米国の卓越した牝馬テピン(Tepin)は、ウェスリー・ウォード(Wesley Ward)厩舎の所属馬以外でロイヤルアスコット開催において勝利を挙げた唯一の米国調教馬である。
マーク・カス(Mark Casse)調教師に管理され米国最優秀芝牝馬に2回選出されたテピンは、4歳のときに2015年BCマイル(G1 キーンランド競馬場)で牡馬を相手に優勝した。そして、5歳のときに英国に遠征して2016年クイーンアンS(G1 約1600m)で記憶に残る勝利を挙げ、G1・6勝を果たした。
2016年BCマイル(サンタアニタパーク競馬場)で2着となった後は出走せず、軽度の疝痛のために2017年の初戦として目指していたレースに参戦しなかった。しかし、クイーンアンS連覇に向けて今年の夏もロイヤルアスコット開催に再び遠征するかもしれないという期待は高かった。
ところが4月18日、カス調教師はテピンの引退を発表し、本誌に対してこう語った。「テピンはもう競走生活を続けたくないようです。心身ともに良い状態ですが、以前のように調教に対する意欲がなくなりました。私たちはこれまで、テピンがそのような様子を見せる日が来たら、それに従おうと話してきました」。
アスコット競馬場の競走・コミュニケーション担当理事であるニック・スミス(Nick Smith)氏は、この素晴らしい牝馬に敬意を表してこう語った。「テピンは、昨年のクイーンアンSで歴史的な勝利を収めました。競馬の国際舞台における真の快挙であり、米国調教馬が欧州の最高レベルの芝のマイル戦で、ラシックス(訳注:フロセミドの商品名。別名サリックス。運動性肺出血の予防及び治療に使用される)を使わずに勝てることを示しました」。
「国際色豊かなロイヤルアスコット開催において、2003年に豪州のショワジール(Choisir)がゴールデンジュビリーS(G1 約1200m)で優勝して以来、テピンの勝利は最も重要な瞬間でした。今年もテピンの参戦を望んでいましたが、そのようなことはすべてが万全な状態でなければ実現しません」。
テピン(父バーンスタイン)はロバート・マスターソン(Robert Masterson)氏の所有馬である。2歳のときにダートのG3を制したが、ほとんど注目されていなかった。しかし、芝に転向してからの活躍は"驚くべきもの"と言っても過言ではなかった。
2016年BCマイルでは王座を譲ってしまったが、テピンは最後の2シーズン(2015年・2016年)で15戦11勝を果たし、2着より悪い着順はなかった。
テピンにとって最大の試練はロイヤルアスコット開催への挑戦だった。ラシックスを使えないだけでなく、それまで経験したことのない数日間の雨で柔らかくなった直線コースで欧州の芝のマイル戦の神髄に触れた。さらに、テピンが習慣的に装着している鼻腔拡張テープ(同馬の3歳から4歳にかけてのパフォーマンス向上の1つの要因に挙げられる)は英国では使用が禁止されている。このことも、テピンの英国遠征を台無しにするように思われた。
力量が試されるとき、テピンはどのような逆境も乗り越える。ハロン棒に差し掛かり、同馬は主戦のジュリアン・ルパルー(Julien Leparoux)騎手の合図に果敢に答え、ベラード(Belardo)を半馬身差で下して優勝した。カス調教師は「テピンにとって不利になることが沢山あったので、今でもそれが夢だったのではないかと考えることがよくあります。調教師人生において最高の出来事の1つであったことは間違いありません。私たちの前には多くのことが立ちはだかっていましたが、結局彼女の偉大さがすべてに勝りました」。
2017年は初戦としてドバイターフ(G1・3月26日)を目標としていたが、疝痛のために調教ができず回避することとなった。その後、テピンはパームメドウズ調教センター(フロリダ州)での調教を嫌がった。
マスターソン氏はサラブレッドデイリーニュース紙(Thoroughbred Daily News)にこう語った。「肉体的な不調は見つかりませんでした。テピンはただ走ることに興味をなくしていました。引退させるときだと考えました。彼女は私たちに何の負い目を感じる必要はありません。これまでで最高の芝の牝馬だったと言えると思います」。
「今シーズンは交配させるには遅すぎるので、その予定はありません。彼女の将来については、何も決定していません」。
By Nicholas Godfrey
[Racing Post 2017年4月18日「Royal Ascot heroine Tepin retired after losing enthusiasm」]