海外競馬ニュース 2020年08月27日 - No.33 - 4
フェニックス・サラブレッズ社、英国から事業撤退(イギリス)[その他]

 フェニックス・サラブレッズ社(Phoenix Thoroughbreds 以下フェニックス社)が英国で事業を展開することはもはやない。多くの問題を抱えた同社は、英国から撤退し他の主要競馬国での事業に専念するという衝撃的な発表を行ったのだ。

 この事業撤退は、同社の創設者アメル・アブドゥラズィーズ(Amer Abdulaziz)氏(56歳)が厳しく追究されたことで出された結果である。同氏は、昨年ニューヨークの裁判所において詐欺の仮想通貨"ワンコイン(OneCoin)"のマネーロンダリング(資金洗浄)の主犯者の1人であるとの申立てを受けていた。

 世界中で事業を展開するフェニックス社は8月11日、「弊社は"すぐに"英国から事業を撤退します」という声明を出した。ただし本紙(レーシングポスト紙)は、同社は即刻ではなく段階的に現役競走馬を移動させることになると理解している。

 フェニックス社は2017年に英国競馬界に出現してから重要な事業者となっていた。しかし2019年11月、詐欺罪の有罪判決を受けたワンコインの共同創設者コンスタンティン・イグナトフ(Konstantin Ignatov)氏が宣言証言において、アブドゥラズィーズ氏がマネーロンダリングで大きな役割を果たしたと申し立てたことで、フェニックス社は質問攻めにあっていた。被害者はビットコインに類する仮想通貨に投資していると信じ込んでいたが、実際は手の込んだネズミ講式の詐欺だった。被害総額は40億ドル(約4,200億円)にも上った。アブドゥラズィーズ氏はフェニックス社を通じて申立てを否定する声明を出している。

 フェニックス社の8月11日付の声明には、当面のあいだ英国での事業を停止するが、他国では事業を継続していくと記されている。

 アブドゥラズィーズ氏はその中で、「これは軽々しく下した決断ではありません。しかし、弊社の事業や世界中のパートナーの発展のために、当面は英国から離れることを決断しました。大変悲しいことですが、この局面では必要なことです。これまで夢をかなえるために協力してくださった皆さんに感謝したいと思います」と述べている。

 フェニックス社は2017年3月、英国競馬界に突如として出現した。セリで一連の高価格馬を購買し始め、アドヴァタイズ(Advertise)やシニョーラカベロ(Signora Cabello)などの所有馬は白地にオレンジの星のついた勝負服を背負い、英国の重賞競走で活躍した。

 アブドゥラズィーズ氏はシニョーラカベロが2018年クイーンメアリーS(G1)を制したときに世界中のレースで優勝する願望を語っていた。「私たちの願望は競馬界でナンバーワンになることで、いつか実現できるでしょう。大きな願望ですが、私たちは常に目標を定めており、何としても達成しようと思っています」。

 しかし、同氏はフェニックス社の馬投資ファンドから支出しているにもかかわらず、顧客の守秘義務を理由に、出資者の名を一切明かさなかった。また、フェニックス社との関係を進んで明らかにする者は一人としていなかった。

 そのうえ、本紙は昨年、フェニックス社のルクセンブルクを拠点とする馬投資ファンドが任意清算されていたことを暴露した。フェニックス社が今年1月に出した声明には、"世界初の規制されたサラブレッドファンドの1つを創設するために"ファンドの閉鎖を決定したと記されていた。

 昨年の11月以降、多くの競馬関係者がフェニックス社から離れていった。ごく最近では、トム・ルット(Tom Ludt)氏がフェニックス・ファンド・インベストメンツ(Phoenix Fund Investmentsドバイ拠点のフェニックス社の親会社)を6月に辞めている。

 それまでに元生産アドバイザーのダーモット・ファリントン(Dermot Farrington)氏、一流トレーナーのマーティン・ミード(Martyn Meade)調教師やボブ・バファート調教師がフェニックス・サラブレッズ社から離れていた。

 ルット氏は本紙に対してこう語っていた。「ワンコイン詐欺の容疑が浮上して以降、アブドゥラズィーズ氏からは1本しか電話がありませんでした」。

 「人それぞれであり、良し悪しを判断する立場にありませんが、アブドゥラズィーズ氏は1人として顧客の名前を挙げることはありませんでした。大きな投資企業では同じようなものであると読んだことはありますが、フェニックス社の顧客を知る者は全くいないようでした」。

 今シーズン、フェニックス社とその系列のフェニックス・レディーズ・シンジケート(Phoenix Ladies Syndicate)は、ジョン・クイン(John Quinn)、カール・バーク(Karl Burke)、エド・ヴォーン(Ed Vaughan)、アーチー・ワトソン(Archie Watson)、ピーター・チャプル-ハイアム各調教師と協力して馬を出走させている。チャプル-ハイアム調教師は7月、英オークス(G1 エプソム)にバラニスター(Bharani Star)を出走させた(結果は6着)。

 世界全体においては、フェニックス社はUAE・豪州・アイルランド・フランス・米国で馬を出走させている。豪州ではラヴィングガビー(Loving Gaby)とファーナン(Farnan)、米国ではヴォラタイル(Volatile)がG1を制している(訳注:ラヴィングガビーは10月のジ・エベレストを目指していたが、怪我のために引退を余儀なくされた)。

 フェニックス社とアブドゥラズィーズ氏は、昨年11月から本紙が直接投げ掛けた質問に対して答えていない。本紙の "フェニックス・サラブレッズ社が答えないであろう10の質問(8月11日付)"と題したトップ記事にも取り合わなかった。

 フェニックス社の8月11日付の声明には、明らかにこの記事に対する反応として、「いくつかのメディアが事実とは異なる主張をしていますが、弊社は適切に事業を行っています。今回の事業撤退の決定は、競馬メディアから不当な扱いを受けたことも大きく影響しています」と記されていた。

 8月11日にアブドゥラズィーズ氏に対してコメントを求めることはできなかった。

By Peter Scargill

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[Racing Post 2020年8月11日「Phoenix Thoroughbreds to end racing operations in Britain」]