海外競馬ニュース 2012年06月21日 - No.26 - 3
ベルモント競馬場、再びセキュリティー馬房を設置(アメリカ)[開催・運営]

 6月9日にベルモントS(G1)の出走馬は、ニューヨーク州競馬賭事委員会(New York State Racing and Wagering Board: NYSRWB)が5月30日に発表した一連の措置により、厳格なセキュリティーおよび薬物検査の手順に従うことになる。

 これらの出走馬は、6月6日の正午までに1日24時間 NYSRWBの調査員と民間の警備員が警備するベルモントパーク競馬場のセキュリティー馬房に入ることになる。セキュリティー馬房にアクセスできるのは、当該馬の調教師、調教助手、厩務員、ホットウォーカー、獣医師および馬主に限られ、いずれの訪問者も時間と理由を記したログシートに署名しなければならない。また訪問者は管理上の調査と、すべての馬具、飼料、干し草、草梱などのNYSRWBによるチェックを受けなければならない。

 馬がセキュリティー馬房に到着した際、禁止薬物を検査するために、血液を採取される。また、馬の治療は入念に監視され、獣医師が随行員を連れて巡回すると、NYSRWBは語った。

 獣医師は6月6日〜7日に、予定する治療を文書で通知するよう要求される。そしてこれらの治療は警備員によって監視される。競走前日(6月8日)は、獣医師はNYSRWBの調査員とアポイントを取らずに馬に治療薬を投与することは許されず、当日(6月9日)には治療は緊急事態及び、裁決委員が許可した場合のみ許容される。

 この措置は、競馬界と州職員の双方に批判がなされ、競馬の公正確保への容赦ない攻撃が行われている時期にとられたもの。すなわち、アケダクト、ベルモントおよびサラトガ競馬場を運営するNYRA(ニューヨーク州競馬協会)は、アケダクト競馬場の冬開催における一連の予後不良事故とNYRAの2010年と2011年におけるエキゾチック馬券の控除率についての調査を受け、監視下に置かれており、NYRAの競馬場運営権は危機に晒されている。このため、NYRAは5月下旬アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)ニューヨーク州知事と、NYRAの理事会を解散させ、新しい任務の大部分を同知事と州議会に与えることに合意した。

 一方、すでにケンタッキーダービー(G1)とプリークネスS(G1)を制し、34年ぶりの三冠馬を目指すアイルハヴアナザー(I’ll Have Another)を管理するカリフォルニア州を拠点とするダグ・オニール(Doug O’Neil)調教師がベルモントSに臨むことに対し、競馬界への批判は一部で大きくなっていた。

 オニール調教師は過去において、管理馬から高レベルの全二酸化炭素が検出され、4回罰則を科されている。時にはミルクシェイクと呼ばれる疲労を避けることを目的とするこの物質が馬に投与されていた可能性がある。オニール調教師は5月下旬、どの管理馬にもミルクシェイクを投与したことはないと否定したが、2010年に高レベルの全二酸化炭素が検出されたことで、カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)によって45日間の調教停止処分を科されている。ただしこの処分は7月まで適用されない予定である。この裁定では全二酸化炭素が微量であったため、ミルクシェイクが馬に与えられていたことは結論付けなかったが、調教師は過失であろうと故意であろうと、管理馬に責任を負うとするルールによって、調教停止処分が科されたもの。

 オニール調教師は5月30日、ベルモントS出走に向けてのセキュリティー措置には何の問題もないと述べた。アイルハヴアナザーはプリークネスS翌日の5月20日からベルモント競馬場に滞在している。オニール調教師は5月末にベルモント競馬場入りした。

 オニール調教師は、「馬を3日前にセキュリティー馬房に動かすことは馬の気を散らせますが、馬を十分に信頼しており、競馬を愛する人々に出走馬全頭が同じロッカールームに収容されているのを見せるのに素晴らしい方法です」と語った。

 5月下旬にベルモントパーク競馬場の裁決委員はオニール調教師に対し、アイルハヴアナザーはベルモントSにおいてネーザル・ストリップ(鼻腔の上に貼り付け、内腔を拡大することで、吸気抵抗の軽減をはかるテープ)を使用することはできないと伝えている。なお、同馬はケンタッキーダービーでもプリークネスSでもネーザル・ストリップを使用していた。

 現在のところ、ベルモントSに出走予定の12頭のうち9頭がすでにベルモントパーク競馬場に到着している。2・3番人気が予測されるユニオンラグス(Union Rags)は未着で、同馬はメリーランド州のフェアヒル調教センター(Fair Hill training center)でマイケル・マッツ(Michael Matz)調教師に管理されている。

 マッツ調教師は5月30日、ユニオンラグスを6月6日か7日にベルモントパーク競馬場に輸送予定であると述べていた。

 同調教師は、5月26日にベルモント競馬場の裁決委員とスケジュールについて話し合ったが、5月30日まで、新しく設置されるセキュリティー馬房の手順については聞いていなかったと語った。

 同調教師は、「驚きました。彼らはベルモントS間近なのに、このようなルールを作るのですか?」と語った。

 このセキュリティー馬房は、2005年初めから5年間NYRAが導入していたセキュリティー馬房と同じコンセプトでベルモントSのために設立されたもの。

 しかしNYRAは管理馬を隔離することに対しホースマンから苦情を受けたことと、年間120万ドル(約9,600万円)と言われるセキュリティー馬房の運営費を理由に、この方針を破棄していた。NYRAはこのような馬房を使用する米国で唯一の競馬統轄機関であった。

 NYSRWBのスポークスマンであるリー・パーク(Lee Park)氏はベルモントパーク競馬場のセキュリティー馬房の運営手順のすべては6月6日の正午に開始されると語った。しかし、調教師が馬を環境に慣れさせるために6月6日以前に移動させることを望むとすれば、それは可能となるだろう。

 パーク氏は、「それはNYRAと裁決委員の話し合いによって取り扱われるべきこととなるでしょう」と付言した。

By Matt Hegarty
(1ドル=約80円)

(関連記事)海外競馬ニュース2010年No.33「ニューヨーク競馬協会、セキュリティー馬房を撤廃(アメリカ)」

[Daily Racing Form 2012年6月2日「Security barn returns for Belmont」]