エディ・オリアリー(Eddie O'Leary)氏は、障害競馬界で最も成功している馬主ギギンズタウンハウススタッド(Gigginstown House Stud 以下「ギギンズタウン」)が今後数年の間に事業を段階的に縮小することを発表した。これにより、障害競馬界に激震が走った。わずか1ヵ月ほど前には、ギギンズタウンが所有するタイガーロール(Tiger Roll)がグランドナショナル連覇を達成したばかりだった。
この事業規模の縮小はすぐに着手される。というのも、エディ・オリアリー氏はギギンズタウンの代表である兄のマイケル氏がセリで馬を再び購買することはないと発表したからである。ギギンズタウンの競馬産業にとっての価値は年間1,500万ユーロ(約18億7,500万円)と見られている。
ギギンズタウンは年間約50頭の未調教馬を異なるセリ会社から購買している。したがって今後数ヵ月間において、彼らの不在は痛感されることになるだろう。
エディ・オリアリー氏はマイケル氏に代わり、こう語った。「マイケルの子供たちは今では大きくなっており、それぞれの活動があります。そのため、昨シーズンはマイケルが競馬のために費やす時間が減っていき、今後どうなるかだいたい見当がつきます」。
「これまでにないほど勝馬を送り出し、最高のシーズンを過ごしました。4月にはタイガーロールがグランドナショナル連覇を果たすなど、驚異的なシーズンでした」。
「今後数週間は、調教師たちに多くの若馬が預けられます。例年どおり、若いポイント・トゥ・ポイント競走馬が彼らのもとに入厩するでしょう」。
これはアイルランドの競馬産業にとって極めて大きな打撃となるかもしれない。とりわけ影響が大きいのは、ギギンズタウンに最も依存していたゴードン・エリオット(Gordon Elliott)調教師である。エリオット調教師は、ギギンズタウンが2016年にウィリー・マリンズ調教師と袂を分かってから、カレントラ調教場(Cullentra yard)でギギンズタウンの多くの所有馬を手掛けており、彼らの支援が無くなることはかなりの痛手となるだろう。しかし、エリオット調教師はこのような爆弾ニュースについて否定的な見方をすることはなく、オリアリー兄弟が自身のキャリアにもたらした幸運を強調した。
エリオット調教師はこう語った。「まず、マイケルとエディの支援に感謝したいと思います。私にとって彼らは素晴しい馬主であり、私が調教活動を始めた頃から大きな影響をもたらしました。彼らの馬を預からなかったら、今の地位にはいないでしょう。私たちは一緒に素晴しい日々を過ごしました。そして今後数年間においても、多くの結果を出せることを望んでいます。マイケルは競馬界において偉大な馬主でした。彼ほど投資した馬主はいないでしょう」。
「まだ管理馬がいなかった2008年から、ギギンズタウンの馬を預かり始めました。2008年にナヴァン競馬場においてサラワート(Tharawaat)で初勝利を挙げてから、彼らは私を信頼してくれました。そしてそれは功を奏しました」。
ギギンズタウンの所有馬はエリオット厩舎において大きな割合を占めており、昨シーズンは107頭いた。しかし、ギギンズタウンが2016年にウィリー・マリンズ調教師と仲違いしたときとは違って、エリオット調教師は一夜にしてこれらの馬を失うわけではない。
同調教師はこう続けた。「デルタワーク(Delta Work)、サムクロ(Samcro)、アップルズジェイド(Apple's Jade)のような馬は来シーズンもトップレベルのパフォーマンスを見せてくれるだろうと期待しています。これは大きな打撃ですが、一夜にして起こるわけではありません。今後数年間、馬は私たちの厩舎に留まります。ポジティブな面も見なければなりません」。
そしてギギンズタウンとともに果たした快挙について、こう付言した。「ドンコサック(Don Cossack)のチェルトナムゴールドカップ(G1)優勝がハイライトであることは明らかです。それにタイガーロールのグランドナショナル連覇も目覚ましい快挙でした。ギギンズタウンの服色でこれまで479勝しました。これからも沢山の勝利を挙げることを楽しみにしています」。
ヘンリー・ド・ブロムヘッド(Henry de Bromhead)調教師、ノエル・ミード(Noel Meade)調教師、ジョセフ・オブライエン調教師も、ギギンズタウンの所有馬を預かっており、パット・ドイル(Pat Doyle)調教師とマウス・モリス(Mouse Morris)調教師もポイント・トゥ・ポイント競走馬を預かっている。
生産者、競走馬の販売者、セリ会社、ポイント・トゥ・ポイント競走部門は、オリアリー氏の大規模な馬主事業の撤退により深刻な影響を受けることになる。昨シーズン、ギギンズタウンの所有馬は実頭数で225頭が勝利を挙げた。
マイケル・オリアリー氏はこう続けた。「この10年間、勝馬を管理して私たちを喜ばせてくれた全ての調教師とそのチームに心からお礼を言いたいと思います。しかし、障害競走のために取れる時間が減ってきました。この状況はしばらく変わらないでしょう」。
「今後4年~5年間にわたって馬を減らしていくことで、調教師たちが替わりの馬を見つけて不振に陥ることなく事業を継続するのに、十分な時間をもたらせることを望んでいます」。
ギギンズタウンの撤退は、英国の障害競走にも影響を与えるだろう。現在ではいたるところでライアンエアーのCEOであるマイケル・オリアリー氏の勝負服(海老茶色と白)が見られるが、ギギンズタウンにとっての初勝利はトゥコ(Tuco)による2001年ゴフスランドローバーバンパー優勝である。その後ギギンズタウンの馬は、障害競走において最も権威あるレースを次々に制していった。
タイガーロールは4月6日のグランドナショナルで、伝説のレッドラム(Red Rum)以来の連覇を果たした。2016年にはモリス調教師が管理してデヴィッド・マリンズ(David Mullins)騎手が騎乗したルールザワールド(Rule The World)がこのレースで優勝したので、ギギンズタウンはグランドナショナルを4年間で3回制したことになる。
モリス調教師は2006年、ウォーオブアトリション(War Of Attrition)を競馬界の最高の栄誉であるチェルトナムゴールドカップ優勝に導いている。その10年後、エリオット調教師が管理してブライアン・クーパー(Bryan Cooper)騎手が騎乗したドンコサックがこのレースを優勝したことで、ギギンズタウンの勝負服を背負った馬は再びこの快挙を達成した。
ギギンズタウンの所有馬は合計でG1・91勝を果たし、チェルトナムフェスティバルでは27勝を挙げた。同フェスティバルで現役馬主としてこれ以上の勝利を挙げたのは、JPマクマナス(JP McManus)氏だけである。
昨シーズンはアイルランド国内における獲得賞金が約400万ユーロ(約5億円)に上り、ギギンズタウンは、5年連続でアイルランド障害界のリーディングオーナーに輝いた。なおギギンズタウンは合計で7回このタイトルを獲得している。
By Richard Forristal
(1ユーロ=約125円)