多くの人々は、クラックスマン(Cracksman)について"今年の凱旋門賞(G1)優勝馬になる"と考えていた。しかし、同馬が英チャンピオンS(G1)で驚くべきパフォーマンスを見せつけた今、もっと多くの人々が"来年の凱旋門賞優勝馬になる"と考えている。
クラックスマンはこの勝利により、父フランケルに欧州初のG1勝利をもたらした。英チャンピオンSは、フランケルが無敗の14勝目を達成した現役最後のレースである。
ジョン・ゴスデン調教師が管理するクラックスマンは凱旋門賞(シャンティイ競馬場)を回避したが、同調教師とフランキー・デットーリ騎手は優秀な牝馬エネイブルで欧州最高賞金の同レースを制した。2人は今や、エネイブルが来年10月にロンシャン競馬場で凱旋門賞連覇に挑むとき、最大のライバルは同じ厩舎にいることを心得ている。
クラックスマンは、グレートヴォルティジャーS(G2)で6馬身差、ニエル賞(G2)で3½馬身差の勝利を収めていた。しかし、英チャンピオンSはこれらのレースよりも競走距離が短く、初めての古馬との対戦であることで多少不安視されていた。ところが、クラックスマンはこれまでで一番破壊力のある走りを見せつけ、数々の強豪馬を撃沈させ、7馬身差の勝利を収めたのだ。
ゴールまで残り2ハロン(約400m)の地点で先頭に立ったクラックスマンは、地面をつかむように走り、スパートをかけた。そして2着のポエッツワード(Poet's Word)を寄せ付けず、総賞金130万ポンド(約1億9,500万円)の英チャンピオンSを制した。ハイランドリール(Highland Reel)は2着馬に首差の3着となった。
クラックスマンの馬主であるアンソニー・オッペンハイマー(Anthony Oppenheimer)氏は、2年前にゴールデンホーンが英ダービー(G1)や凱旋門賞を制し、馬主として頂点を極めていた。しかし、クラックスマンの今回の驚異的な勝ち方は、同氏を茫然とさせた。
オッペンハイマー氏はこう語った。「驚きました。1¼マイル(約2000m)でもこのような勝ち方をするとは思いませんでした。もっと長い距離の方が良いかと思っていました。この距離を得意とする強豪馬を相手にするので、難しいレースになると考えていました」。
「クラックスマンはただ前進しただけですよね?私たちはとても驚いています」。
G1を数回制しているハイランドリールに騎乗したライアン・ムーア騎手は馬場状態が比較的良い場所を求めて、以前バーリ(Bahri)が通った外埒沿いの木の下を走るという積極策に出た。そして最終コーナーになってから内側に向かい馬群に合流したが、その策は結果に繋がらなかった。それほどクラックスマンの調子は良かった[訳注:なお、1995年クリーンエリザベス2世S(G1)で外埒沿いを走ったバーリは、コーナーで勢いよく内側に切り込み、最終的に6馬身差の大勝利を収めた]。
ゴスデン調教師はこう語った。「クラックスマンはひと回り大きくなり、一段と強くなったようです。階級が上がったボクサーのようです。ミドル級から始め、今ではライトヘビー級です。ずいぶんと実力をつけました。このような重い馬場にも、良馬場にも対応できます。今日はどの馬よりも状態の悪い馬場をうまくこなし、正攻法で優勝しました」。
「以前はバタついているようなところがありましたが、見違えるほど成長しました。3着に敗れた英ダービーでは、タッテナムコーナー(急勾配の左カーブ)から下ってくるときに馬群の中でごちゃつきました。しかし、競馬を覚えたようです。彼の母馬も管理しましたが、彼女もとても丈夫な馬で、シーズン後半で良化していました」。
「フランケル産駒が父の勝ったレースを制したのは、素晴らしいことです。それに、フランケル産駒による初めての欧州G1勝利となりました」。
ゴスデン調教師はクラックスマンの凱旋門賞回避を後悔しておらず、こう語った。「凱旋門賞は難しい決定でした。しかし、エネイブルのほうがクラックスマンよりもレース慣れしていたことから、わずかに優勝に近いと感じていました。シャンティイはロンシャンとは違います。絶妙な位置取りをして、コーナーでスパートをかけなければならず、簡単に勝てません。アンドレ・ファーブル調教師は、"最も実力のある馬がシャンティイではトラブルに陥りやすい"とよく言います。回避は正しかったと思います」。
2018年凱旋門賞では、クラックスマンには7倍、エネイブルには4倍のオッズがついている。
優勝馬から引き離されての2着だったポエッツワードの関係者たちは、同馬が愛チャンピオンS(G1)2着の実力を証明したことで、大いに喜んでいた。
馬主のサイード・スハイル(Saeed Suhail)氏のレーシングマネージャーであるブルース・レイモンド(Bruce Raymond)氏はこう語った。「ポエッツワードは素晴らしい競馬をしました。彼にとっては重い馬場でしたが、目覚ましい走りを見せてくれました。せいぜい4着かと思いましたが粘り続けて2着となりました。来年も現役を続行します。とても楽しみです」。
ハイランドリールの最後まで反撃する姿勢は、次走のBCターフ(G1)に向けて勇気づけられるものとなった。同馬は昨年BCターフを制している。
エイダン・オブライエン調教師はこう語った。「ハイランドリールのパフォーマンスには満足しています。しばらく走っていませんでしたし、重馬場は得意ではありません。だから、とても嬉しく思います。米国に遠征したいと思います。外埒沿いは優位に立つことのできる唯一の場所でした」。
By Jon Lees
(1ポンド=約150円)
[Racing Post 2017年10月21日「Cracksman powers to an awesome victory leaving connections in shock」]