優良馬がわずか4歳で死ぬことは言うまでもなく悲しくて衝撃的な事態だが、8月23日(金)の2018年欧州年度代表馬ロアリングライオンの疝痛による死はとりわけ受け入れ難い。
ロアリングライオン(カタールレーシング社所有)は、欧州においてこの数年間で最も前途有望な種牡馬と目されていた。同馬は今や、ファーストクロップしか残さなかった悲運の種牡馬、すなわちシャーガー(Shergar)、アジダル(Ajdal)、モーツァルト(Mozart)、ドバイミレニアム(Dubai Millennium)、セントリアム(Saint Liam)に名を連ねる。
ロアリングライオンの種牡馬としての魅力を最も高めたものは、その驚くべき競走成績である。2歳シーズンには、ロイヤルロッジS(G2)で優勝し、レーシングポストトロフィー(G1)ではサクソンウォリアーの首差の2着となりレベルの高いパフォーマンスを見せつけて、商業的な生産者を魅了した。そして3歳シーズンには、飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍ぶりを見せた。
野心に満ちた3歳シーズンにおいて、ロアリングライオンはクレイヴンS(G3)で3着、英2000ギニー(G1)で5着となった後、ダンテS(G2)で優勝し、続く英ダービー(G1)では健闘して3着となった。以後、エクリプスS(G1)、英インターナショナルS(G1)、愛チャンピオンS(G1)、そしてクイーンエリザベス2世S(G1)を制した。
その早過ぎる死のほぼ1年前に果たした英インターナショナルS優勝は、同馬の持ち味が活かされた勝利であった。ポエッツワード(Poet's Word)を撃退して3¼馬身もの差をつけて手にした勝利により、その実力と格の違いを見せつけた。
ロアリングライオンは、血統的観点において一味違うものを生産者に提供した。確かに、同馬は遍在するサドラーズウェルズのサイアーライン(牡系)を受け継いでいるが、それは2004年米国最優秀芝牡馬キトゥンズジョイ(Kitten's Joy 父エルプラード)を介したものである。また母ヴィオネット(Vionnet 父ストリートセンス)は自らがG1・3着内馬である上に、G2勝馬のムーランドムジャン(Moulin De Mougin)とスキャパレリ(Schiaparelli)の半姉妹である。
トゥウィーンヒルズスタッド(Tweenhills Studグロスターシャー州)のスタッフは、BCクラシック(G1)での大敗の後に種牡馬として供用することになった同馬を、繁殖牝馬オーナーや多くのファンにお披露目することに大きな喜びを感じていた。ロアリングライオンが種牡馬生活を始めるにあたり、情報を公開してファンを楽しませ続けたこれらスタッフの寛容さは称賛されるべきだろう。
不思議なほどに写真うつりの良い斑点のある芦毛馬ロアリングライオンは、牧場開放日にパレードを完璧なプロ意識でこなした。自らが特別な馬であることを心得ているような堂々とした雰囲気を醸し出していたものの、その振舞いには紳士らしさが備わっていた。馬を擬人化することには注意を要するが、この若い種牡馬にカリスマ性があったことは確かである。
当然のことであるが、カタールレーシング社と外部の生産者は供用1年目のロアリングライオンを熱烈に歓迎した。同馬は種付料4万ポンド(約520万円)で供用され、133頭に種付けを行った。
相手の牝馬には以下の馬が含まれていた。
【G1優勝牝馬】バティール(Bateel)、ジオフラ(Giofra)、ゴールデンライラック(Golden Lilac)、ライトニングパール(Lightening Pearl)、モリーマローン(Molly Malone)、シールオブアプルーヴァル(Seal Of Approval)、ショウナンアデラ、シンプルヴァーズ(Simple Verse)。
【優良繁殖牝馬】ドルニヤ(Dolniya)の母、キトゥンズダンプリングス(Kitten's Dumplings)の母、マルメロ(Marmelo)の母、ポエッツワードの母。
南半球[ニュージーランドのケンブリッジスタッド(Cambridge Stud)]での供用1年目において、ロアリングライオンがスター牝馬を迎えることは確実視されていたが、7月に検疫を終えた後に同馬は病に冒された。
ロアリングライオンの早過ぎる死により、関係者は悲しみに打ちひしがれるだろう。わずかな慰めがあるとすれば、それはファーストクロップしか残さずにこの世を去った数々の種牡馬の成績に見いだされるだろう。
ドバイミレニアムはオーナーのモハメド殿下に、クラシック勝馬で優良種牡馬のドバウィを残した。一方、モーツァルトは、アマデウスウルフ(Amadeus Wolf)とダンディマン(Dandy Man)のような優良馬を送り出した。さらに米国では、セントリアムが年度代表馬ハヴルドグレイス(Havre De Grace)を送り出している。
それに"フォーストクロップだけ"どころか1頭の産駒しか残さなかったジョージワシントン(George Washington)もいる。このような薄弱なレガシー(遺産)にもかかわらず、この1頭の産駒デートウィズデスティニー(Date With Destiny)がG3勝馬ビューティフルモーニング(Beautiful Morning)の母となったことで、ジョージワシントンは注目すべき血統にその名を残すことができた。
ロアリングライオン産駒は、来年誕生したとき、セリに上場されるとき、そして競馬場に姿を現すときに脚光を浴びるだろう。このような忌まわしい運命の変化の後では、これらの産駒が父のプライドを受け継いでいるとすれば、それは妥当なことではなかろうか。
By Martin Stevens
(1ポンド=約130円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2019年No.29「ロアリングライオン、疝痛のため南半球での種付けを断念(ニュージーランド)」
[Racing Post 2019年8月24日「Here's hoping the sole crop of Roaring Lion cubs do their father proud」]