アーリントンパーク競馬場のオーナー、チャーチルダウンズ社(CDI)は9月29日、イリノイ州アーリントンハイツにある326エーカー(約131.9 ha)の競馬場の土地をシカゴベアーズに売却したと発表した。
CDIは、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のチーム、シカゴベアーズと売買契約を締結したと述べた。シカゴベアーズはこの土地を取得するために1億9,720万ドル(約216億9,200万円)を支払う予定である。これによりベアーズは、新たなスタジアムを建設するためにこの土地を利用できるだろうし、あるいは現在のスタジアム、ソルジャーフィールドとの契約をより有利に交渉できるだろう。
ベアーズの社長兼CEOのテッド・フィリップス氏はこう語った。「売買契約を締結させることは、この土地とその可能性を引続き調査し続けるための重要なステップでした。この取引を成立させるためには、アーリントンハイツビレッジ(シカゴ近郊の住宅地)やその周辺地域と緊密に連携するなど、まだ多くの課題が残っています」。
「私たちの目標は、チームが試合で好成績を収め、シカゴ都市圏がこの試みによって繁栄し、ベアーズの球団組織が力強い将来を確かなものにできるように、方針を策定することです。ベアーズファンに最高の体験を提供するために、つねに努力を続けていきます。最新の進捗状況については適宜報告していきます」。
奇しくも、CDIは2005年にハリウッドパーク競馬場をベイメドウズランド社に2億5,770万ドル(約283億4,700万円)で売却したが、その土地には現在、ロサンゼルスラムズとロサンゼルスチャージャーズの本拠地であるSoFiスタジアムがある。
CDIは、アーリントンの土地には多くの入札者がいたと述べた。
CDIのCEOビル・カースタンジェン氏はこう語った。「きわめて競争の激しい入札でした。プロ意識と根気を示したシカゴベアーズを称賛します。彼らがチームとファンのために、エキサイティングな構想に取り組んでいることは明らかです。彼らが最大の成功を果たすことを祈るとともに、アーリントンハイツビレッジにもたらされるチャンスとこのユニークな土地の将来の経済発展にワクワクしています」。
イリノイ州サラブレッドホースマン協会(ITHA)のデイヴ・マキャフリー専務理事は文書で、CDIの競馬に関わる姿勢を問題視した。
「これは衝撃を与えるようなことであってはならないのです。CDIはこれまでの実績が示すとおりのことをしてきたのです。それなのに彼らはまた競馬場を閉鎖したのです」。
ベアーズのリリースの中で、アーリントンハイツのトム・ヘイズ市長はこの土地の将来について楽観的な見方をしている。
「シカゴベアーズがアーリントンパークの土地の売買契約に署名したというニュース以上に、ワクワクするものはありません。この優良物件を最も効率的かつ有益に活用することが、つねに再開発のための私の目標であり、これ以上に良い利用方法は考えられません」。
「この旅を始めるには長い道のりがあり、コミュニティのために議論すべき多くの課題があります。しかしアーリントンハイツビレッジは、ベアーズの球団組織やすべての関係者と協力すること、アーリントンハイツと北西郊外地域のためにこのチャンスを模索することに取り組んでいきます」。
シカゴトリビューン紙によると、6万1,500人収容のソルジャーフィールドは現在使用されているNFLスタジアムの中で最も小さい。また同紙は、ベアーズはこの土地でスタジアム建設を進めれば、アーリントン周辺で小売店・飲食店・娯楽施設などのための開発もできることになるだろうと指摘している。
さらに同紙によると、ベアーズのスタジアムのリース期間は2033年まで続く。また、チームが5年後にリースを破棄した場合、シカゴ市に8,400万ドル(約92億4,000万円)の損害賠償を支払わなければならないことが判明している。双方は財政面での合意を図るための交渉に入る可能性が高いと、関係者は述べた。
9月29日の朝にラジオ局WSCR-AMのマリー&ホー・ショーに出演したシカゴ市長のローリ・ライトフット氏は、ベアーズをシカゴにとどめておくよう努力すると述べた。
「私は市長であり、長年のベアーズファンでもあるので、ベアーズをシカゴにとどめておくために、できるかぎりのことをするつもりです。しかし、彼らにとってこれはビジネス上の決断であるのと同様に、私たちにとってもビジネス上の決断なのです」。
「彼らは実際私たちのところに来て、何を望んでいるか私たちに知らせなければなりません。私たちには話し合いを受け入れる準備がありますが、彼らはそうしてきませんでした」。
移行期間中のアーリントン競馬場でのレース継続の可能性については、直接得られた情報はない。CDIは9月に入ってこれまで、2022年の競馬開催日程を申請していない。ホーソン競馬場にはサラブレッド競走の76開催日が認められたが、これによりシカゴ地域での開催日数はホーソンとアーリントンの両方が運営されている今年よりも減少することになる。ホーソン競馬場は、2022年にスタンダードブレッド開催とサラブレッド開催を別々に施行する予定である。
CDIはいくつかの完了条件を満たす売買手続きの終了を、2022年末から2023年初めと見込んでいる。そして売却による収益を代替施設の購入や投資に充てる予定だと述べた。このような計画は、売却発表以降のCDIの発言と一致する。彼らはイリノイ州に別の競馬場を建設するか、投資したいと述べていた。
本誌(ブラッドホース誌)はこれまで、CDIは過半数株主となっているリバースカジノ(Rivers Casino)がアーリントンに近すぎるので、アーリントンにカジノ施設を併設することに興味を失っていると報じてきた。
これがアーリントン競馬の終焉であるならば、最初に1927年にオープンした競馬場の豊かな歴史に終止符が打たれることになる。アーリントンクラシックSは1930年代に米国三冠馬のギャラントフォックスとオマハを送り出し、すぐに米国の最高峰の3歳戦の1つになった。1950年代、60年代、70年代には、ナシュア、ドクターフェイガー、アリダーなどのスター馬がこのレースで優勝した。
アーリントンは1981年にアーリントンミリオンS(芝G1)を創設し、世界で初めて総賞金100万ドル(約1億1,000万円)のサラブレッド競走を施行する競馬場となった。
1985年7月、アーリントンのクラブハウスが火事で焼失した。しかし競馬場は翌月に一丸となって困難を乗り越えアーリントンミリオンSを開催し、約3万5,000人のファンがテントや仮設施設からこのレースを観戦した。アーリントンはこの "ミラクルミリオン "によりエクリプス賞を受賞した。
オーナーのリチャード・ダチョソワ氏はこの競馬場を、北米競馬界でも有数の豪華で近代的な競馬場として再建した。現在でもそのステータスは維持されている。
このようなきらびやかな施設にもかかわらず、ダチョソワ氏は1998年と1999年の2シーズンにこの競馬場を閉鎖せざるをえなくなり、2000年にCDIに売却することとなった。この取引の結果、ダチョソワ氏はCDIの普通株式約400万株を取得した
シカゴ地域の競馬ファンが挑戦的な企画を支持してくれるものと確信し、アーリントンはトップクラスの馬を引きつけるために積極的にレースを開催してきた。1973年にはセクレタリアトが三冠達成後の初出走を果たしたアーリントンインビテーショナルを制し、4万1,000人以上のファンを魅了した。その23年後には、シガーが3万4,000人以上のファンの前でサイテーションチャレンジインビテーショナルSを制し、16連勝を果たした。
By Frank Angst
(1ドル=約110円)
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