海外競馬ニュース 2019年04月11日 - No.14 - 1
タイガーロール、レッドラム以来のグランドナショナル2勝を達成(イギリス)[その他]

 競馬史におけるタイガーロール(Tiger Roll せん9歳)の地位はずっと以前から揺るぎないものになっていた。しかし今やすべての競馬ファンは、伝説の馬レッドラム(Red Rum)の蹄跡を辿ってタイガーロールが達成したグランドナショナル(G3)連覇を、永遠に心の中にとどめることになるだろう。

 レッドラムが1974年にエイントリー競馬場でグランドナショナル連覇を果たしてから、この最も象徴的な"根性比べ"のレースを2度制した馬はいなかった。

 レッドラムの名はその快挙によって広く知られるようになり、このリバプールの芝での同馬のパフォーマンスは数十年経った今でも色褪せることはない。そしてついに、その立派な後継馬が現れた。

 敬愛なるレッドラムと同様に、タイガーロールは小柄だがほかの全ての面で偉大である。

 タイガーロールがこのレースを楽しんでいることは、1年前と同様に明らかだった。1年前は他馬を大きく引き離していたもののゴール直前でほぼ追い付かれて、わずか頭差で持ちこたえた。しかし、今回そのようなドラマはなかった。

 タイガーロールは不滅への4¼マイル(約6840m)強の道のりを走り終え、多くの先達にとって実行不可能だった任務を成し遂げた。青空の下、世界中の注目を浴びる中で、同馬はデイヴィ・ラッセル(Davy Russell)騎手(39歳)を背に、40頭の中で唯一の牝馬マジックオブライト(Magic Of Light)に2¾馬身差をつけて優勝し、一気にスターダムにのし上がったのだ。

 エイントリー競馬場には強い高揚感が沸き起こり、7万人の観客は特別な瞬間を目にするためにその場にいることを悟った。幸福感あふれる群衆の中で、タイガーロールを手掛けるゴードン・エリオット(Gordon Elliott)調教師ほど有頂天になっていた者はいなかった。同調教師は「タイガーロールは生涯に一度会えるかどうかの馬です」と述べ、この馬と2回目のグランドナショナル優勝を果たした喜びで興奮していた。

 一方、馬主のマイケル・オリアリー(Michael O'Leary)氏は、以前 "小さい鼠"と揶揄していたこの馬の虜になっていた。格安航空会社ライアンエア(Ryanair)のCEOでありギギンズタウンハウススタッドのオーナーであるオリアリー氏は、今やお金では買えない馬を所有している。同氏は、タイガーロールがレッドラムに倣ってグランドナショナル3勝目を目指すことはないと表明している。もちろん同氏が心変わりする可能性はある。

 オリアリー氏は、「グランドナショナルを2勝するなんて信じられません。もはやレジェンドです。今後、レッドラムと一緒に語られるなんて信じられません」と述べた。

 これらの喜びの声に異論を申し立てる者はいないだろうが、今年のグランドナショナルは完璧とは言えなかった。アップフォーレビュー(Up For Review)が1号障害で転倒し、2012年以来初めてのグランドナショナルでの予後不良となった。

 2周目ではその障害は回避されなければならなかった。つまり競走を続けている37頭は、障害の脇のカーブのある狭い走路をうまく通り抜けなければならなかった。騎手たちはその任務を鮮やかに完遂した。その中で、ラッセル騎手ほど満足げに騎乗している騎手はおらず、その表情が変わることはなかった。

 これまでチェルトナムフェスティバルで4勝しているタイガーロールは、7頭が空馬となった今回のグランドナショナルで、道中ずっと不気味なほどたやすく走っていた。同馬は昨年より9ポンド(約4.1kg)重い11ストーン5ポンド(約72kg)を背負っていた。しかし、最後の直線の2つの葉の生い茂った障害には苦労したものの、他のすべての障害を低いが確実に飛越した。

 終盤に入ってもマジックオブライトと並んで走り続けていたタイガーロールほど、自らの任務を把握している現役馬はいないだろう。マジックオブライトは自らのスタミナを読み違えていたが、タイガーロールは自らの力を正しく読んで最後に出し切った。ラスヴィンデン(Rathvinden)は3着で、ウォークインザミル(Walk In The Mill)は4着だった。

 単勝5倍の1番人気だったタイガーロールは、この100年間で最も低いオッズが付けられた優勝馬である。

 エリオット調教師はこれまでに、前例のない管理馬11頭をグランドナショナルに出走させてきたが、今回さまざまな記録を打ち立てた。そしてこう語った。「誰もがタイガーロールのことが大好きです。彼は少し私に似ているところがあります。快適に暮らすことを好み、よく食べて飲み、よく眠ります。それに勝つことに貪欲です。人間味あふれる馬と言えるでしょう」。

 ラッセル騎手はこう語った。「グランドナショナルは驚異的なレースです。リバプール市民はここで行われていることに誇りを持つべきです。このレースに参加できて光栄に思います」。

 「タイガーロールは夢のように優れた馬です。実際、自分の名前を理解しているようです。パレードしているときに実況アナウンサーが彼の名前を呼ぶと、耳をそばだてていました。信じられないほど利口です」。

 ラッセル騎手はこれでグランドナショナルを2勝した。エリオット調教師とオリアリー氏はそれぞれシルバーバーチ(Silver Birch)とルールザワールド(Rule The World)でグランドナショナルを制しているので、3勝目ということになる。タイガーロールが3勝目を挙げるチャンスに恵まれ、レッドラムに並ぶことができるかについては現時点では全く分からない。

 馬主のオリアリー氏はこう語った。「タイガーロールが来年もグランドナショナルに挑戦することはないと思います。現在の主な目標は、チェルトナムフェスティバルのクロスカントリーチェイス(グレンファークラスチェイス)の3連覇です。それが達成できれば、彼を引退させます。ビジネスにおいては欲深くなりがちですが、競馬ではそうなるべきではありません」。

 しかし、オリアリー氏は「タイガーロールは来年も現役を続けます。ただ今日という日を楽しみましょう」と述べ、私たちにかすかな希望を持たせた。

 私たちは今日という日を決して忘れないだろう。なぜなら、タイガーロールが名声不朽の馬となった日だからである。


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By Lee Mottershead

[Racing Post 2019年4月6日「Tiger Roll follows Red Rum's lead to claim his place among the immortals」]