海外競馬ニュース 2021年09月02日 - No.32 - 1
エッセンシャルクオリティ、トラヴァーズSでミッドナイトバーボンを撃退(アメリカ)[その他]

 ブラッド・コックス調教師(41歳)の心の中で、モノモイガールを超える馬はいないだろう。

 モノモイガールはコックス調教師にとって初のG1馬である。ケンタッキーオークス(G1)を制し、さらにBCディスタフ(G1)を連覇して、エクリプス賞を2回受賞した。

 だからと言って、そのトップの座の争いに"同着"がありえないわけではない。

 そのような気持ちをコックス調教師は抱いた。ゴドルフィンのエッセンシャルクオリティの見事なパフォーマンスをふたたび目の当たりにして感情が高ぶったのだ。このずばぬけて才能のある牡馬は、調教師から最高級の賛辞を新たに引き出そうとし続ける。

 今回はまさに"特別"だった。自家生産馬エッセンシャルクオリティは8月28日、サラトガ競馬場に集まった4万4,507人の観客の目の前で、ミッドナイトバーボンをゴール間際でとらえてトラヴァーズS[G1 総賞金122万5,000ドル(約1億3,475万円)]を首差で制し、輝かしいレガシーをさらに大きなものにした。

 2020年の最優秀2歳牡馬であるエッセンシャルクオリティが9戦目となるこのレースで8勝目を挙げた後、コックス調教師はこう語った。「彼はとても特別な存在です。本当にそうです。この気持ちを言葉で説明するのは難しいですね。長年働く中でたくさんの馬を管理してきて、モノモイガールなどのチャンピオンもいますが、彼は確かに彼女と同じくトップの座にいます。彼とモノモイガールが"同着"だと言っているだけで、区別したくないというのが本音です。2頭とも大好きですし、特別な馬ですからね」。

 「エッセンシャルクオリティは殿堂入りを狙える馬です。偉大な馬で、彼のような馬は毎年出てくるものではありません。めったにいるものではありませんね」。

 コックス調教師がエッセンシャルクオリティの大ファンであることは言うまでもないが、このG1・2勝馬の大ファンがもう1人現れたことで同調教師は不意を突かれた。コックス調教師、ルイス・サエス騎手、ゴドルフィンUSAのジミー・ベル会長にトラヴァーズSのトロフィーを授与する際に、新たなニューヨーク州知事のキャシー・ホークル氏がエッセンシャルクオリティへの愛着を語ったのだ。

 コックス調教師は、「彼女はこの馬のファンだと言ってくれました。本当にありがたいことでした。すごく感動しました」と述べた。

 エッセンシャルクオリティについて気に入らない点をさがすのは至難の業だ。彼のキャリアはすべて順調だった。ケンタッキーダービー(G1 5月1日)で発走時に他馬と衝突して、わずか1馬身差の4着に終わったことを除けば。

 その後、彼は立ち直ってベルモントS(G1)、ジムダンディS(G2)、そして今回のトラヴァーズSと立て続けに勝利を収めた。この3連勝を果たした際の着差は合計しても2馬身ほどだが、どのレースでも最強の馬だったことは間違いない。それはちょうど、最終的に最優秀3歳牡馬に選出されることがほぼ確実であるように。

 それらのみならずBCクラシック(G1)を11月6日に控えており、私たちはエッセンシャルクオリティの最高の状態をまだ見ていないのかもしれない。

 コックス調教師は、「彼の最高の状態を見ていないのかもしれません。まだ3歳ですからね。ますます進化しています。とても優秀かつ聡明で、すごい馬です」と語った。

 またエッセンシャルクオリティは丈夫で驚くほど長いあいだ絶好調をキープしている。ブリーダーズカップが創設された1984年以降で、8頭目のトラヴァーズSを制した2歳チャンピオンとなった。またBCジュベナイル(G1)を制して2歳チャンピオンに選ばれ三冠競走とトラヴァーズSを制した2頭目の馬となった。もう1頭はストリートセンスだ。

