ロイヤルアスコット開催で牝馬ブラックキャビア(Black Caviar)が素晴らしいレースを繰り広げたが、今こそ受精卵移植について議論する時である。
牝馬が受胎している時に胚を取り出し他の牝馬に移植される受精卵移植は、サラブレッドの牝馬を所有する馬主に利益をもたらす可能性がある。この方法は、今や日常的に広範に馬術の世界で活用されており、母馬が1年で1頭以上の仔を現役の競技馬のうちに出産することができるということを意味する。
サラブレッドの世界で受精卵移植が認められていないのは非常に残念なことである。ブラックキャビアは、なぜそれが検討されるべきであるかを考える絶好の例となる。同馬が繁殖牝馬となった場合、繁殖入り1年目に妊娠しない確率が10%、流産する確率が14%である。その後出産した仔の肢が曲がっているなどで競走できない可能性もある。さらに、ブラックキャビアは1年に1頭しか出産しないため、傑出した競走馬を生むチャンスは非常に小さくなる。
それに比べフランケル(Frankel)は、正常で生産力のある種牡馬になる確率が95%ある。獣医科学の進歩により、同馬は年間150頭の繁殖牝馬を容易に受胎させることができ、馬主に巨額の経済報酬を与えながら自身の遺伝子を広めスター馬を送り出す十分な可能性を持っている。
覚えておかなければならないのは、馬の卵巣の仕組みはウシやヒツジとは異なることである。このことが意味するのは、馬は性ホルモン治療によって(成熟卵作成を加速化させるために)過剰排卵させることが簡単ではなく、このため受精卵移植によって1年で出産できる頭数が非常に限られていることである。
胚は受精後7〜8日後に移植されるので、胚提供牝馬と胚受容牝馬がどちらも繁殖に適した状態となっており排卵が互いに2〜3日以内の差で行われる限り、移植の成功率は約85%である。サラブレッド産業における利点は、過剰生産のために現在妊娠していない“平凡な”繁殖牝馬が多くいるため、多くの理想的な胚受容牝馬が活用することができることである。
受精卵移植が認められるとさらに一歩踏み込んでクローンを作るのではないか、と人々は恐れている。しかしそうなる可能性は極めて低いと思われる。それは、クローンは両親と同じ遺伝子を持っているものの、クローンの仔馬は一般的に不完全な胎盤から生まれるためにどちらかと言えば貧弱でひ弱い競走馬にしかならないからである。そして、妊娠期間、誕生と育成、調教などの違いというような外的影響を考慮に入れなければならない。馬にクローン技術を適用する唯一の利点は、トップクラスの障害競走馬のようなせん馬でも子孫を残しその優良遺伝子を広めることができるということである。
受精卵移植は単純な技術であり、脅威を感じるようなものではない。それはサラブレッド産業とりわけ牝馬の馬主に遺伝上および経済上大きな利益をもたらす可能性がある。受精卵移植は人工授精とは全く別ものであり、両者に関係はない。
By Twink Allen
[Racing Post 2012年7月6日「'Black Caviar is perfect example of the value of using embryo transfer'」]