父と子は大西洋を隔てて離れ離れだったが、ローリーマイルコース(ニューマーケット競馬場)で達成した重大な瞬間に心が一つになった。ディープインパクト産駒のサクソンウォリアー(Saxon Warrior)が英2000ギニー(G1)で猛烈なパフォーマンスを見せ、父のエイダン・オブライエン調教師にG1・300勝目、息子のドナカ・オブライエン騎手(19歳)に貴重なクラシック初勝利をもたらしたのだ。
6年前、ドナカの兄ジョセフは同じデリック・スミス(Derrick Smith)氏の勝負服でキャメロット(Camelot)に騎乗し、10代で英2000ギニー優勝を果たした。これに負けじとレースに挑んだ末っ子ドナカは、米国にいた父を興奮させ、ニューマーケットにいた母を感泣させ、馬主に英ダービー(G1)制覇を夢見させるという大きな快挙を成し遂げた。
サクソンウォリアーが英ダービー(エプソム競馬場)を制して無敗記録を守ることに、今や2.1倍以下のオッズが付けられており、1倍台のオッズを付けるブックメーカーもあるほどだ。ダービーを制覇すれば、同馬の関係者は三冠挑戦を視野に入れるかもしれない。英ダービーとその後のレースでは、ライアン・ムーア騎手が手綱を取ることが確実視されている。ドナカがトップトレーナーの父と競馬帝国クールモアから掛けられた大きな期待に見事に応えたちょうどその時、ムーア騎手は米国のチャーチルダウンズ競馬場におり、ケンタッキーダービー(G1)に向けて、同じ厩舎のメンデルスゾーン(Mendelssohn)を仕上げていた。
夢見がちな人々は、英2000ギニーで奇跡的に2着となったティップトゥーウィン(Tip Two Win)を、ダービーで支持するかもしれない。この馬を管理するのは、このようなビッグレースに不慣れなロジャー・ティール(Roger Teal)調教師である(訳注:ティップトゥーウィンはダービーではなくセントジェームズパレスS(G1)を目指すことになった)。
一方、オブライエン調教師ほどビッグレースに慣れた調教師はいない。今回の勝利で英2000ギニーを9勝したことになる同調教師は、父ディープインパクトに英クラシック初勝利をもたらしたサクソンウォリアーで、より多くのビッグレースを勝つことを確信しているように見える。
単勝3.5倍の1番人気でこのレースに挑んだゴドルフィンのマサー(Masar)は最終的に3着となった。残り200m強で、単勝4倍のサクソンウォリアーが先頭に立ったのだ。しかしオブライエン調教師は、「サクソンウォリアーの2000ギニー優勝を確信したのはいつですか?」と聞かれ、「2日前」と答えた。
ドナカはレース後、レース中と同じぐらい落着いた様子で、こう説明した。「サクソンウォリアーは調教でとてもよく動きました。冬場ずっと際立って見えました。私たちは包み隠さずそのことを話してきました。この上なく良い馬です」。
「今日は素晴らしい走りを見せ、道中ずっと勝てると考えていました。残り2ハロン(約400m)で少し興奮し、彼を急き立て、抜け出すのが早過ぎたかもしれません。しかし本当に怪物のような馬なのでそのまま押し切りました。これからどのように進化していくか見ものです。とても驚かされました」。
「もし危険を冒していたとすれば、適性距離が1 1/4マイル(約2000m)のサクソンウォリアーにとって、このレースの距離が短すぎたということでしょう。決してスローペースで走る馬ではありませんが、長距離向けに生産されています。とてもリラックスしていましたので、1½マイル(約2400m)でもチャンスは十分にあります」。
その能力はダービーで試される。馬主の1人マイケル・テイバー(Michael Tabor)氏はサクソンウォリアーが2000ギニー後にダービーに向かうことを期待しているかと聞かれ、「昼の後に夜が来るように当然のことです」と述べ、こう語った。
「明らかに、マイル(約1600m)は理想的な距離ではありません。しかし、私たちはサクソンウォリアーが持つスピードと素質があればマイルでも通用するのではないかと考え、それが正しかったことが証明されました。エイダンはこの馬は成長するだろうと言っていましたが、"ダービーで走って勝てるかはまだ思案中だ"と警告を加えました」。
テイバー氏は、サクソンウォリアーはキャメロットが成し遂げられなかった三冠達成に挑戦するかと聞かれたとき、熱心にこう答えた。「もちろん考えるでしょう。私は絶対に挑戦させようと思っています。ジョン・マグニア、デリック・スミス、エイダン・オブライエンとはこのことについて話し合ってはいませんが、私は"イエス"です」。テイバー氏がこれほど熱心なのは特別なことである。なお、ラドブロークス社はサクソンウォリアーの三冠達成に4倍のオッズを付けている。
テイバー氏はこれがオブライエン調教師にとってG1・300勝目であると言われた時に、"驚異的な記録だ"と述べた。しかし正直なところ、今回の勝利はオブライエン一家全体にとっての快挙であり、とりわけドナカの日と言っても良かった。彼らもそのように記憶されるのを望んでいることだろう。
レースを見ていたジョセフはこう述べた。「ドナカは見事な乗り方をしました。見るからに素晴らしい騎乗でした」。母アン-マリーは涙をこらえられず、「ものすごく感動しています。ドナカの快挙に満足しています。彼はとても自立していて、体重を上手く管理しています。とても良い子で、誇りに思っています」と語った。
ドナカは「2000ギニーを勝てなければ多分、家族をがっかりさせていたでしょう」と冗談を言い、その後は彼の家族独特の礼儀正しく控えめなトーンを保った。
「サクソンウォリアーに乗せてくれた父と馬主の方々にこの上なく感謝しています。ありがたいことに、しくじることはありませんでした」。
確かにドナカはしくじらなかった。それゆえ、今やクラシック勝利騎手となったのだ。
By Lee Mottershead
[Racing Post 2018年5月6日「Delight for Donnacha and his dad as Saxon Warrior storms to Guineas glory」]