G1を数回制した若い人気種牡馬ボルトドーロ(Bolt D'Oro 5歳)は、ケンタッキー州レキシントンのスペンドスリフトファーム(Spendthrift Farm)で供用されている。しかし厩務員が安全に扱うことができないほど凶暴になったため、2月に2日間、種付活動を停止した。
スペンドスリフトの場長であるネッド・トッフィー(Ned Toffey)氏によれば、ボルトドーロ(父メダグリアドロ 母グローブトロット 母父エーピーインディ)は、昨秋豪州にシャトルされた際にも攻撃性を表わしていた。それでも現在は、馬行動学者が提案した種付手順の変更に好ましい反応を示し、再び順調な種付活動を行っている。
同氏はこう語った。「今では、ボルトドーロがどうしているか聞かれると、"すごく元気です"と答えられます。彼は私たちに対してやや粗暴に振る舞っていましたが、種付手順を細心の注意を払ったものに変更しました」。
「ここ数日間は順調に種付けを行っています。彼はより早く集中してその活動を行っており、以前よりもずっと調子が良いようです」。
2月中旬にボルトドーロのもとに送られた繁殖牝馬の中には、スペンドスリフトの名牝ビホルダー(Beholder 10歳)がいた。同馬は1月に第3仔となるウォーフロント牝駒を出産している。トッフィー氏はこの交配は無事に行われ、受胎チェックは2月29日(土)に予定されていると述べた。
トッフィー氏は、長年の経験と、他の場長との意見交換を通じて、種牡馬が粗暴な態度を取ることは珍しくないと心得ている。それでも、ボルトドーロの振舞いはよく見られる攻撃性のレベルを超えていると語った。
ボルトドーロは以前、スペンドスリフトのスタッフを手伝って競馬場での世話を担当していた厩務員を襲って怪我を負わせた。その厩務員は病院で治療を受けて回復しているが、トッフィー氏はその厩務員が牧場スタッフではないので詳細は話すことができないと述べた。
ボルトドーロは2019年の種付頭数が214頭に上り、北米新種牡馬ランキングで3位となった。1位と2位はいずれもアシュフォードスタッド(クールモアの米国の拠点)で供用されるスキャットダディ産駒のジャスティファイとメンデルスゾーン(Mendelssohn)である。ボルトドーロは豪州の繁殖シーズンから手に負えなくなり、スペンドスリフトは最善の対処方法について直ちにアドバイスを求めた。
トッフィー氏は、ペンシルベニア大学獣医学部ニューボルトンセンターの研究主任スー・マクダネル(Sue McDonnell)氏を頼った。マクダネル氏は、日本の社台スタリオンステーションで供用されていたケンタッキーダービー(G1)&プリークネスS(G1)優勝馬ウォーエンブレムの繁殖行動障害の治療を手伝った専門家である。
扱いにくい馬として知られていたウォーエンブレムの最大の障害は、種付けに対する関心の欠如だった。結局、同馬は少数の産駒を数年間送り出した後に種牡馬を引退した。そしてオールドフレンズ(ケンタッキー州の引退馬施設)に送られ、現在は米国クラシック優勝馬のシルバーチャームやタッチゴールド(Touch Gold)とともに暮らしている[訳注:3月11日、ウォーエンブレムは21歳で死んだ]。
ボルトドーロの障害には、牝馬への無関心は含まれていない。ただし、マクダネル氏がウォーエンブレムの気質を治すために社台に示した提案のいくつかを、スペンドスリフトは実施に移した。
マクダネル氏はまず、ボルトドーロを他の種牡馬のいる厩舎から離れたところに滞在させ、交配相手の牝馬を極めて身近に迎えるようにするよう助言した。そのような環境は種牡馬をリラックスさせ、野生ではライバルとなり得る他の種牡馬たちに囲まれることで抱く緊張感を和らげる。
トッフィー氏はこう語った。「種牡馬マネージャーのウェイン・ハワード(Wayne Howard)氏は、ボルトドーロをヴィクトリア州(豪州)に輸送した数週間後に、同馬の面倒を見るために飛行機に飛び乗ることになりました。そしてこれらの措置のいくつかを実施し、豪州の繁殖シーズンにおいてそれらは大いに役立ちました」。
