ノーネイネヴァー(No Nay Never)とは、「ない、ない、決してない」という意味だが、米国調教馬のモルニ賞(G1)優勝を目の当たりにした後では、この言葉を口にすることはできない。米国調教馬初の仏G1勝利は偶然によるものではない。
それを米国人はチャレンジ(challenge 挑戦)と呼び、フランス人はデフィ(défi 挑戦)と呼ぶ。ワシントン生まれのウェスリー・ウォード(Weslay Ward)調教師は、欧州の最優秀2歳馬決定戦のモルニ賞(G1)を制し、この果敢な挑戦は人々を魅了した。脚本家マルセル・アシャールは「重要なのは成功することではなく挑戦することだ」と断言していた。しかしノーネイネヴァーの関係者は、“挑戦する”ためだけにこの遠征を決めたわけではないだろう。スキャットダディ(Scat Daddy)産駒のこの勝利は、偶然の巡りあわせではなく、各過程で米国生まれのプロ意識が見られた。とくに馬に多くの課題を課す米国流の調教は、この馬の貴重なスピードと早熟性のブレンドを発揮させた。そういうわけで、前走のアスコット競馬場でのノーフォークS(6月20日G2)を優勝した後、同馬は欧州に滞在せずに一たん米国に帰っていた。ウォード調教師はモルニ賞前日の朝、本紙に「毎日同馬の具合を見たかったのです」と説明した。輸送疲れをある程度心配していたのは確かだが、同馬は欧州に到着するとすぐにいつもの習慣を取り戻した。それは、フレディ・ヘッド(Freddy Head)調教師が好んで口にする「騎手は80%の直感と20%のルーティンだが、調教師はその全く反対である」という言葉を思い出させる。
綿密な事前準備
メキシコ出身で3,000勝以上挙げているデヴィッド・フロレス(David Flores)騎手にもプロ意識があった。同騎手は、ドーヴィル競馬場の直線コースで映画業界が“ロケハン”と呼ぶ現場の下見をするよう、ウォード調教師から指示されていた。1回目はモルニ賞の前の週の木曜日に施行されたヴァレドージュ賞(1000m)、2回目は前日のカルヴァドス賞(1400m G3)での騎乗だった。このためモルニ賞騎乗の際はレース中に2回振り返る余裕があった。まず最初はレース序盤に内埒に寄る際に他馬の進路を妨害していないかを確かめるため、そしてその次は残り500mの地点で仕掛けのタイミングを図るため他馬の様子を窺った。軽快かつ芸術的な走りでこの3歳馬は他の馬を圧倒した。
レース前に不安もあった。ウェスリー・ウォード調教師の作戦は最終段階で中止される可能性があった。一滴の雨でもこの馬にとっての不安材料であった。しかし全く幸運なことに、前日と当日朝の雨で懸念されていたにも拘わらず、馬場はあまり重くはなっていなかった。同日に施行された1000mの競走の勝ち時計がそのことを物語っており、サラリュシル(Sara Lucille)は57秒15、カスピランプランス(Caspian Prince)はカニー賞を57秒77で制し、ブロンヴィル賞を制したマランギュ(Marangu)の勝ち時計は57秒97でこのハンデ戦のレースレコードだった。
米国人はタイムを縮めることに力点をおく。ノーネイネヴァーはゴール前の400m〜200m地点で驚異的な加速力を見せ(10秒79)、モルニ賞1200mを1分9秒82で駆け抜けた。2009年のアルカノ(Arcano)の信じられないようなレコード1分7秒90には程遠いものの、素晴らしい勝ち時計であった。アルカノは数年後には誰の記憶にも残らず、付随的でさほど評価されることなく思い出されるだけだろうが、その反面、ノーネイネヴァーはこれからもその素晴らしいキャリアについて多くが書かれ、より人々の記憶に残るだろう。米国の偉大なシナリオライターのプロ意識とともに。
By Francois-Charles Truffe
[Paris Turf 2013年8月20日「Victoire made in USA」]