海外競馬ニュース 2013年09月05日 - No.36 - 1
ドイツ競馬が生んだキングジョージ勝馬ノヴェリスト(イギリス)[その他]

 ドイツの競馬は今波に乗っていると言えるだろう。2011年凱旋門賞(G1)2012年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 2400m におけるデインドリーム(Danedream)の優勝によって、ドイツ血統の優秀性を示したが、ドイツ国内での競馬運営状況には暗雲が漂っている。

 ドイツの競馬は他のスポーツ賭事に人気を奪われたことで、乏しい賞金額の問題に悩まされている。7月27日のキングジョージノヴェリスト(Novellist)が圧勝し、その状況に変化があるかどうかは現時点で不明であるが、同馬のグングン伸びるストライドは明らかに魅力があった。

 ノヴェリストは、力強いフットワークで先行馬を見ながら、残り400mの地点で楽々先頭に立ち、アスコット競馬場の人々の目を見張らせた。そしてこの地点からどんどん加速し、余力のない2頭の3歳馬トレーディングレザー(Trading Leather)ヒルスター(Hillstar)をさらに引き離した。

 世界最高レーティング馬として正式に評価されているのはシリュスデゼーグル(Cirrus Des Aigles 7歳せん馬)かもしれないが、このレースではほとんど見せ場を作れなかった。オッズ2.5倍で一番人気だったが、騎乗したクリストフ・スミヨン(Christophe Soumillon)騎手は、4着が精一杯だったレース後、同馬はまだ全盛期の状態を取り戻していないと語った。

 10月6日ロンシャン競馬場で開催される凱旋門賞へのノヴェリスト(鹿毛、父モンズーン、母ナイトラグーン、母父ラグナス)の道は開かれており、そのときが改めて同馬を評価する良い機会になるだろう。レース中盤のペースが速かったことが、これまでの記録を2秒以上縮める2分24秒6のキングジョージレコードタイムとなった要因だろう。この展開で、先行していたエクティハーム(Ektihaam)ユニバーサル(Universal)が一杯となって、有力馬に欠けることもありノヴェリストの圧勝を際立たせたのかもしれない。

 セントニコラスアビー(St Nicholas Abbey)が調教中に繋ぎ部分を骨折したことで出走を取りやめ、今年のキングジョージはチャンピオンシップに相応しい出走馬が不足しているように見えた。しかし、ドイツ産馬は思い通りに走った。ノヴェリストがここで見せたように、ドイツ産馬は4歳で急成長することがある。

 ノヴェリストは、馬主でかつてドイツジョッキークラブのCEOを務めていたクリストフ・ベルグラー(Christophe Berglar)氏の生産で、アンドレアス・ヴェーラー(Andreas Wohler)厩舎に預託された。ヴェーラー調教師は、パオリーニ(Paolini)2004年ドバイデューティフリーS(G1)を制するなど各国で勝利を挙げている。6月の英ダービー(G1)ではショパン(Chopin)が残念な結果に終わったものの、ノヴェリストの可能性には期待していた。

 ノヴェリストはこれまで10戦8勝だったが、この2つの敗戦こそ重要であった。それは、最後の直線でパストリアス(Pastorius)を追いあげて2着となった昨年のドイツダービー(G1)と、デインドリームの4着だったドイツの看板レースのバーデン大賞(G1)である。残念だったのは、厩舎があるケルン地区で伝染性貧血が発生したために、デインドリームが2012年凱旋門賞へ出走できなかったことである。

 すでにアイルランドで調教活動を行っているジョン・ムルタ(John Murtagh)騎手(42歳)にとってもこの勝利は終盤に差し掛かっている騎手生活において新たな章を加えた。今シーズンG1競走4勝目であり、昨年より2勝多い。ムルタ騎手は、“賢くならなければ、年を取る意味はない”という格言の良い例である。

 キングジョージの道中、ノヴェリストが力強く走行していたが、ムルタ騎手はこの並外れた勝ち時計には気づかなかった。

 同騎手は、「ノヴェリストがそんなに速いタイムで走っているとは思いませんでした。その馬体を伸ばして走る形が好きです。本当に集中し、全力で走りたがっていました。まさに昨日5馬身差の楽勝ではないものの、このレースで優勝する夢を見ました」と語った。

 前走で愛ダービー(G1)を制したトレーディングレザーとヒルスターは、今シーズン初めての国際的な古馬との混合戦で健闘し満足している。今後トレーディングレザーは、8月21日にヨーク競馬場で開催されるインターナショナルS(G1 2000m)を目指すだろう。インターナショナルSには、故障でダービーを断念し7月18日のレイチェスター競馬場での復帰戦を格下馬相手に完勝したテレスコープ(Telescope)も出走するかもしれない。

 またフランスでは、吉田照哉氏のイルーシヴケイト(Elusive Kate 父イルーシヴクオリティ 母グードテロワール 母父レモンドロップキッド)が7月28日にドーヴィル競馬場の牝馬限定マイル競走のロトシルト賞(G1)を楽勝した。

 このレースでうまく2着に食い込んだジョン・ゴスデン(John Gosden)厩舎のダントル(Duntle)も、激しい流れの1600m競走のチャンピオンシップ競走において、存在感を見せつけるだろう。今シーズンは半分を過ぎたところであるが、全ての競走距離で真のチャンピオンが待望されている。

By Julian Muscat

[The Blood-Horse 2013年8月3日「German Power」]