フランキー・デットーリ(Frankie Dettori)騎手が関わっているところに退屈などない。
米国最古の競馬場でのデビューは、何か特別なものを期待させたが、このような波乱に満ちた展開を誰も予想していなかった。
デットーリ騎手のサラトガ競馬場での1日は、手短に言ったとしても長たらしくなってしまう。遅れて到着し、スーツケースを紛失し、競馬場まで警察にエスコートされ、2鞍乗り損ね、乗馬ズボンを借り、レースで2勝し、そして観衆が名前を繰り返し呼ぶので同じ馬から2度フライングディスマウント(訳注:ジャンプで下馬すること)をした。
デットーリ騎手は、すでに数日前から多忙を極めていて、水曜夜にはイスタンブール、木曜夜にはドンカスター競馬場で騎乗していた。午前11時のフライトでヒースロー空港からニューヨークに向かう時に、騎乗道具一式の入ったスーツケース無しで出発したことなど知る由もなかった。
ジョン・F・ケネディ国際空港から、ニューヨーク州の州都オールバニまではプライベートジェットで移動した後、競馬場までは警察のエスコートを受けたが、ウェスリー・ウォード(Wesley Ward)厩舎の2頭の騎乗に間に合わなかった。ロイヤルアスコット開催の常連ウォード調教師の騎乗依頼により、この43歳のスーパースターはサラトガ競馬場に来たのである。
第7レースがデットーリ騎手のサラトガ・デビュー戦となったが、着用するものがない。ラジヴ・マラージ(Rajiv Maragh)騎手から乗馬ズボンを借用し、ジュリアン・ルパルー(Julien Leparoux)騎手に鞭を譲って貰ったが、その後もごたごたは収まらなかった。
デットーリ騎手の騎乗馬ティズサードニックジョー(Tiz Sardonic Joe ウォード厩舎)は発走前に落鉄した。しかし、裁決委員は蹄鉄を替えるために発走を遅らせるよりも、同馬はレースに参加できるがそれは賞金のためだけに限ると決定した。同馬は僅差の2着となったのに、馬券では無視されるというのは異常な出来事であった。
第8レースで再びウォード&デットーリ・コンビのアバンチュールラブ(Aventure Love)が出走したが、今度はすべてが計画通りに運び、デットーリ騎手は道中ずっと先頭のままでゴールした。
フライングディスマウントを決めた後すぐに、サラトガ競馬場の大喜びの観衆の「フランキー!フランキー!」というコールに包まれたが、気持ちを落ち着かせるや否や、デットーリ騎手は公式写真のために再び馬に乗るように頼まれた。そしてまた、同じ馬から2回目のフライングディスマウントを行った。
デットーリ騎手は、「最高の気分です。子供に戻ったようです。25年間ずっとこれをやってみたかったのです。ここには月曜日までしかいませんが、また戻ってくるかもしれません」と語った。
今年で146回目となる40日間のサラトガ夏開催の初日の入場者数は、2万5,612人にも上った。
デットーリ騎手は次のように続けた。「ここに着いた時、ディズニーランドに来たような気分になりました。多くの人々がいて、楽しい雰囲気でした。もしかしたら来た場所を間違えたのかもしれないと思いました」。
最終第10レースで、デットーリ騎手は再びウォード厩舎のジェットマジェスティ(Jet Majesty)で2勝目を挙げ、3度目のフライングディスマウントを行った。
「みんなから少しずつ道具を借りました。明日、私の騎乗道具が届けば良いのですが、届かなければこの幸運な道具を持って帰ります」。
By Nicholas Godfrey
[Racing Post 2014年7月20日「Dettori double on crazy day at Saratoga」]