25年前、ゴドルフィンの最初の偉大な競走馬、ホーリングが英インターナショナルS(G1 約2000m)を制した時、ヨーク競馬場の旧式の芝コースはからからに乾いていた。
その後、数えきれないほどの名馬がゴドルフィンの旗の下で活躍したが、今年の英インターナショナルSの優勝馬は趣が異なる。ガイヤース(Ghaiyyath)は獣のように容赦ない馬だ。
ガイヤースは独自のスタイルで勝利した。おそらく他の現役馬は同じ方法で、これほど高いレベルのレースを勝ちきれないだろう。コロネーションカップ(G1)とエクリプスS(G1)でそれはすでに明らかになっていたが、今回のレースほどガイヤースの強さが明白になったことはないだろう。ライバルたちは白旗を振りかざすしかなかった。
他馬はすべてガイヤースに挑んでいったが、ことごとく敗れた。ヨーク競馬場の最後の直線で、マジカル(Magical)、ロードノース(Lord North)、カメコ(Kameko)はとらえようとしたものの、ガイヤースはむさぼるようなストライド(完歩)で前へ前へと進んだ。鞍上のウィリアム・ビュイック騎手は後ろからライバルたちが迫ってくる音を聞いたが、その姿を見ることはなかった。ガイヤースは冷酷で容赦なかった。
ビュイック騎手は「ガイヤースはこれまで乗った馬の中でまちがいなく最強です」と述べた。同騎手はチャーリー・アップルビー調教師と同じくこれまで英インターナショナルSを制したことがなかった。そして、2人ともまだ凱旋門賞(G1)で優勝してない。しかし彼らにはガイヤースという優秀な獣がおり、この馬はきっと芝の最高峰レースで再び勝つチャンスを与えられるに値する。しかし、それは将来の話である。まずは成し遂げられたばかりの勝利の余韻に浸るべきである。
最も手ごわいライバル、マジカルはガイヤースをとらえようとした。ガイヤースは直線の真ん中で一頭抜け出し、その後脅かされるような瞬間は一度もなかった。
アップルビー調教師はこう語った。「ゴドルフィンはいつも、ガイヤースのような偉大な馬を手に入れられるように努力してきました。彼が今シーズン成し遂げてきたことは皆にとって夢のようなことです」。
「ウィリアムはまたもや、前々でレースを進める完璧な乗り方をしました。彼は、他の馬が迫ってくるのが聞こえたので、もっと前に出したほうが良いと感じていたようです。そこで彼はスパートをかけました。ガイヤースはセカンドギアを入れると容赦なく、屈服することなどありません。驚異的な馬です」。
昨年10月の凱旋門賞(パリロンシャン競馬場)で、ガイヤースは苦戦を強いられ早くにばて、最終的に優勝馬ヴァルトガイストから33馬身も引き離されてゴールした。絶望的なコンディションが不利を強いた。しかし、その無残な結果から多くのことが得られた。
アップルビー調教師はこう続けた。「凱旋門賞では1つの教訓を得ました。大外枠からの発走、しかも重馬場だったのですが、ガイヤースに前々で競馬をさせ、仕掛けるのが早過ぎました。そして無残な結果を目の当たりにしました。今回私たちは意図的に、彼に好きなように走らせました」。
「彼が素晴らしい走りっぷりを見せた過去2走は10ハロン(約2000m)のレースでした。もちろん多くの選択肢があるのですが、凱旋門賞(2400m)を狙いたいと思っています。勝ちたいと望んできたレースです。今年は有力馬の1頭としてガイヤースを出走させたいです」。
ブックメーカーたちはガイヤースを最有力馬の1頭と見込んでいる。どのブックメーカーもガイヤースに単勝7倍を上回るオッズは付けておらず、1番人気を争うエネイブルとラブは単勝4倍前後で拮抗している。
ビュイック騎手はこう語った。「ガイヤースに自らのペースで走らせ、その後も馬に任せました。道中のスピードは驚くべきものでしたが、今日は"彼は残り100m~200mで力強くダッシュする"と確信していました。彼はレースに一段落をつけた後、ゴールまで走り切り、その威力を見せつけました」。
「彼は他の馬ができないことをやってのけ、自信を与えてくれます。スピードを持続でき、素晴らしい末脚でゴールまで走り切ります。このようなことができる馬はあまりいません」。
凱旋門賞でも快挙を成し遂げるか?
ビュイック騎手はこう続けた。「昨年と比べるとガイヤースは別の馬になったようです。しかし、昨年と同じような馬場状態なら凱旋門賞には挑みたくありません。2400mの距離をもたせることはできるでしょうが、競走成績は今では2000mのほうが得意なことを示しているかもしれません」。
愛チャンピオンS(G1 レパーズタウン)は、ガイヤースが狙えるもう1つの秋のビッグレースである。マジカルはまちがいなくこのレースに焦点を合わせるだろうし、ロードノースにとっても狙う可能性の高いレースとなる。ロードノースを管理するジョン・ゴスデン調教師はこう語った。「ロードノースには馬場状態がすこし緩かったようです。最初にスパートをかけるように促されたときに、やや空回りしました。しかし3着に健闘し、私たちは喜んでいます」。
ゴスデン調教師は、凱旋門賞でエネイブルとストラディバリウスのライバルとしてガイヤースが参戦することに少し戸惑っているようだった。
「勝ったガイヤースは偉大です。ガイヤースが先頭に立ってしまえば、再び彼を見ることはできません」。
確かに英インターナショナルSでは、ライバルたちはガイヤースを二度と見ることはなかった。
By Lee Mottershead