ニューマーケットで開催されたタタソールズ・オータム・トレーニングセール（10月25日～28日）でのまったくクレイジーな出来事を見て、複雑な気持ちを拭い去ることができない。

　4日間のセリにおいて、総売上額は3,304万4,865ポンド（約51億2,195万円）、中間価格は1万6,800ポンド（約260万円）、平均価格は3万2,946ポンド（約511万円）だった。これら3つの数字はいずれも過去最高である。実際、3日目を終えたときには総売上額はこれまでの記録を超えていた。

　海外の購買者がこれらの数字の大きな原動力となった。彼らは豪州、米国、とりわけサウジアラビアからの購買者である。サウジアラビアでは、2020年のサウジカップ開催の創設を経て競馬産業が急速に発展していることもあり、英国やアイルランドのサラブレッドを確保しようと必死になっている。

　2017年ジャージーS（G3）優勝馬ルブリヴィド（Le Brivido）の共同馬主であるサウジアラビアのファイサル殿下が新たに創設した競馬事業体ナジュドスタッド（Najd Stud）は、上場馬14頭を293万550ポンド（約4億5,423万円）で購買してこの面でリードした。しかし選りすぐりの40頭は豪州に渡り、米国人たちは大きな資金力を誇示してレーティング102のマグレブ（Maglev）を31万5,000ポンド（約4,883万円）、レーティング90のモトリアス（Motorious）を23万1,000ポンド（約3,581万円）で購買するなどした。

　筆者がセリ会場や競馬場で話を聞いた国内の調教師や馬主たちは、市場の強さに驚愕し、購買を検討している人々は毎日度肝を抜かれている様子だった。

　それは人気ある上場馬だけではなかった。調教師たちは筆者に、レーティング60～70の馬が海外に行く場合は実際よりも2倍あるいは3倍の価格がついていて、おそらく、真冬のオールウェザーチャンピオンシップ（全9開催）への参戦を断るかどうかを検討するときはこのことを念頭におくべきかもしれないと語った。

　このような環境は、ジョン・ゴスデン調教師のような人が示した懸念にも影響を及ぼす。とりわけ英国競馬界の中で「賞金レベルが惨めなほど低いままであるかぎり、英国競馬は"世界の他の地域のための保育所"として機能することになる」という見解が強まっていると、同調教師は表明していた

　筆者が抱いた違和感はネット上で馬主によっても共有されていた。オンラインブックメーカーの32レッド（32Red）の創業者、エド・ウェア氏はゴスデン調教師の見解について、「最近のセリシーズンでは、変化の風がずっと強くなっているようです。今や警鐘はかなり大きく鳴っていると言えるでしょう」と書いている。

　今年のブリタニアS（ロイヤルアスコット開催）をペロット（Perotto）で制したハルシオンサラブレッズの共同創設者、リアム・キースリー（Liam Keighley）氏はさらに一歩踏み込んだツイートをした。「今年のセリは異常です。市場の強さはかつてないほどですが、海外向けに購買される頭数は、競馬産業が絶対的に変わらなければならず、さもなければ滅びることを示しています。シンプルなことです」。

　英国とアイルランドのサラブレッドが魅力をもち尊敬の念を集めていることは、セリにおいて疑う余地もなく明らかであり、それ自体がマイナスであるとは誰も言えない。実際、最高級の優良馬は少なくともこれらの国で生産され最初はそこでレースに出走しているという見解を裏付けるのに役立っている。

　しかし競馬というスポーツの構造的欠陥に対処することなくベースとなる製品を称賛することは、私たちが実際にはしっかりつかまえておくべき馬をどんどん手放すことにつながる。それは英国競馬が進みたい方向では絶対ありえない。

By Peter Scargill

（1ポンド＝約155円）

［Racing Post 2021年11月1日「'Industry has to change or it will die' - alarm bells ringing after sales season」］