 ゴドルフィンチームも、自家生産馬が次々と偉業を達成し続けていることに満足している。

 ベル会長はこう語った。「ゴドルフィンのオーナーであるモハメド殿下のおかげであり、感謝したいと思います。魔法のような経験に関わることができたのは、ゴドルフィンチーム全体の見事な成果です。このような競走馬を2歳時も3歳時も第一線で活躍させることができるのは、ゴドルフィンの生産・競走プログラムの素晴らしさをよく表しています。彼は皆にたくさんの喜びをもたらしてくれました」。

 「見事なチームワークでした。ブラッドとそのチームは良い仕事をしてくれました。育成を担当したナイル・ブレナン氏がエッセンシャルクオリティについて語った初期のコメントを覚えています。この馬は行かせたいところに行ってくれますし、やらせたいことを何でもやってくれます。促すだけで、欲しいものをもたらしてくれるでしょう。いつも良い結果を出してびっくりしますが、彼の才能を考えれば驚きではありません。でも彼が全能力を出して今日の午後に成し遂げたことについては、やはり驚嘆ものです」。

 8月28日には、新たな勝利を得るために才能と果敢さを要した。

 ミッドナイトバーボン(馬主:ウィンチェルサラブレッズ)は前走のハスケルS(G1 7月17日 モンマスパーク)でホットロッドチャーリーが内側に寄ってきたために進路を妨害され、大きく躓き騎手が落馬していた。この不運な出来事を無傷で乗り切ったミッドナイトバーボン(父ティズナウ)はトラヴァーズS(約2000m)で素晴らしい走りを見せた。

 リカルド・サンタナJr.騎手を背に、序盤からペースを上げて残り½マイル(約800m)を1分14秒49という余裕のあるタイムで過ぎて3½馬身のリードを奪った。この時点でエッセンシャルクオリティは2番手につけていたが、最終的にはゴールまで2頭の一騎打ちとなった。

 サエス騎手に促されたエッセンシャルクオリティは、1マイルを1分38秒81で過ぎたあとに、ミッドナイトバーボンとの差を½馬身に縮め、そこから2頭はゴールまで競り合い続けた。単勝1.4倍の1番人気馬エッセンシャルクオリティは、残り1ハロン(約200m)で僅差のリードを築くとそれをゴールまでキープした。ミッドナイトバーボンはどの段階でも対抗し続け、このレース(約2000m)の走破タイムは2分1秒96という速いものになった。マイルズディー(Miles D)はミッドナイトバーボンに5馬身後ろの3着に入った。

 サラトガのリーディングジョッキーであるサエス騎手は、「彼はライバルを追い抜いてもなお、先頭で粘り続けることができます」と語った。

 ミッドナイトバーボンを管理するスティーヴ・アスムッセン調教師は、この牡馬の活躍にとても満足していた。

 「私たちが望んでいたとおりの馬場と展開でした。リカルドは彼を道中正しく走らせました。ただ走らせ続けたのです。彼はなんて素晴らしい馬格をしているのでしょう。懸命に走りました。とても満足しています。残り½マイルを1分14秒台で通過し2分1秒台でゴールしたのですから、さすがの走りです。2頭はさっさと仕事をすませてしまいました」。

 エッセンシャルクオリティは、ディライトフルクオリティの第4仔で唯一のステークス勝馬である。半妹にフェイムド(父アンクルモー)という2歳の未出走馬がおり、コックス厩舎に送られるために現在ケンタッキーで馴致されている。

 コックス調教師はこのディライトフルクオリティの仔を管理するように、新たな指名を受けている。


 「エッセンシャルクオリティはチャンピオンであり、今日はそれにふさわしい走りを見せました」と同調教師は付言した。
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By Bob Ehalt

(1ドル=約110円)

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