海外競馬ニュース 2020年10月15日 - No.40 - 1
名牝エネイブル、驚異的なキャリアを全うして引退(イギリス)[その他]

 ジョン・ゴスデン調教師とフランキー・デットーリ騎手は10月12日、華々しいキャリアに幕を下ろした名牝エネイブルの並外れた資質を称賛した。同馬の関係者はこの驚くべき名牝に最後にもう一戦させるのではなく、すぐに引退させることを選んだ。

 優れた手腕でエネイブルを5シーズンのあいだ出走させてきたゴスデン調教師はこう語った。「エネイブルは驚異的なキャリアを全うし、満足げで健康な状態で引退しました。このクレアヘイヴン調教場(Clarehaven Stables)で働く私たちは皆、幸せなことに、この5年間をエネイブルと一緒に過ごせ、その強い個性と優れた競走能力に実際に接することができました」。

 「毎日彼女と接することができたのは喜びでした。それに、そのG1勝利記録は驚嘆すべきもので前代未聞です。オークス競走を4勝、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 アスコット)を3勝、凱旋門賞(G1)を2勝、そしてエクリプスS(G1 サンダウン)とBCターフ(G1 チャーチルダウンズ)を優勝しました。彼女が近くの牧場で新しいキャリアを始めても会いに行くことを楽しみにしています」。

 エネイブルは49歳のデットーリ騎手のキャリアを再び盛り上げるのに寄与した。レジェンドジョッキーはこの名牝との絆を"これまで乗ったどの馬とのものよりも強い"と表現した。

 「騎手生活全体を通じてエネイブルは最愛の馬です。彼女にはすごく感動させられました。昨夜引退の知らせを聞いたときに少し涙が出ましたが、彼女がくれた素晴らしい思い出のおかげで、悲しみよりも喜びが勝っています」。

 カリド・アブドゥラ殿下の6歳牝馬はG1・11勝を果たした。凱旋門賞を連勝し、史上初のキングジョージ3勝を達成したことで最も輝かしいスター馬の1頭となり、そのレガシーを確かなものにした。

 しかしエネイブル(父ナサニエル)は2年連続で歴史的な凱旋門賞3勝を達成し損ねた。10月4日に不良馬場のロンシャンで6着に敗れたのだ。

 今シーズンは凱旋門賞を中心に構築されていたので、このレースが終わればすぐに引退すると思われていたが、関係者は英国チャンピオンズデー(10月17日 アスコット)でもう一戦する可能性をわずかに残していた。

 ゴスデン調教師は、最終的に決定するのはアブドゥラ殿下であると述べていた。そして10月12日、アブドゥラ殿下のジャドモントファームはエネイブルが即時に引退することを発表した。

 ジャドモントファームのCEOダグラス・アースキン-クラム(Douglas Erskine-Crum)氏はこう語った。「殿下は、ゴスデン調教師、レーシングマネージャーのテディ・グリムソープ氏と話し合いました。そして、エネイブルは現役を引退し、ジャドモントファームで繁殖入りし、2021年はキングマンと交配するとおっしゃいました」。

 グリムソープ氏はこう続けた。「エネイブルは、彼女に関わるすべての人々に大きな喜びをもたらしました。彼女の気品および強い個性はクレアヘイヴン調教場において、ジョンとそのチームによって育まれました。とりわけ、穏やかさと献身的愛情をもって彼女を世話したイムラン・シャーワニ(Imran Shahwani)氏が素晴らしい手腕を発揮してくれました」。

 「フランキーは、エネイブルがレースで実力を発揮できる意欲的なパートナーであることに気づきました。彼女の経歴はどれだけ詳しく調べても立派なものに違いなく、彼女が競馬界にもたらしたほどのことを達成できる馬はほとんどいません」。

