何度も繰り返して聞いてきた楽曲だが、聞き飽きることはない。
オーケストラの指揮者を務めるのは、ストラディヴァリウス(Stradivarius 5歳)である。同馬は、無敵のステイヤー(長距離馬)としてロンスデールカップ(G2)連覇を果たし、昨年に続き再び"WHステイヤーズミリオン(WH Stayers' Million)"優勝馬となり、勝利の賛歌を熱烈に鳴り響かせた[訳注:WHステイヤーズミリオンは、トップクラスの長距離4レースをすべて制した馬に100万ポンド(約1億3,000万円)のボーナスを提供するシリーズ]。
ストラディヴァリウスはロンスデールカップにおいて、グッドウッドカップ(G1)で首差まで迫ってきたディーエックスビー(Dee Ex Bee)よりも3ポンド(約1.36kg)重い斤量を背負った。これにより懐疑的な人々は、ストラディヴァリウスは負けてしまうのではないかと固唾をのんで見ていた。しかし同馬は終盤に勢いづき、轟音を立てて他馬を抜いて1¼馬身差の勝利をマークし、それらの人々を嘲笑した。
ジョン・ゴスデン調教師は、この無敵のステイヤーがどのようにフランキー・デットーリ騎手と不断のコンビ関係を築いたのかを尋ねられて笑みを浮かべ、その答えを確信してこう述べた。「ストラディヴァリウスはデットーリ騎手に少し似ています。とても自惚れが強く、立ち上がって遊ぶことを得意の隠し芸としており、ユーモアのセンスがあります。しかし同時にプロ意識が高く、ペースに乗って、道中素晴らしい走りを見せ、うまく息を入れます。機嫌が良ければ、期待に応えるパフォーマンスをしてくれます」。
100万ポンド(約1億3,000万円)の小切手が再びストラディヴァリウスの関係者に贈られることになった。ウェザビーズ社は同馬の支配的な強さゆえに、その支払いに喜んで応じるつもりだ。このボーナス制度の将来、そしてストラディヴァリウスの競馬場での大きな存在感が今後も続くかどうかについて注目された。
ゴスデン調教師はこう付言した。「この馬が幸せで健康であれば、馬主のビョルン・ニールセン(Bjorn Nielsen)氏はWHステイヤーズミリオンの対象レースに再び挑戦させると思います。したがって、ニールセン氏の決断に掛かっていると言えますが、その前に馬に聞いてみなければなりません。彼が意欲的であれば、答えは"イエス"です」。
幸いなことに、オーナーブリーダーのニールセン氏は、無敵のステイヤーの競走生活にまだいくつかの楽章が残されているかどうかについて、もう少し深く確信しているようである。
同氏はこう語った。「彼が健康で意欲的であり続けるのであれば、挑戦をやめる理由はありません」。
「彼は今年、とても強くなっています。しかし馬はオートバイではありません。競走当日に走るのに適切な状態に仕上げなければならず、調教師は馬の能力をピークに持ってこなければなりません」。
ストラディヴァリウスを愛すべき馬にしている不思議な行動の1つは、決してたやすく勝とうとしないことである。ゴールドカップ(G1 アスコット)では他馬に囲まれてしまい、グッドウッドカップではわずか首差で優勝し、彼が挑むレースにはいつもドラマが付きものである。しかし、その数々のドラマティックな瞬間は競馬をエキサイティングなものとする。それは同時に、ニールセン氏の神経に障るのかもしれないが。
ニールセン氏はこう述べた。「彼が他馬に10馬身もの差をつけてゆっくりと最後の直線を走っていれば、残り100ヤード(約90m)でも落ち着いてレースを見ていられるのですが、いつもゴール板では前のめりになって見なければなりません」。
つねにストラディヴァリウスとやり合うデットーリ騎手は、同馬とのバトルを楽しみ、どのようなやり取りがあったのかを話した。「彼に合図を送ったところ、彼はビュンと走りました。このような馬に人々は夢中になります。彼とはいつも喧嘩しなければなりません。特別な馬です」。
いずれにせよ、9連勝とWHステイヤーズミリオンの連覇を果たし、コースレコードを更新したストラディヴァリウスにとって、"特別な馬"というのは数々の褒め言葉の1つにすぎない。
By Andrew Wilsher
(1ポンド=約130円)
[Racing Post 2019年8月23日「Encore! Stradivarius lands another million under Frankie in rousing Lonsdale Cup」]