海外競馬ニュース 2021年05月20日 - No.18 - 1
ロンバウアーがプリークネスS優勝(アメリカ)[その他]

 ケンタッキーダービー(G1)の優勝馬がプリークネスS(G1)で敗れると、競馬産業全体が"不滅のランナーは生まれなかった"という失望のため息に包まれるのが常である。

 第146回プリークネスSは、その型にはまるものではなかったと言えよう。

 5月15日に三冠の真ん中の宝石をかけた目まぐるしい戦いが繰り広げられたときには、随分と異なる雰囲気があった。

 もちろん優勝馬ロンバウアーの関係者たちは歓喜した。

 カリフォルニアを拠点とし今回初めてクラシック制覇を果たしたマイケル・マッカーシー調教師は、この勝利について、また調教師生活において決定的な瞬間だというのにピムリコ競馬場に家族を伴わなかったことについて、かすれた声で語った。

 「さっきまで感情的になっていました。私のチームで最も大きな部分を占めるであろう家族・妻・娘が今日ここにいてくれたらどんなに良かっただろうと思います」。

 ロンバウアーのオーナーブリーダーであるジョン&ダイアン・フラドキン夫妻は、わずか2頭の繁殖牝馬からクラシック優勝馬を送り出したことに大きな誇りを感じていた。

 「まったく特別なことです。これは多くの繁殖牝馬に長くもたらされることになる血統の更新です。ええ、たいへん誇りに思っています」とジョン・フラドキン氏は語った。

 またフラドキン夫妻は、自家生産馬であるロンバウアー(父トワーリングキャンディ)が出走する三冠競走としてプリークネスSを選んだことについても満足していた。ロンバウアーがブルーグラスS(G2)で3着となった後、マッカーシー調教師はケンタッキーダービーに出走させることを望んだが、フラドキン夫妻は総賞金100万ドル(約1億1,000万円)のプリークネスSまで待つことを希望した。フラドキン夫妻は調教師を説き伏せ、ロンバウアーは夫妻に先見の明があったことを見せつけた。

 ジョン・フラドキン氏は「ロンバウアーの走り方は、最近のケンタッキーダービーを勝てる走り方にはつながりません。プリークネスSは、ダービーのメンバーの中から優勝馬とわずか数頭しか挑んでこないので、通常は比較的楽なレースです。もしロンバウアーがダービーに出走していたら興奮して砂ぼこりを被ったうえに賞金も稼げず、プリークネスにも出られなかったでしょう。優秀なステークス勝馬がいて、その馬がそれまでで最高のレースに出走するのであれば、賞金を獲得したいと思うでしょう。ダービーよりもこっちのほうがその可能性がずっと高かったのです」と語った。

 実際、ロンバウアーはそうだった。

 優勝馬関係者と単勝12倍のロンバウアー(ケンタッキー産)の馬券を購入したファンが喜ぶのは至極もっともだった。一方、競馬界の一部でも安堵感が漂っていた。ボブ・バファート調教師が5月9日に「競走後検査で、ケンタッキーダービー優勝馬メディーナスピリットからコルチコステロイドのベタメタゾン(betamethasone)が血液あるいは血漿1mlあたり21ピコグラムが検出されました」と発表してから、競馬界は目まぐるしい6日間を送った。

 ケンタッキーダービーに関連する分割サンプル検査の結果はまだ出ておらず、メディーナスピリット(馬主:ゼダンレーシングステーブルス)はプリークネスSに先立ち3つの検査をパスしたが、もし同馬がプリークネスSで優勝していれば、三冠競走に漂う暗雲は3戦目のベルモントS(G1)が施行されるニューヨークにまで付きまとい、競馬界にさらにネガティブなイメージをもたらしていたことだろう。

 しかし、単勝3倍の1番人気でこのレースに臨んだメディーナスピリットがロンバウアーと2着のミッドナイトバーボンに次ぐ3着に終わり三冠の道から外れてしまったことで、今後数週間は他の馬に注目が移る可能性がある。

 マッカーシー調教師は「この6日間の騒動は、特に競馬の最も大事な週末に起きてしまったので、不幸なことです。これで通常の競馬に戻ることができますし、それが必要なことです。競馬では色々問題が起こりますが、今日のような日があるからこそ素晴らしいものになるのです」と語った。

 この日はピムリコ競馬場の入場者数は1万人に制限されていたが、すべての媒体から得られた発売金は過去最高の1億1,250万ドル(約123億7,500万円)に上ったという面でも、プリークネスSは大成功を収めた。「悪い宣伝なんてものは存在しない」という格言は、プリークネスS開催日の発売金にも当てはまるようだ。

 三冠競走の最終レース、6月5日のベルモントS(約2400m)にロンバウアーが出走する可能性を、ジョン・フラドキン氏は五分五分としている。ロンバウアーが芝のレースでデビューして優勝したことで、フラドキン氏はNYRA(ニューヨーク競馬協会)が主催する芝三冠競走[いずれも総賞金100万ドル(約1億1,000万円)]に関心を示した。