 エネイブルのキャリアは、序盤は控えめなものだったが、その後上昇していった。2016年11月のオールウェザー競走(ニューキャッスル)でデビューし、単勝4.5倍でロバート・ハヴリン騎手を背に勝利を挙げて完璧なスタートを切った。ただし、これが2歳シーズンで出走した唯一のレースだった。

 3歳シーズンの初戦となるニューベリ競馬場でのレースでは3着に終わったが、その後に挑戦したチェシャーオークス(L チェスター)では優勝した。そして英オークス(G1 エプソム)に有力馬の1頭として出走して堂々とした走りを見せ、劇的な5馬身差の勝利を決めた。

 エネイブルはその後、愛オークス(G1)、キングジョージ、ヨークシャーオークス(G1)で3つのG1優勝を追加した後、初めてフランスの凱旋門賞に挑んだ。

 ロンシャン競馬場が改装工事中だったためにシャンティイ競馬場で施行された凱旋門賞において、エネイブルは3歳牝馬のアローワンスを最大限に生かしてクロスオブスターズ(Cloth Of Stars)を破って圧倒的な勝利を果たした。

 エネイブルの2018年の初戦は9月にまでずれ込んだ。セプテンバーS(G3 ケンプトン)でクリスタルオーシャン(Crystal Ocean)を負かして、凱旋門賞の連勝に向けてのウォーミングアップを行った。

 ロンシャンに向けての準備は理想には程遠いものだったが、エネイブルは2回目の凱旋門賞で真のチャンピオンの決意を見せ、短首差を死守してシーオブクラス(Sea Of Class)を下し優勝した。

 その後、エネイブルはブリーダーズカップ開催(チャーチルダウンズ)への遠征を成功させ、世界にむけたアピールを高めた。BCターフ(G1)において古くからのライバル、マジカル(Magical)を負かし、凱旋門賞とBCターフを同じ年に制した史上初の馬となった。

 翌年にはさらにG1勝利を重ねた。エクリプスSで優勝し、キングジョージではクリスタルオーシャンとの激しい対決を勝ち抜き、ヨークシャーオークス(G1)でも勝利を手にした。しかし、そのシーズンは稀に見る失望で幕を閉じた。未踏の凱旋門賞3勝達成に挑んだエネイブルをヴァルトガイストが負かしたのだ。

 アブドゥラ殿下は、エネイブルに6歳シーズンも現役を続行させて凱旋門賞3勝を目指すという冒険的な決断を下した。その後、エネイブルはエクリプスSでガイヤースの2着に終わったが、キングジョージで優勝して史上初の同レース3勝馬となりいつもの調子を取り戻し、セプテンバーSの2勝目を成し遂げた。

 エネイブルは運命を決する凱旋門賞に単勝1倍台で臨んだが、その力を炸裂させることなく6着に敗れた。関係者たちは不良馬場とスローペースを悔やんだ。

 エネイブルは英仏海峡を越えて4年連続で凱旋門賞に参戦したことで、フランスの競馬ファンの間でも堅実な一番人気馬に支持されていた。

 フランスギャロ(France Galop)はエネイブルの引退の知らせに対して、こうツイートした。「フランス競馬界はジャドモントファーム、エネイブル、フランキー・デットーリ騎手、ジョン・ゴスデン調教師に大変感謝します。凱旋門賞に4回参戦して2勝を挙げたエネイブルはフランス最高峰のレースの評判を高めるのに多大なる貢献をしました」。

 エネイブルは5年にわたる競走生活において19戦15勝(そのうちG1は11勝)を果たし、獲得賞金は1,072万4,320ポンド(約14億4,778万円)に上った。

 この額はハイランドリール(Highland Reel)を超えて欧州調教馬の中で最高である。世界最高賞金13,62万2,542ポンド(約18億3,904万円)を獲得したアロゲートもアブドゥラ殿下の所有馬だった。

By Andrew Dietz & David Milnes

(1ポンド=約135円)

[Racing Post 2020年10月12日「Gosden and Dettori hail 'extraordinary' Enable after wondermare is retired」]