海外競馬ニュース 2020年09月24日 - No.37 - 1
英国競馬、今後6ヵ月間は無観客の可能性(イギリス)[開催・運営]

 英国競馬界は9月22日、観客が今後6ヵ月間に戻る見込みがないという衝撃的なニュースを聞き、混乱させられている。競馬界の重鎮の1人に言わせれば、それは"スポーツ関連団体の存続やそれらが支えている多くの人々の生活を脅かすもの"である。

 新型コロナウイルスの感染拡大はすでに、大きな打撃を競馬に及ぼしてきた。6月にレースが再開されて無観客での開催を余儀なくされてきたが、10月1日から観客が戻って来るという望みがあった。

 しかし、ボリス・ジョンソン首相が庶民院で新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための行動制限を発表したことで、その希望的観測は消え去った。その行動制限には、ニューマーケットのケンブリッジシャー開催(9月24日~26日)などで計画されていた有観客開催の試験的実施の中止が含まれていた。

 ジョンソン首相はこう語った。「ワクチン・治療・新たな形式の集団検査の開発への努力を惜しみませんが、明白な進展がないかぎり、今回発表した行動制限を受け入れなければなりません。この行動制限はおそらく今後6ヵ月間続行されるでしょう」。

 「ウイルスを抑制するにあたり状況が好転し、英国人が以前の習慣を取り戻せるのであれば、もちろん措置を見直すでしょう」。

 BHA(英国競馬統括機構)、ホースメングループ(Horsemen's Group)、競馬場協会(Racecourse Association:RCA)は、この発表を"競馬産業にとって、そして競馬で生計を立てる人々とコミュニティーにとって深刻な打撃である"と述べた。またRCAは声明において「私たちは英国政府に対し、競馬場は今年2億5,000万~3億ポンド(約337億5,000万~405億円)の収入減少に直面していると話してきました。この次に生じるのは、競馬参加者や馬主に渡る賞金額が減少するということです」と記している。

 ジョンソン首相は今回発表した措置がウェールズやスコットランドの地方分権政府によって実施されることを望んでいる。そしてこれらの措置は、ジョッキークラブ競馬場社(Jockey Club Racecourses 英国の14競馬場を所有)が運営する最も輝かしい祭典チェルトナムフェスティバルが来年3月に無観客で開催される可能性を高める。

 ドンカスター競馬場は9月に有観客開催を試験的に実施し、ウォリック競馬場は9月21日に限定数の観客に門戸を開放した。しかし、春のロックダウンから12ヵ月にわたって入場料を支払う観客が不在になるかもしれないという事実を受けて、競馬界は政府の介入を要求している。

 ジョッキークラブのグループCEOであるネヴィン・トゥルーズデール(Nevin Truesdale)氏はこう語った。「競馬界はこれまで2回、有観客開催を試験的に実施しました。それにより、ソーシャルディスタンスを確保するために十分に広い野外スペースを提供すること、また厳しいプロトコルを実施することで、人々を安全に迎えられることを示しました。それでも私たちは、人々の接触を減らすために有観客開催を試験的に実施する計画を中止する政府の決定を尊重します」。

 「入場料を支払う観客が不在であることで、多くのスポーツにとっての最大の収入源は6ヵ月にわたって断ち切られており、この状況がすぐに変わる目途は立ちません。これはスポーツ関連団体の存続やそれらが支えている多くの人々の生活を脅かすものです」。

 「今こそ、スポーツ界は政府に介入してもらい、政府が7月に芸術界に15億7,000万ポンド(約2,119億5,000万円)を与えたように、直接的な支援を提供してもらう必要があります。スポーツ界とそれを支える活動は60万もの雇用を維持しており、英国経済に年間160億ポンド(約2兆1,600億円)以上もの貢献をしています。競馬界だけでも、通常時で年間40億ポンド(約5,400億円)以上の貢献をしていますが、今年はそうならないでしょう」。

 英国では年間約600万人が競馬を観戦し、競馬は英国で2番目に多い観客を集めるスポーツになっている。BHAのCEOニック・ラスト氏は、9月22日午後、デジタル・文化・メディア・スポーツ大臣であるオリバー・ドウデン氏との緊急会議において、観客を再び迎えることが最優先課題であるとし、事業再生基金についても話し合ったと見られる。

 ラスト氏はその会議を利用して、競馬界への資金調達方法の変更について働きかけた可能性もある。同氏はこう語った。「競馬界のリーダーたちはかつてないほど一丸となって取り組むことで、この危機に対応しています。私たちは再生計画のために取り組んでいますが、本日の発表はその進歩を後退させるものです。私たちは政府に対して、財政支援を行うこと、そして賦課金制度の早急な改革を認めてもらうことを強く訴えるでしょう」。

 「忠実な馬主や世界中の重要な投資家は、これまで英国競馬界を支援してきました。その信頼を維持するために、私たちは政府が一緒に取り組むことを求めています」。

 英国では6月1日にニューキャッスル競馬場において、厳格なガイドラインの下でレースが再開された。そのガイドラインは1ヵ月後に緩和されて馬主が入場できるようになった。しかし8月に挫折を経験した。新型コロナウイルス感染者急増を受けて、グッドウッド競馬場が計画していたグロリアスグッドウッド開催での有観客開催の試験的実施が中止となったのだ。

 サセックス州のサーキット(開催日が重ならないように日程を合議して決めた競馬場の一群)の責任者であるアダム・ウォーターワース(Adam Waterworth)氏は、BBCラジオ4のトゥデイプログラムで新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたことについて明らかにした。

 「10月11日は今シーズン最後の競馬開催日です。私たちはこの数週間、想定していたというよりも希望をもって、限定数の観客を迎えることを計画していました」。

 「今回のニュースがもたらされたことで、今年の平地シーズンは観客を全く迎えないままで終了するでしょう。私たちはイベントを催すビジネスを行っており、観客がなければビジネスは成り立ちません。厳しいものになりそうです」。

 「これまでの措置を過小評価するわけではありませんが、一時解雇制度の延長などは、従業員を雇い続け、我々がこの危機を乗り越えるためベストを尽くすことに役立つでしょう」。

By James Burn and Jonathan Harding

(1ポンド=約135円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2020年No.34「ドンカスター競馬場、9月9日から有観客開催を試験的に実施(イギリス)

[Racing Post 2020年9月22日「Hammer blow as new restrictions mean crowds might not return for six months」]