 同氏は、「芝三冠競走に目をつけています。一冠あるいは三冠達成を狙ってみたいです。マッカーシー調教師とこれについて話し合おうとしています。まだ何も確定していませんが、この馬は芝でもうまくやれると思います」と語った。

 プリークネスS(約1900m)はその大半において、先行する2頭の人気馬の接戦となった。メディーナスピリットとジョン・ヴェラスケス騎手はダービーと同様、序盤から先頭に立った。しかし、ダービーで出遅れて6着に終わったミッドナイトバーボン(馬主:ウィンチェルサラブレッズ)がプリークネスSではスムーズに発走し、単勝4倍の2番人気に推された同馬は果敢に追撃して2着となった。

 メディーナスピリットは道中ミッドナイトバーボン(父ティズナウ)に½馬身先行し、2ハロンを23秒77、4ハロンを46秒93、6ハロンを1分10秒97で通過した。10頭立てのこのレースでメディーナスピリットは他馬を2馬身ほど引き離して先頭を走っていた。だが最終コーナーでロンバウアーとフラヴィアン・プラ騎手だけが差を縮めてきて、マッカーシー調教師を笑顔にした。

 同調教師はこう語った。「後ろには脅威となる馬はいませんでした。先行していた数頭は2ハロン標識まで、互いに譲っていました。直線の入口でフラヴィアンがロンバウアーを持ち出してきたときには、興奮してきました。この馬の切り札はスタミナと利口さだと思っています。彼はその両方を備えているんです。この馬はレースが続く限り、どこまでも走っていくと思います。彼にはやめる気がありません。ただ走ることだけを知っていて、毎回それをやり遂げるんです」。

 ミッドナイトバーボンとイラッド・オルティスJr.騎手は、最後の直線の前半でメディーナスピリットを引き離して残り200mの地点で1½馬身リードしたが、ロンバウアー(エルカミノリアルダービー優勝馬)の追撃に抵抗しきれずに追い抜かれ、3½馬身差の2着となった。

 高速馬場での勝ち時計は1分53秒62。1/5秒単位で調整すると、プリークネスS史上6番目に速いタイムとなる。

 メディーナスピリットに2馬身差をつけて2着となったミッドナイトバーボンを手掛けるスティーブ・アスムッセン調教師は、「イラッドは夢のようなレース運びをしてくれました。最初の周回でゴール板を通過したとき、"ダービーでもこんな風になれば良かったのに"と思いました。それでも一生懸命走ってくれました。よく頑張りました」と語った。

 バファート調教師は自分ではなく馬に注目してもらいたいという理由で、プリークネスSは出席せずにカリフォルニアにとどまっていた。メディーナスピリットと単勝4.5倍の3番人気で出走して9着に終わったコンサートツアー(馬主:ゲイリー&メアリー・ウエスト夫妻)には、調教助手のジム・バーンズ氏が同行した。

 同氏はメディーナスピリットについて、「ケンタッキーダービーの後、中1週で出走させるのは大変です。ちょっとがっかりしましたが、ここから頑張ろうと思います」と述べた。

 キープミーインマインド(父ラオバン)はメディーナスピリットから4馬身差の4着に入った。

 ロンバウアーはこの勝利により初の重賞優勝を果たし、通算成績を7戦3勝とした。母カシミア(父カウボーイカル)にとって4番目にデビューした仔であり、初のステークス勝馬となったケンタッキー産のロンバウアーは今回賞金60万ドル(約6,600万円)を獲得し、獲得賞金総額は89万500ドル(約9, 796万円)となった。

 結局、競馬界で最も有名な人物、バファート調教師にまつわる通俗な芝居を見続けさせられた1週間を経て、今回のプリークネスSは競馬界の根幹を支える他の馬主や調教師たちにスポットライトを当てることになった。

 マッカーシー調教師はこう付言した。「私たちのゲームはそれで成り立っています。プリークネスSのようなレースは言うまでもなく、レースに出走するまでにはたくさんのことがあります。一握りの馬しか管理していなくとも、何百頭を管理しているのと同じぐらいの能力を持つ調教師もいます。フラドキン夫妻は小さな繁殖事業しか行っていません。彼らはそれに情熱を注いでいるのです。少なくとも、十分な情報に基づいて決断を下す方法だといえるでしょう。そこに多くの時間と努力を費やしています。以前、ジョンは私にこう言いました。『私の方があなたよりも勉強する時間がたくさんあるんです』と。そのとおりです。しかし、優秀な馬がどこから出てくるか理解するのは大変なのです。この馬が私たちの手に委ねられたことを嬉しく思います。この旅が終わったとは思っていません。どこに連れて行ってくれるのか見てみましょう」。

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By Bob Ehalt

(1ドル=約110円)

[bloodhorse.com 2021年5月15日「Rombauer Upsets Preakness, Medina Spirit Third」]