今年も1月10日(金)&11日(土)にアイルランド・サラブレッド・マーケティング社(ITM)の牧場巡りツアー"アイルランド種牡馬トレイル(Irish Stallion Trail)"が実施された。
このイベントは前半戦と後半戦に分かれたスポーツのようである。1月10日(金)には、アイルランド各地の牧場が門戸を開放して多くの訪問者、とりわけ多数の業界人を歓迎した。11日(土)には、競馬ファンたちがすでに現役を引退した憧れの競走馬を見ることができた。
2日とも参加するチャンスに恵まれた私たちは、雰囲気の明白な変化を感じることができた。金曜日には、生産者が繁殖牝馬の相手として使えるかを吟味するために種牡馬の馬格を精査していたので、静かで集中した雰囲気が漂った。土曜日には、さらに大勢の人々が集まり、登場した優良種牡馬の写真・動画をスマートフォンで撮影するためにスポットを争い、よりリラックスした雰囲気に包まれた。
私が金曜日に訪れたのは、クールモアが補助的な種牡馬を供用しているキャッスルハイドスタッド(Castlehyde Studコーク州ファーモイ)、グランジスタッド(Grange Stud コーク州ファーモイ)、ザビーチズスタッド(The Beeches Stud ウォーターフォード州リズモア)である。
最近は障害種牡馬として活動するキングストンヒル(Kingston Hill)はキャッスルハイドで人目を引いており、傍らには父マスタークラフツマン(Mastercraftsman)が供用されていた。ますます白くなっていくG1馬マスタークラフツマンを見ながらパンフレットに目を落とすと、その優良産駒としてアルファセントーリ(Alpha Centauri)やザグレイギャッツビー(The Grey Gatsby)などが記されていた。「欧州において種付料2万5,000ユーロ(約300万円)で供用されている種牡馬の中で最高の価値を持つ1頭かもしれない」という私の直感を裏付けている。
グランジスタッドで優良種牡馬の1頭として披露されたゲッタウェイ(Getaway)は、今後数年で最優秀障害種牡馬となることが有力視されている。一方ザビーチズスタッドでは、28歳で最優秀障害種牡馬に君臨するフレメンズファース(Flemensfirth)を敬意を持って眺めた。そして、障害種牡馬として将来有望なクリスタルオーシャン(Crystal Ocean)も見た。シーザスターズに関しては多くの生産者が"使ってみるべきだ"と当然のように考えるのだが、その息子クリスタルオーシャンに繁殖牝馬を送り込むチャンスをなぜ鼻であしらうのか、私には分からない。
土曜日は"種牡馬トレイル"の常連が行くべき牧場であるクーラゴンスタッド(Coolagown Stud コーク州ファーモイ)を訪れた。披露される馬もさることながら、機知と智恵に富んだ牧場オーナーのデヴィッド・スタック(David Stack)氏に会えるからだ。ここにも大きな潜在性をもつ数頭の種牡馬がいる。頑丈なガリレオ産駒であるシャンタラム(Shantaram)は、公式レースでデビューした産駒3頭のうち1頭が優勝して1頭が3着内となっている。また、フランスで種牡馬として順調なスタートを切ったG1馬ザンベジサン(Zambezi Sun 父ダンシリ)も現在ここで供用されている。
コン・オキーフ(Con O'Keeffe)氏が所有するキルバリーロッジスタッド(Kilbarry Lodge Stud ウォーターフォード州)には、人気のダイヤモンドボーイ(Diamond Boy)、素晴らしい血統のピラーコーラル(Pillar Coral)、新種牡馬のジョシュアトゥリー(Joshua Tree)とサクセスデイズ(Success Days)が供用されている。ジョシュアトゥリーが派手な見栄えと堂々とした歩様で人々を魅了する一方で、種牡馬となった数少ないジェレミー産駒の1頭であるサクセスデイズも人目を引いており人気となることが見込まれる。
その後、バーゲージスタッド(Burgage Stud カーロウ州)に向かった。そこでは博学なビクター・コノリー(Victor Connolly)氏が見栄えの良い芦毛のモンジュー産駒ジュークボックスジュリー(Jukebox Jury)を披露していた。27歳となった英セントレジャーS(G1)優勝馬シャントゥー(Shantou)は、相変わらず澄ました性格をしている。型にはまってしまいそうな小柄な馬だが、「黒い猫がいつも黒い子猫を生むわけではない」ということを思い出させる。なぜなら同馬は、見栄えが素晴らしくてよく売れる産駒を絶えず送り出してきたからだ。それには、G1勝馬であるエアリービーチ(Airlie Beach)、ブライアーヒル(Briar Hill)、デスデューティー(Death Duty)、モーニングアセンブリー(Morning Assembly)、ザストーリーテラー(The Storyteller)が含まれる。
土曜日に訪ねたような小さい牧場には行く価値がある。なぜなら、オーナーと一対一で話して貴重な見識を得るチャンスがもたらされるからだ。
すべての種牡馬管理者は多くの称賛を受けるのにふさわしい。なぜなら彼らは、訪問者を生産界に温かく迎え入れるのにじっくり時間を掛けるからだ。彼らは訪問者が明日の繁殖牝馬オーナーになるかもしれないことを大いに理解している。
それに、土曜日の休みを利用して訪問した子供たちもいた。彼らは繁殖牝馬を買うほどのお小遣いをまだ持たないが、ここで見たことに魅了され、ある日厩舎で働くことを決心し、生産界をひどく苦しめている人手不足を緩和するのを助けてくれるのではなかろうか?
少なくとも、近所にある高い垣根の向うで何が行われているのか見るためにやってきた好奇心旺盛な地元の人々は、アイルランド経済にとってとても重要な生産界を一層理解して、将来もっと支持するようになるのではなかろうか?
一般の人々も業界人も牧場に迎えることは、"アイルランド種牡馬トレイル"の成功の鍵である。
By Martin Stevens
(1ユーロ=約120円)