長年にわたり競馬界に資金提供してきたストバート社(Stobart Group)は、騎手協会(Professional Jockeys Association:PJA)との提携関係を終了する決定を下した。これにより、負傷で引退を余儀なくされたフレディ・ティリキ(Freddy Tylicki)元騎手やライアン・ハッチ(Ryan Hatch)元騎手などを支援した現役引退保険制度(Career Ending Insurance scheme:CEI)の財源が危うくなっている。
もはや騎乗で生計を立てられなくなった騎手に、CEIは最高で10万ポンド(約1,350万円)まで支給している。しかしこの保険制度の継続は、2020年以降にストバート社の代わりを見つけられるかに掛かっている。
ストバート社は、2011年から競馬界、とりわけ騎手を支援してきた企業として知られている。同社の元CEOアンドリュー・ティンクラー(Andrew Tinkler)氏は熱心なオーナーブリーダーであり、所有馬のスウィートライトニング(Sweet Lightning)やロイヤルダイヤモンド(Royal Diamond)でビッグレースを制している。
しかし、昨年ティンクラー氏が失脚したことを受け、ストバート社は競馬への関与を見直してきた。その一環として、ノーサンバーランドプレート(ニューキャッスル競馬場)と平地・障害リーディングジョッキーランキングのスポンサーをすでに降りている。
ストバート社の競馬界への最大の貢献は、2011年にPJAとスポンサー契約を締結し、悪循環に陥って3年間休止されていたCEIを復活させたことである。その見返りとして、騎手の乗馬ズボンに付けられたストバート社のロゴはお馴染みの光景となっていた。保険制度に関してこのようなスポンサー契約が認められたのは初めてのことだった。
ストバート社の撤退を受け、PJAはCEIに必要な多額の財源を確保するための提案書を作成している。ブックメーカーが騎手の乗馬ズボンにロゴを入れるスポンサーシップを引き受けられないことから、スポンサー探しは難しくなっている。
それにもかかわらず、PJAのナイジェル・ペイン(Nigel Payne)会長は新しいスポンサーは見つかると楽観視しており、商業的パートナーが利用できる絶好のチャンスの1つだと考えている。
ペイン会長は6月30日にこう語った。「PJAは現在、新しいスポンサーを探しており、関心を持つ企業に送付する提案書をまとめる最終段階にあります」。
「グレートブリティッシュレーシング(Great British Racing)と協力して、新しいスポンサーを見つけるために懸命に取り組んできました。シーズン末にストバート社との契約が終了するまでに、新しいスポンサーを見つけることに自信を持っています」。
同会長はストバート社から受けてきた資金援助の重要性を説明してこう付言した。「CEIのためにパートナーを得ることは不可欠です。パートナーなしでこの制度を運営するだけの資金はありません。優れた制度であり、騎手に大きな恩恵をもたらすものの一つです。また、年間を通じて最大のスポーツイベントでブランドの露出度を高めようと思っている企業にとっては大きなチャンスです」。
ティンクラー氏によれば、現在PJAが用意している契約の内容は2011年にストバート社が締結した頃のものとは異なっており、新しいスポンサーを勧誘しやすいはずである。
同氏は6月30日にこう語った。「私がストバート社にいた頃、ブランドを育てることに常に熱心でした。そこでストバート社と競馬界の両方に恩恵をもたらす契約をPJAと交わすことを思いつきました。これは関係者全員にとって良好な提携関係となりました。現在では、PJAは新しいパートナーに明らかに価値のある契約を提案できる立場にあります」。
「私たちはいつも、騎手たちが非常にハードな仕事をしていることを評価してきました。CEIは騎手たちに充実した保障を提供してきたので、無くなってしまうのであれば、本当に残念なことです」。
PJAは、CEIだけでなく、これまでストバート社が支援してきたリーディングジョッキーランキングやレスター賞授賞式の新たなスポンサーも探している。
By Peter Scargill
(1ポンド=約135円)
[Racing Post 2019年6月30日「Vital jockeys' insurance scheme at risk as Stobart ends backing」]