近年、G1を制してウィナーズサークルに戻ってきたときにバーイード(牡3歳)のように落ち着きはらっていた馬はほとんどいなかった。以前は、キングマンやバーイードの父シーザスターがそうだった。
これは稀有な資質であり、この牡馬にとって今回初となったG1のウィナーズサークルへの訪問を将来一定の間隔で繰り返すための鍵となるかもしれない。
確かに、夫ウィリアム・ハガス調教師の助手でありサマービルロッジの専門家グループの重要な一員であるモーリーン・ハガス氏は、ムーランドロンシャン賞(G1 ロンシャン)のゴール後すぐに見た光景を、レースで展開された光景とまったく同じように好んでいた。そのレースでは、バーイードがオーダーオブオーストラリアを何とかかわして1¼馬身差をつけてゴールし、もう1頭の確固たるG1馬、ヴィクタールドラムが短首差の3着に入った。
ハガス氏は、「彼は耳が前に出たままなので、全力を使い果たしたとは思っていません」と述べた。
もしジム・クロウリー騎手の戦略が経験の浅い相棒を馬群の後ろにつけて落ち着かせることだったとしたら、このレースで唯一のペースメーカーであるドイツ調教牝馬ノヴェンバ(Novemba)がスタートで行き足がつかず外側からバーイードを抜いた時点で役立たなくなっただろう。
ハガス氏はこう語った。「ノヴェンバに抜かれたとき、彼は少し興奮していました。彼が導かれたところには、ちょうど良い壁になってくれる馬がいませんでした。彼はわずかに未熟で熱が入っていましたが、いい具合に勝ちました。今日はこれまでになかったような、ちょっとした苦戦をしました。これも学習プロセスの一環ですね」。
バーイードは初めてのG1挑戦に先立ち評価が上々だった。そのため、ブックメーカー各社は次の目標となるであろう英チャンピオンズデーのクイーンエリザベス2世S(G1 10月16日 アスコット)でのこの馬のオッズを大きく変える余地を残していなかった。
クイーンエリザベス2世Sでのバーイードのオッズは、3.75倍から2.75倍に下がり1番人気となっている。このレースでは、パレスピアやポエティックフレアといった超一流マイラーと激突する可能性がある。
これまでのいくつかの英チャンピオンズデーで見られたようにアスコットにかなりの雨が降った場合、このシャドウェルの自家生産馬がうまく状況に対応できるかについては意見が分かれた。
ハガス氏はこう語った。「グッドウッドで勝ったときはどちらかと言えば遅い馬場でしたが、本当に重馬場で走らせたいとは思っていません。彼はアスコットのクイーンエリザベス2世Sに登録していて、現時点では明白な目標だと考えていますが、たまにあるようなひどい不良馬場になった場合は、考え直すかもしれません」。
「彼は今年ほとんど誤りを犯していないので、年内にもう一戦できなかったとしても、それで終わりではありません。好調を保って、得意とするような馬場になれば、もう一度出走するに違いありません」。
クロウリー騎手は、バーイードが秋の馬場にうまく対応できるかどうかについてはあまり心配しておらず、これからも期待できるはずだと考えている。
「心配していません。これまで良馬場から重馬場で走ってきました。グッドウッドはどちらかというと遅い馬場でした。彼は1マイルを粘りづよく走るので、この距離で重い馬場になっても心配はないだろうと思います」。
つまり出走前にどの程度の重馬場かどうかを問題にするのは、結局は程度差なのかもしれない。しかしクロウリー騎手はバーイードが成し遂げたことについて、見ていた人たちが受けた印象と同様のことを語った。
「彼は地元のレースをたやすく制しており、今回はG1レベルの強豪馬と競う第一歩となりました。競走生活において5回目の出走であり、見たところ、まだ学習中ですね。ペースメーカーが行き足を失って追い掛けてきたのですから、彼はとてもよくやったと思います。彼には壁になってくれる馬がいませんでしたが、とても落ち着いていて、うまく持ち直してくれました」。
「先頭に立ったときは少し空回りし、耳をそばだてていました。それでも素晴らしいパフォーマンスでしたし、このまま成長していってほしいです。彼は進歩し続けるでしょう」。
「ハムダン殿下のご息女のヒッサ王女、そしてシャドウェルの皆さん、誰にとっても素晴らしい勝利です」。
敗れはしたものの、斤量面でほぼ不可能な挑戦をしていると思われた2着馬と3着馬の関係者には満足感があったことだろう。
エイダン・オブライエン調教師は、2着馬オーダーオブオーストラリアの最優先目標をこれまでで最も明確に示した。それはBCマイル(G1 11月6日 デルマー)の連覇を目指すことであり、次走は昨年のBCマイルの舞台、キーンランドで開催されるターフマイルS(G1 10月9日)となる。
オブライエン調教師はこう語った。「彼がとてもよく走ってくれたのですごく満足しています。次走は4~5週間後に行われるキーンランドのターフマイルSを視野に入れています。思いどおりに行けば、それが次の目標になるでしょう」。
もう1頭の期待の英国調教馬スノーランタンはまたしても、レースの重要な局面で馬群の内側に閉じ込められてしまった。しかしリチャード・ハノン調教師とロックリフスタッドのチームは、今こそこの牝馬の競走距離を10ハロン(約2000m)に伸ばす時ではないかと真剣に考えているのかもしれない。
By Scott Burton