海外競馬ニュース 2013年10月03日 - No.40 - 1
すべての競馬国での薬物使用禁止ルールの統一を望む(国際)[獣医・診療]

 あの有名なローズクリケット競技場でオーストラリアチームの1、2番打者ペアが幅6インチ(約15 cm)のバットを持って登場する場面(訳注:公式ルールでバットの幅は4.25インチ(約10.8 cm)以下でなければならない)、あるいはサッカーのイングランドチームがウェンブリー・スタジアムで11人ではなく13人の相手チームと対戦する場面を想像してほしい。試合が始められる訳はなく、そんなスポーツは物笑いの種となるだろう。ルールはルールなので、誰もが従わなければならならない。

 しかし、競馬はその例外であるように見える。毎回さまざまな国から遠征してくる馬が互いに競い合っているが、ある国の馬はあるルールで管理され、また別の国の馬は異なるルールで管理されているため、公正な競走とは言えないからである。

 不統一が生じている重大な分野は薬物で、中でもアナボリック・ステロイドである。マームード・アル・ザルーニ(Mahmood Al Zarooni)調教師の残念な禁止薬物使用事件からの興味深い副産物の1つは、競走馬への薬物使用に対する他国の反応である。

 私には彼らはあまり重要視していないように見える。いろんな人の意見を聞くところによれば、競馬は薬物との闘いにおいて他のスポーツよりも数十年遅れている。競馬は最強の馬が最高のレースを制するスポーツでなければならず、薬物に支えられた馬が最も能力を発揮するというものであってはならない。

 このことで思い出されるのは、30年以上前の鉄のカーテン時代のオリンピックである。その当時、ソビエト圏の各国指導者たちは、選手のトレーニングに不可欠のものとしてアナボリック・ステロイドを使用していたとされており、選手たちは長年オリンピックの一定種目で優位を占めていた。

 ベルリンの壁崩壊と東西ドイツ統一、そして共産主義の衰退以降、国際陸上競技連盟(International Association of Athletics Federations)は、選手によるアナボリック・ステロイドのような薬物の使用が発覚するリスクを大幅に高めることとなった抜き打ち薬物検査プログラムの実施に成功している。

 競馬は、総じてこのシナリオからはるかに遠く離れている。ブリーダーズカップなどの一流の国際競走が、世界アンチ・ドーピング機関(World Anti-Doping Agency)の禁止薬物リストに掲載されているラシックス(Lasix)のような、競走能力をアップさせる検出可能な利尿剤を使用して出走することを許容しているのを考えると、競馬が他のスポーツからいかに大きく立ち遅れているかが分かる。

 幸いなことに、米国はラシックス使用を容認しているごくわずかな国の1つである。英国はBHA(英国競馬統轄機構)のリーダーシップの下で、絶対ではないものの薬物に対してほぼゼロ・トレランス主義(zero tolerance: 0以外は陽性)をとっており、ラシックス使用は禁止されている。

 例えば、英国ではアナボリック・ステロイドを輸入し販売することは禁じられている。アナボリック・ステロイドはクラスCに分類されており、処方箋なしでの所持は違法である。しかし、アル・ザルーニ元調教師のケースで示されたように、犯罪の達人でなくてもその入手は可能である。

 もしそれを手に入れることができれば、見つかることなしに競走馬に投与することができるだろう。それを自身の敷地内や無認可施設で使用し、馬体内で消滅するのに必要な時間を与えて調教場に戻せばよいのである。検査員が来たとしても非難されるようなことは何も出てこないだろう。

 私はアナボリック・ステロイドを目一杯投与されている馬が数百頭いると言っている訳ではなく、この薬物の使用は現実に可能であり英国で使用可能なのであれば、薬物使用にずっと寛大な態度の国々では広範に使用されていることはほとんど確実だと言っているのである。

 全く満足いかない現状である。他のスポーツと同じ方向に進んでいくために集中的に努力すべきであり、そうすれば世界全体で競走馬の能力を高めるための薬物が禁止されることとなる。それはいつか実現するだろう。

 そのためには、実施の意思表明、強いリーダーシップおよび資金のほか、最も重要なものとして考え方そのものの変化が必要である。世界全体でラシックスやビュート(Bute)などの競走当日の使用を禁止することが最初の一歩となる。アナボリック・ステロイドは競走で優位に立つ手段と考えられるべきではなく、不正であり、世界中の競馬界が甘受すべきでない違反であり馬の実績も台無しにしてしまうとされるべきである。

 アナボリック・ステロイドが使用される方法からすれば、その使用者を暴く唯一現実的な方法は抜き打ち検査であり、それは調教中の馬だけでなく放牧中の馬も検査することを意味する。

 馬をスポーツ選手として扱うこと。そうすれば、馬主はいつでも所有馬の居場所を把握しておかなければならず、オリンピックと同様に、意図的に検査員を欺いた場合には、馬に1年の出走停止処分が与えられ、陽性反応が出ればおそらくより長い出走停止処分が科されるべきである。しかしそれには、違反がないことを保証するためすべての競馬国が全力を傾けることが必要となる。

 マーティン・ドワイヤー(Martin Dwyer)騎手がつらい経験をしたように、相互協定への国際協調のシステムには規律の弱い面がある。したがって、騎手や調教師だけでなく馬と馬主を取り込むようにそれを拡大してはどうだろうか?

 すべての国が薬物禁止の覚書に署名することになれば、世界の競馬がオリンピックと同様に前向きに進んで行くことができるだろう。

By Colin Russel

[Racing Post 2013年8月21日「Rules are rules‐except in our sport」]