海外競馬ニュース 2013年08月29日 - No.35 - 2
競馬から同着判定が消滅することは寂しい(イギリス)[その他]

 同着についての問題は、最近はその件数が少なくなっていることである。決勝審判委員のデイヴ・スミス(Dave Smith)氏が、ケンプトン競馬場で誤った同着判定を行ったため、今後判定を行うには不適格だとされても、それは不名誉なことではない。競馬界、とりわけ賭事客が求めているのは、より多くの同着なのである。

 “鼻差”が導入されて以来、私たちは以前にもまして同着を求めている。短クビ差で負けるのも悔しいが、鼻差で負けるのはもっと悔しい。デジタル技術が進んで馬の毛や髭の差にまで及んだら、最悪である。

 写真判定用カメラが発明される以前は、今よりずっと多くの同着があった。米国では1930年代前半までには写真判定が当たり前となったが、英国ではその10年後でも使用されていなかった。ジョッキークラブは急いで導入する考えはなかったが、その後遂に尻に火がつき、1947年にその最新装置がエプソム競馬場で初めて使用された。

 写真判定の導入は上出来で、20年も経たない1966年に、1968年末までには大半の競馬場で写真判定装置が使用されるようになるだろうと発表された。そして1983年までにはどこでも写真判定用カメラが使われるようになった。当時ジョッキークラブと競馬場はとにかく導入を急がされていた。

 この間、決勝審判委員の判定が物議を醸すことがあった。実際に際どい勝負の判定をした決勝審判委員は、ボックス席から降りて行ったときに、激怒した賭事客と対峙することとなった。賭事客はあくまで礼儀正しさにこだわりつつ、「サー、正しい判定をしたと確信できますか?非常に僅差だったようですが」と言い、決勝審判委員は、「はいもちろんです。際どい僅差でした。正直言って、声が上ずったくらいです」と答えるという調子だった。

 スミス氏の判定ミスは、長い競馬史における最も新しい出来事である。1967年にニューキャッスルの4頭立てのチェイス競走で、決勝審判委員は、タンピ(Tant Pis)がモイドアズトークン(Moidore’s Token)を短クビ差で勝ったと判定したが、その後逆であったと発表した。

 1973年にカーライル競馬場の決勝審判委員は、ブラザーサマーズ(Brother Somers)がブラスファーシング(Brass Farthing)に頭差で勝ったと判定した。ブラスファーシングに騎乗し勝利を確信していたイアン・ジョンソン(Ian Johnson)騎手にとって驚きであった。しかし同騎手は、車で帰宅する途中に、決勝審判委員が判定ミスをしたことをラジオで聞いた。頭差で勝ったのはブラスファーシングだった。

 スミス氏は、誤審の多かった女性審判委員のスティッケルズ(“Calamity Jane”Stickels)氏と同じようにお目こぼしを受けなかったことで、自身は不当な扱いを受けたと感じているかもしれない。そのスティッケルズ氏は、極端な大失態を犯す2006年まで一連のしくじりを切り抜けて来ていた。

 スティッケルズ氏は1994年、ケンプトン競馬場で、アブサロムズレディー(Absalom’s Lady)とラージアクション(Large Action)を同着と判定した後でアブサロムズレディーが先着していることに気が付いた。またその5年後には、ニューマーケット競馬場のスパーレイティヴSで、フルフロー(Full Flow)がサディクウィル(Thady Quill)に勝ったと判定し、その後サディクウィルがフルフローに勝ったと訂正した。

 再教育を受けたあとも、スティッケルズ氏は、リングフィールド競馬場でミスダガー(Miss Dagger)が先に決勝線に到達し明らかに勝っていたのにウェルシュドラゴン(Welsh Dragon)を勝馬と判定し、最終的に自滅した。

 スミス氏、スティッケルズ氏などがいなくなり、またスキャンオービジョン(Scan-O-Vision)写真判定カメラが1秒に2,000回まで決勝線をスキャンし、数百万ピクセル(画素)の写真が作成されるようになったことで、同着判定は消滅するのではという危機に立たされている。

 支持する馬が勝馬と判定されるのはもちろん歓迎すべきことだが、そうでない場合は最悪なので、画素のレベルでもほとんど差がなければ、賭事客そしておそらく馬主、調教師、騎手の大半も満足して同着判定に甘んじるはずである。リチャード・リー(Richard Lee)調教師とヴェネシア・ウィリアムズ(Venetia Williams)調教師は、1月のルドロー競馬場でのミロミラン(Milo Milan)とライダリス(Rydalis)の同着判定後にそう述べた。また6月23日のポンテフラクト競馬場でティートータル(Teetotal)とアヤシャ(Ayasha)の写真判定の結果待ちの間、ほとんどの賭事客が同着を望んでいるだろうというのが私の考えだったが、最終的に同着という結果となった。

 以前は同着判定にはオッズの半額が払戻されていたが、完璧な判定を行える人間は存在せず、あなた方が上手く要請すれば、彼らは自分達の方法を変えると私は確信している。

 判定結果を確実なものとするために最新技術を存分に活用する議論は非常に魅力的なものであるが、それが合理的だという現実は歓迎される訳ではない。私は決勝審判委員がほどほどの精度の写真とルーペだけ携えているのを目にしたい。シャーロック・ホームズはルーペだけで完全な仕事を成し遂げて見せた。実際、『青いガーネット(The Adventure of the Blue Carbuncle)』で帽子を調べる場面でのルーペの価値は誰も忘れられない。

 決勝審判委員がルーペだけで判定すれば、疑わしいときは同着とするだろうから、賭事客にとってはより良い世界となるだろう。

 しかし、残念なことに引き返すには遅すぎる。私たちは、前を見て進まなければならず、そのことが私たちを本日サンダウン競馬場で施行される準重賞コーラルマラソンSに導いてくれる。ところで私には5番人気のリピーター(Repeater)が勝馬であるように思われる。

By David Ashforth

[Racing Post 2013年7月6日「Dead-heats are becoming extinct and it’s sad to see」]