費やす企業もあるので、競馬場における接待サービス市場が影響を受けるおそれがあることを認めたが、コーラー氏は、オリンピック見物の接待経費と比べればアスコット競馬場のボックス席料金はリーズナブルなので、競馬が受ける影響は最悪のものとはならないだろうと考えている。同氏は、「接待として顧客と過ごしたいときに、競馬場は十分価値のあるものです」と語った。

 大半のコメンテーターは、オリンピック開催期間中に競馬はマスコミの対象からはずれ、回復できないだろうと考えている。コーラー氏は、「オリンピック記事のために、新聞のスポーツ欄編集者はその他の記事スペースを絞らざるを得なくなるでしょう。私たちが皆知っているように、現在競馬記事は多すぎるのであり、オリンピックは、スポーツ欄編集者が競馬報道の削減の必要性を訴える言い訳となる可能性があるのです」。

 アッテンボロー氏は、RFCがこの問題を考慮していることを認め、「競馬報道は全国紙においては減少するでしょう。これは私たちがここしばらく懸念してきたことです」と語った。

 この点で、今回のオリンピックがもたらすものは、オリンピック自体にとっても競馬にとっても重要であるのかもしれない。オリンピックの主催者が、持続的な貢献にも拘わらずロンドン東部の一部のスタジアムが錆びついて空っぽになることを想像し眠れない夜を過ごすかもしれない一方、競馬界が恐れていることは、競馬番組の記事が全国紙から永久に無くなることである。

 不確定要素があるにしても、競馬界は、世界一大きなスポーツイベントと競合するときでさえ自らを売り込む努力をやめることはないだろう。

 アスコット競馬場のスミス氏は、「競馬界が弁解をするようになったらおしまいです」と語った。

By Tom Kerr

[Racing Post 2012年2月9日「Racing’s Torch Lit for Olympics」]