「ボルトドーロはケンタッキーに帰ってきてから、"可愛い"と言うにはほど遠い状態ですが、機嫌よく過ごしていました。しかし、2月中旬に種付シーズンが始まった途端、再び攻撃的になりました」。
「スペンドスリフトは十分な規模の牧場でありレイアウトもちょうど良かったので、ボルトドーロを他の種牡馬から離すという点については、スーの提案を全て実施できています。彼は素晴らしい反応を示しており、これからもそれが続くことを願っています。すぐに功を奏したわけではなく、数日かかりましたが、彼の気性はかなり改善されました」。
トッフィー氏はこう続けた。「スーはスペンドスリフトに駆けつけ、終日にわたって状況を見てくれました。彼女にとってそれはよく見る光景で、提案が実行されればあらゆることが改善されると確信していました。そして、それらの提案は思いのほか迅速に効果をもたらしました」。
「興味深かったのは、彼女の助言の全部が"どのように馬とふれあうか"とは関係なかったことです。彼女が行ったアドバイスの大半は、"馬をリラックスさせるために環境をどのように変えるか"というものでした。種牡馬だけの厩舎や複合施設は、すべての種牡馬にとって理想的な環境とは言えません」。
トッフィー氏は、粗暴な気質の優良種牡馬については沢山の逸話があると語った。たとえば、ストーンファーム(Stone Farm)にいた悪名高いヘイローは暴れて厩務員に噛みつき、スリーチムニーズファーム(Three Chimneys Farm)にいたダイナフォーマーは人の指を噛み切ったことで知られている。
過去にブルックデールファーム(Brookdale Farm)で厩務員として働いたトッフィー氏は、「デピュティミニスターはとてつもなく凶暴な馬でした」と回顧した。
「デピュティミニスターはハミを持っていた厩務員を持ち上げたかと思ったら、人形のように振り回しました。私はやっとのことでその厩務員からハミを奪い取りました」。
「ブルックデールは、優秀なホースマンが揃っていてうまく経営されており、この問題に対処する方法を見つけ出しました」。
「ボルトドーロは彼よりも少し扱いにくい馬だと言えます。私たちは15年間スペンドスリフトで様々な種牡馬を供用してきましたが、これほどの凶暴性を備える馬は初めてです」。
ボルトドーロはケンタッキー州での種付頭数に加え、豪州でおよそ100頭に種付けを行った。トッフィー氏は種付頭数の多さと同馬の攻撃性の間の関連性をあまり重視しておらず、「年間40頭ほどしか種付けしていないのに粗暴なことで有名だった種牡馬は、過去に沢山いました」と指摘した。
いずれにせよ、スペンドスリフトがボルトドーロをおとなしくさせ続け、スタッフおよび交配相手の牝馬の安全を確保するために、引き続き取り組むことは確かである。
シャトルでも成功した世界一流種牡馬メダグリアドロを父とするボルトドーロは、種牡馬として成功する可能性が高い。2歳でG1優勝を果たした同馬は、現役生活において100万ドル(約1億500万円)以上を稼ぎだした。その種付料は2万5,000ドル(約263万円)。
トッフィー氏はこう付言した。「彼はしかるべき種牡馬に成長していくでしょう。そのためには細やかなケアと注意が必要です。ケンタッキー州中部にはそのような種牡馬は沢山います」。
「ウェイン・ハワード氏と彼を補助した厩務員は素晴らしい仕事を成し遂げました。私たちが講じた措置は、彼らの尽力があったからこそ功を奏しました。彼らはボルトドーロが落ち着いていられるように扱い方を工夫して、辛抱強く待ちました。そのおかげで、同馬はケンタッキーに元気に戻って来ました。このような苦労が笑って思い出されるようになることを願っています」。
By Michele MacDonald
(1ドル=約105円)
[Racing Post 2020年3月1日
「Bolt D'Oro back on track after steps taken to deal with aggressive nature」]