薬物検査に引っ掛かる理由は沢山あるだろう。しかし今年は早くも、極めて奇妙な原因による禁止薬物陽性反応の事例が判明した。BHA(英国競馬統轄機構)は1月17日、スージー・ベスト(Suzi Best)調教師の管理馬2頭を驚くべきケースで失格としたのだ。
アウトラス(Outrath)とアーティダード(Ertidaad)は2018年2月、オールウェザー競走(ケンプトン競馬場)を2日違いで制した。ところが、競走後に採取した検体からミノキシジル(minoxidil)が検出された。この成分は、ベスト調教師の助手で義理の兄弟であるトム・ベスト氏が7年前から使用する育毛シャンプー"ロゲイン(Rogaine)"に含まれていた。
この2頭は、トム・ベスト氏が担当する厩舎区域に入厩していた。その上、同氏はこの成分がわずかに高い数値で検出されたアウトラスに定期的に騎乗し、スージー・ベスト調教師が立ち会うことができなかった問題の日にこの2頭を出走させていた。
ベスト調教師はヒアリングに現れなかったが、この嫌疑について認めた。BHAの公正確保・規制担当理事であるティム・ネイラー(Tim Naylor)氏は、同調教師が提出した声明を次のように読み上げた。
「シャンプーに入った成分が陽性反応を引き起こすとは思いもよりませんでしたが、これらの馬を管理している私に全ての責任があります。助手は長年にわたりこの商品を使用してきました。このようなことが起こるとは誰も考えていませんでした。陽性反応を引き起こし落胆させられたこの不運な出来事に、私は調教師として全ての責任を負っています」。
パトリック・ミルモ(Patrick Milmo)王室顧問弁護士が議長を務めた審問は、馬に陽性反応が出たことで、裁定結果について権限をもたなかった。議論されたのは、ベスト調教師への処分の程度についてであった。
BHAの調査員は、この育毛シャンプー以外にミノキシジルが投与された方法を見つけられなかった。また、ベスト調教師たちが、原因となったロゲインのパッケージを提出するほど、調査に協力的だったことを評価した。BHAはこれを受け、この不運な陽性反応の原因は二次汚染である可能性が最も高いことを全面的に認め、業務停止処分ではなく過怠金だけを科した。
しかし、ベスト調教師がすべての合理的な予防措置を講じたことを証明できていたならば、すべての制裁を免れることができただろう。
ネイラー氏は、育毛シャンプーが陽性反応を引き起こすと調教師が認識することは難しいと認めたが、そのシャンプーを使う時に手袋をはめていなかったことや、BHAに相談しなかったことに言及した。また、義理の兄弟がその商品を使っていたのをベスト調教師が知っていたことを繰返し引合いに出した。
ミルモ議長は総括して、ベスト調教師はすべての合理的な予防措置を取ってこなかったと結論付けた。同議長はガイドラインに基づき、陽性反応1件につき1,000ポンド(約14万円)の過怠金を科した。
ベスト調教師は"スタッフがシャンプーを変えるたびに統轄機関に相談する責任"について問われなかった。しかし同調教師は声明において、「二度とこのような過ちを繰り返さないように手順を設けています。また今後は、装蹄師など厩舎に出入りする者全員に"ロゲイン"を使用していないか尋ねることにします」と述べている。
ミノキシジルとは何か?
ミノキシジルは降圧剤であり、人間の血圧を下げるために使用する薬品の一種である。英国では、使用が認可されたミノキシジルを含有する動物用医薬品はない。ミノキシジルは、多くの哺乳類動物の体組織に薬理作用を及ぼす可能性があるので、競走当日の禁止薬物一覧に掲載されている。
By Stuart Riley
(1ポンド=約140円)
[Racing Post 2019年1月18日「Traces of shampoo ingredient cost Best a fine and two winners」]