2011年セントジェームズパレスS(G1 ロイヤルアスコット開催)で、故サー・ヘンリ・セシル調教師はフランケルがゴールを駆け抜けるのを、驚愕した面持ちで見ていた(訳注:フランケルは英2000ギニーでは大差で勝ったのに対して、このレースでは仕掛けるのが早すぎて他馬に追い込まれ3/4馬身差の辛勝となった)。
それから7年が経ち、傑出馬フランケルの産駒であるウィズアウトパロール(Without Parole)は同様のスタイルで同レースを制した。同馬の関係者はこの優勝に対して、安堵するよりも大喜びの反応を示した。
フランケルは英2000ギニー(G1)での驚くべき勝利を挙げてからロイヤルアスコット開催に向かったが、ウィズアウトパロールは、サンダウン競馬場のリステッド競走(準重賞)優勝以上の実力を見せていなかった。しかし、ジョン・ゴスデン(John Gosden)調教師は同馬がそれ以来ずっと成長していると感じており、それは正しかった。また、これからもさらに進化すると信じている。
ウィズアウトパロールが今後どのような進化を遂げようとも、この優勝はそのオーナーブリーダーであるカナダ人ジョン・ガンサー(John Gunther)氏に"生涯におけるハイライト"をもたらした。ガンサー氏は娘タニアとともに今年の米国三冠馬ジャスティファイ(Justify)を生産したが、今回のウィズアウトパロールの快挙をそう表現するほど喜んでいた。
ガンサー親子はウィズアウトパロールをセリに上場した。しかし、タタソールズ社のセリで指定最低価格の65万ギニー(約9,896万円)以上の値がつかなかったので、手元に残すことにした。
今回それが賢明な判断であったことが証明された。ウィズアウトパロールは英2000ギニーを挫跖(蹄底におきる炎症)のため回避していた。しかしセントジェームズパレスSでは、ユーエスネイビーフラッグ(US Navy Flag)を最後の直線半ばで追い抜いたグスタフクリムト(Gustav Klimt)が終盤で追い込んでくるのを退けて勝利を手にした。これにより同馬は無敗の4戦4勝を達成した。
フランキー・デットーリ騎手が鞭使用ルール違反で7日間の騎乗停止処分と4,300ポンド(約62万円)の過怠金を科されたことからも、この勝利を手に入れるのがどれだけ過酷なものだったかは明らかだ。しかし、ちょうどフランケルのセントジェームズパレスSでのパフォーマンスが同馬の能力を真に反映していなかったように、ウィズアウトパロールもそうなのかもしれない。
デットーリ騎手は「最後の直線でユーエスネイビーフラッグに3馬身引き離されたときには危機感を感じ、必死に追いかけました」と述べた。同騎手は表彰台でサセックス公爵夫妻(ヘンリー王子とメーガン妃)にトロフィーを授与され笑顔を見せていた。
「もう一度このレースで乗れるなら、あと100ヤード(約90m)待ってから仕掛けるでしょう。なぜなら、残り1½ハロン(約300m)の地点で先頭に立ち、周りには誰もおらず心細かったからです。まるでテムズ川のボートレースで決勝線に向かう漕ぎ手の1人のようでした」。
ウィズアウトパロールは力尽きることなく走り切った。しかし、ゴスデン調教師がこの馬の腹部についてこう言ったのには驚かされた。「ウィズアウトパロールはまだレースというものを覚えている最中です。今ではその腹部が私のお腹よりも大きくなりました。これは競走馬にとって良いことではありません」。
「英2000ギニーに出走していたとしても、まだレース慣れしていなかったので万全ではなかったでしょう。今日もコーナーを回るときに未熟さが見られました。ここを大きな目標としてきましたが、今後はサセックスS(G1)、ジャックルマロワ賞(G1)に挑戦すると思います。あるいはインターナショナルS(G1)に向かうかもしれません」。
「一層良化してキレのあるレースをするようになるでしょうが、ウィズアウトパロールはクラックスマン(Cracksman)のように信じられないほどのんびりしています。のんびりとしたフランケルを2頭も管理できて幸運だと思います」。
この日はエイダン・オブライエン調教師とって、ついていない日だった。また、英2000ギニーで2着となったティップトゥーウィン(Tip Two Win)を管理するロジャー・ティール(Roger Teal)調教師も同馬がフランスのウートン(Wootton)に次ぐ4着となったことに苛立っていた。愛2000ギニー優勝馬のローマナイズド(Romanised)は7着までだった。
ティール調教師はこう語った。「がっかりしましたが、不運を振り払って前進するしかありません。ティップトゥーウィンの競走距離を7ハロン(約1400m)に戻すかもしれません」。
ティール調教師とティップトゥーウィンには他にもチャンスはあるだろうが、デットーリ騎手は7日間の騎乗停止処分を受けるので、その間は勝つことはない。
デットーリ騎手はこの処分に肩をすくめ、「申し訳ないです」と述べた。そして、「サセックス公爵夫人は表彰式のとき、なぜ笑っていたのですか?」と聞かれ、こう語った。「私は"貴方からトロフィーをもらったことを知れば、私の息子は大喜びでしょう"と言いました。すると彼女はクスクス笑いました。実際、私よりも子供たちのほうが今回の勝利に感動しているのではないかと思います。このように若い王室メンバーがトロフィーを授与してくれるのは素晴らしいことです。とても恐縮しています」。
デットーリ騎手のマネージャーのピーター・バレル(Peter Burrell)氏は、同騎手がジョアン殿下の契約騎手であるにもかかわらず、ロイヤルアスコット開催でアルシャカブレーシング社から騎乗依頼がないことについて、こう語った。「フランキーとアルシャカブレーシング社との契約は7月までです。フランキーは依頼があれば彼らのためにいつでも騎乗するでしょう。実際は、今週彼らからの騎乗依頼はありません。このことが皆さんの疑問の答えとなるのではないでしょうか」。
それでもデットーリ騎手は、ゴスデン調教師の管理馬で3勝を挙げ、この日を"デットーリデー"にした。世界で一番有名な騎手はおそらく、この事態にうまく対処するだろう。
By Lee Mottershead
(1ポンド=約145円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2011年No.28「怪物フランケルの騎手、指示通りに騎乗したと主張(イギリス)」
[Racing Post 2018年6月19日「Dettori is the hero again as Without Parole dazzles in front of Harry and Meghan」]