海外競馬ニュース 2018年06月21日 - No.23 - 3
フロセミドの効果についての新たな研究(ブラジル)[獣医・診療]

 最近発表された『コンパラティブ・エクササイズ・フィジオロジー誌(Comparative Exercise Physiology)』の研究論文によれば、運動誘導性肺出血(EIPH)を予防することを目的とした利尿薬フロセミド(別名:ラシックスあるいはサリックス)の使用と、馬の肺の血圧に影響を与えるアンギオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme: ACE)の間に、関係性が見いだされた。

 この関係性は、サラブレッド競走馬のEIPHを治療するための新しい手段を指し示すかもしれない。

 この研究はリオデジャネイロのガベア競馬場において実施された。8日間で競走馬73頭の競走後の血液検体を分析した。73頭中47頭には競走前に250mgのフロセミドが投与されており、26頭には投与されていなかった。

 収集された血液検体のアンギオテンシン変換酵素(ACE)のレベルを調べた結果、フロセミドが投与された馬においてACEの活動が大幅に減少したことが分かった。ACEは血管を収縮させ、血圧を上げる働きをする。

 フロセミドにEIPHの発症率を低下させる効果があることを認める研究はいくらかあるが、この利尿薬が実際どのように作用しているかはまだ分かっていない。

 この研究はこう結論付けている。「重回帰分析(訳注:結果説明のために複数要因のうちどれがどの程度結果を左右しているのかを数値化)では、競走後のACEの活動には、競走距離・気温・湿度・ヘマトクリット値(訳注:血液中に占める血球の体積の割合を示す数値)ではなく、競走前のフロセミド投与が大きな影響を与えたことが分かった。これはフロセミドを使用することの正確な意義の探求と、EIPHの治療のためのループ利尿薬投与がサラブレッド競走馬の生理機能とパフォーマンスに与える効果についての研究に、影響を与えるかもしれない新しい発見である」。

 この研究に使われた競走馬はすでに、ガベア競馬場の厩舎に戻っている。フロセミドを投与された馬は、競馬場が定めたEIPHを治療するための手順に従っている。ガベア競馬場では、競馬場に所属する獣医師が気管支鏡検査において鼻出血の症状を記録した場合、当該馬には競走前にフロセミドを投与できる。当該馬には発走時刻の4時間前にフロセミドを投与し、鼻出血の症状が診断されてから90日間、出走するたびに治療を受け続けなければならない。3歳6ヵ月よりも若い馬には、競走前のフロセミド投与は認められていない。そしてフロセミドを投与された馬は、G1競走もしくはG2競走への出走が禁じられている。

 フロセミドはEIPHの発症を減少させる最も効果的な手段であると立証されているが、EIPHの発症そのものを完全に防ぐことはできない。ガベア競馬場の研究において、フロセミドを使用した馬のうち76.9%に競走後にある程度の鼻出血が見られたが、フロセミドを使用していない馬については36.2%だった。

 研究論文の著者はこう述べている。「この研究は、フロセミドは一定時間の運動後に生じるEIPHの重症度を軽減するかもしれない一方で、EIPHの発症自体を無くしたり減少させることはないと認めている。この結論はEIPHを抑制するためにフロセミドを使用することに反論していない。しかし、馬の肺で繰返し発症するEIPHがもたらす進行性の悪影響を限定的なものにするためには、より良い手段を引き続き探求する必要があることを示している。また、新しい治療方法を模索するために、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の構成要素(ACEなど)が果たし得る役割についてのさらなる研究が求められる」。

 この研究の著者は次のとおりである。マリア・フェルナンダ・デ・メロ・コスタ(Maria Fernanda de Mello Costa)博士、フェルナンダ・アパレシダ・ロンチ(Fernanda Aparecida Ronchi)博士、ユーンス・ジュン(Yoonsuh Jung)博士、A・イヴァナウ(A. Ivanow)博士、フリアナ・ブラガ(Juliana Braga)博士、M・T・ラモス(M.T. Ramos)博士、デュルセ・エレナ・カザリニ(Dulce Elena Casarini)博士、ロナルド・F・スロコム(Ronald F. Slocombe)博士。

By Eric Mitchell

[bloodhorse.com 2018年6月12日「Study Narrows Focus on How Furosemide Works」]