通信技術の専門家によれば、世界中での5G(第5世代移動通信システム)モバイルネットワークの急拡大は、特に競馬にチャンスをもたらし、賭事運営者にとってゲームチェンジャー(市場の状況やルールを急激に変えてしまう要素)になりうる。
通信業界の最大手企業NTTのスティーヴン・ワイズ(Stephen Wise)氏(アジア太平洋地域コンサルタント担当上席副社長)は、アジア競馬会議(Asian Racing Conference: ARC ケープタウンで開催)で各国代表者たちに対してこう語った。「5Gはすべてを変え、ビジネスと顧客に対して可能性を切り開きます。スポーツ・エンターテインメント産業では目まぐるしく状況が変化しており、顧客との相互作用を変えるために新たな通信技術が利用されています」。
「変化は瞬時に生じます。5Gがもたらすのは高速で頻繁な変化です。小さな空間ではるかに多くのデバイスを使用することができ、しかもよく機能します」。
「大観衆がいる競馬場では、回線が込み合いうまく繋がりません。しかし、5Gは膨大な数のデバイスの同時接続を可能にします」。
ワイズ氏はマッセルバラ競馬場の近くで育ったスコットランド人である。同氏は、競馬場以外の場所にいる顧客の体験を向上させるために新しいテクノロジーをどのように利用できるかについて説明した。5G技術により、顧客はまるで競馬場にいるように感じることができ、競馬場・場外馬券発売所・自宅のどこにいても高速通信環境を体験することができるだろう。
同氏は、NTTが過去5年間のツール・ド・フランス(フランスの自転車ロードレース)で行ったライブトラッキングのためにサドルの下にデバイスを取り付ける取組みについて詳細を語った。また昨年のゴルフの全英オープンで視聴者にゴルファーのショット時のエモーション評価などのデータをリアルタイムで中継した"ファン・ウォール(NTT Data Wall)"の開発についても説明した。
ワイズ氏はこうまとめた。「現在27ヵ国で5Gは稼働しており、2020年には大規模に展開されます。競馬界がとりわけ若年層に馬券購入機会を提供する新たな方法をどのように見つけられるかが問題です。それにより、顧客と競馬産業が関わり合う方法が根本的に変わるでしょう」。
5Gの重視は、すでに香港ジョッキークラブ(HKJC)の演題にも含まれていた。HKJCの顧客・国際ビジネス開発担当専務理事のリチャード・チャン(Richard Cheung)氏は、AI(人工知能)やIoT(インターネットオブシングス)の使用と同時に、5Gのさらなる開発について説明した。5Gは、賭事客により深く関与し発売金を増やすための3方向からのアプローチの1つである。
チャン氏は、顧客は目当ての馬をレース中にもっと簡単に目で追いたいと考えているとし、こう説明した。「それはモバイルへの5Gストリーミングと、馬番と勝負服の組合せを認識してその馬を識別できるAIがあれば可能になります。これは競馬界にビギナーファンを引き付けるのに役立ちます。ビギナーファンからの最も多い苦情は、レース中に目当ての馬がどこにいるのか分からなくなるというものです」。
香港の戦略には、賭事のさらなるグローバル化も含まれている。それは、昨年ロイヤルアスコット開催の30レース中24レースを対象にした世界共同賭事プールを導入したことで大きく前進した。結果として、プール賭事市場は1,800万ポンド(約25億2,000万円)から9,200万ポンド(約128億8,000万円)に拡大した。
世界共同賭事プールが今年再び実施されても顕著な変化が起こることはあまり見込めないが、アスコット競馬場のCOO(最高執行責任者)アラステア・ウォリック(Alastair Warwick)氏は馬券の種類を増やすことを明らかにした。
同氏はこう語った。「英国ではエキゾチック馬券(3連単など高額配当が見込める馬券)はあまり支持されていませんが、他国ではとても人気があります。英国ではスウィンガー馬券(ワイド)の発売金は、2018年には13万4,000ポンド(約1,876万円)でしたが、2019年には550万ポンド(約7億7,000万円)になりました。それで、私たちは今年3連単を導入する予定です。同じような売上増加を期待しています」。
By Howard Wright in Cape Town
(1ポンド=約140円)