海外競馬ニュース 2018年10月25日 - No.41 - 2
クラックスマン、英チャンピオンSを6馬身差で圧勝して引退(イギリス)[その他]

 英チャンピオンS(G1 10月20日)は、チャンピオンにふさわしいパフォーマンスを要求する。2年連続で、優秀だが謎めいた馬クラックスマン(Cracksman)がこのレースで優勝を収めた。同馬の競走生活は、良馬場・暑さを不得手とすること、そして興奮しやすい気性により悩まされた。しかし英チャンピオンSでは、今シーズン最高のパフォーマンスを見せて有終の美を飾った。

 クラックスマンは昨年のこのレースで、サー・マイケル・スタウト調教師が手掛ける優良馬ポエッツワード(Poet's Word)を7馬身退けて優勝した。1年前のヒーローは昨年とそっくりそのままの走りっぷりで、今度はクリスタルオーシャン(Crystal Ocean またもやスタウト厩舎)を6馬身退けて連覇の偉業を達成した。

 クラックスマンの父フランケルも6年前、総賞金130万ポンド(約1億8,850万円)のこのレースを制して引退した。クラックスマンのこの勝利で、ジョン・ゴスデン調教師はこの日3勝を果たした[訳注:同調教師は同日、ロングディスタンスカップ(G2)をストラディヴァリウス、クイーンエリザベス2世S(G1)をロアリングライオンで制した]。そして今年はまだ2ヵ月以上あるが、他の調教師に大差をつけているため、3回目のリーディングトレーナー(獲得賞金による)のトロフィーを受け取った。

 アンソニー・オッペンハイマー(Anthony Oppenheimer)氏が所有するこの4歳馬がどこで種牡馬入りするかは依然として未定である。しかしクラックスマンは今年6月のデュークオブケンブリッジS(G2 ロイヤルアスコット開催)を走り終えた牝馬を見て、早くも種牡馬入りしたがっていたようだ。そのとき出走したプリンスオブウェールズS(G1)では気もそぞろで、単勝オッズ1.4倍の1番人気だったがポエッツワードの2着に敗れた。それから英チャンピオンSまで出走することはなかった。今後競馬場ではクラックスマンを見ることはできないだろうが、彼自身は気分よく引退したことだろう。

 ゴスデン調教師と組んで英チャンピオンSと凱旋門賞(G1)をそれぞれ連覇したフランキー・デットーリ騎手は、「このレースを楽しみました。大いに脚光を浴びました」と語った。

 クラックスマンは昨年も今年も凱旋門賞を回避した。クリスタルオーシャンも凱旋門賞でのエネイブルとの対戦を避けたが、今年ガネー賞(G1)とコロネーションカップ(G1)を制し引退しようとしているクラックスマンと対戦するのは不可避だった。

 今回クラックスマンに初めてブリンカーを装着したゴスデン調教師はこう語った。「クラックスマンはガネー賞で爽快な勝利を収めましたが、その後同じようなパフォーマンスを見せませんでした。コロネーションカップでは私たちが想像していたような走りっぷりを見せませんでしたが、辛くも勝利を収めました。その後、プリンスオブウェールズSでは前のレースから戻ってきた牝馬に気を取られていました。クラックスマンはそれらの牝馬に向かって吠えました。私は彼に、"種牡馬生活はまだ始まってないよ"と言わなければなりませんでした」。

 「その後クラックスマンを放牧に出したところ、ベストの状態で戻ってきました。そして厩舎ではレースに臨む準備ができている様子でした。今日は思っていた通りの姿を見せてくれました」。

 「彼はたいへん優れた馬で、再びここで実力を見せつけました。レースに集中させることができれば、飛ぶように走るだろうと考えていました。そして彼は本当に飛びました」。

 デットーリ騎手はこの空飛ぶ牡馬の手綱を取り、残り100mの地点で勝利を確信し始め、大げさに腕を突き上げた。

 デットーリ騎手はこう語った。「クラックスマンは素晴らしい馬です。ジョンには、"彼は暑い気候が好きではないようだ"と伝えていました。夏の間まったく無気力でしたが、今日はベストの状態で戻ってきました。最終コーナーを回ったとき、彼は待ちきれずに自ら加速し、私たちは戦闘態勢に入りました」。

 「クラックスマンのようにスパートを掛けられる馬はあまりいません。他馬の倍の速度で前進していると感じました。最後の1ハロン(約200m)では歓声がよく聞こえ、残り100ヤード(約90m)では腕を挙げていました」。

 ゴールまで100ヤードの地点で、クリスタルオーシャンは遠くのほうへ消えていくクラックスマンを見ていた。称賛に値する2着となった同馬は落鉄していたが、クラックスマンには全く歯が立たなかった。なお、チェコからの参戦馬サブウェイダンサー(Subway Dancer)はクリスタルオーシャンと¾馬身差の3着となった。

 クリスタルオーシャンの鞍上を務めたウィリアム・ビュイック騎手は、「直線に差し掛かった時に少しばかり不利な位置取りになってしまいました。しかし前方が開いて、クリスタルオーシャンは素晴らしいレースをしました」と語った。

 一方、クラックスマンは驚異的なレースをした。

 オッペンハイマー氏はこう語った。「このような光景を見たことがありません。優秀な馬だとは分かっていましたが、何ヵ月も待たされイライラしていました。今日のパフォーマンス次第でしたので、どこで供用されるかは未定です。交渉を開始します」。

 種牡馬入りの交渉が始まり、クラックスマンの素晴しいキャリアは終了する。それはチャンピオンにふさわしい競走生活だった。


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By Lee Mottershead

(1ポンド=約145円)

[Racing Post 2018年10月20日「Cracksman destroys Ascot rivals again to end career with stunning triumph」]