海外競馬ニュース 2021年03月04日 - No.8 - 1
ミシュリフ、当面は現役続行(イギリス)[その他]

 さまざまな種馬場や種牡馬管理者たちがすでに、総賞金2,000万ドル(約21億円)のサウジカップの優勝馬、ミシュリフの種牡馬入り後の所有権の争奪戦に参加している。しかしレーシングマネージャーのテッド・ヴォウト氏は、馬主であるファイサル殿下はその契約についての決定は下さず機が熟すのを待っていれば良いと考えていると述べた。

 ファイサル殿下の良血の自家生産馬ミシュリフ(父:G1・2勝馬メイクビリーヴ)は仏ダービー(G1 ジョッケークリュブ賞)を制しており、世界最高賞金のサウジカップで優勝する前に、すでに魅力的な有望種牡馬として評価されていた。

 サウジカップは重賞として格付けられていない。しかしミシュリフは芝からダートに路線を変えて挑んだこのレースで、G1馬のシャーラタンやニックスゴー、ジャドモントファームの一流の自家生産馬タシトゥスを含む米国からの強力な代表団を撃退したことで、自らの評価を限りなく高めた。

 ヴォウト氏はこう述べた。「もちろんミシュリフの種牡馬入り後の所有権についていくつかの問合せを受けていますが、殿下はその決定を後回しにしています。ミシュリフの競走馬としてキャリアを楽しみたいようで、種牡馬入りについてはまだ考えたくないようです。殿下はご自身が好きなことを続けられるように、2人の若い子息に競馬に興味をもつように促しています」。

 ミシュリフがどこで種牡馬生活を始めるかについては決定されていないが、ヴォウト氏は同馬の実績からすれば選択肢が少ないということはないだろうと語った。

 「ミシュリフはとても多才なので、米国あるいは日本で供用される可能性も考えられます。彼の競走成績では、第2のロペデヴェガとなるかもしれません。ロペデヴェガは欧州・米国・豪州に出走馬を送り出しています。それこそ我々が望んでいることであり、あらゆる国に出走馬を送り出す真の国際的種牡馬になってほしいです」。

 そしてファイサル殿下は2021年の立派な出走計画をすでに立案しており、それはミシュリフの種牡馬としての資質をさらに高めることになるかもしれないと、ヴォウト氏は付け足した。

 ファイサル殿下と話したばかりのヴォウト氏はこう語った。

 「今朝受けた電話では、年末までにミシュリフを世界最高レーティング馬にさせることを目標としているようです。普通は出走させたいレースについて綿密な全体計画を練るものです。しかし殿下はミシュリフの英インターナショナルS(G1)への出走についてすでに気持ちを決めていたと私は感じています。種牡馬として成功させることを考えれば、英国でのG1優勝を経歴に加える必要があります。でも私の考えを言えば、シーズン終盤はおそらく凱旋門賞(G1)あたりに焦点を合わせ、その後に種牡馬入りするというのが望ましいと思っています」。

 殿下が立案したミシュリフの出走計画はすでにこれまで素晴らしい結果を挙げているが、その出走計画から外れて他の挑戦をしたいという意欲もまた、殿下の40年にわたるオーナーブリーダーとしての特徴でもあると、同氏は述べた。

 「殿下は確かに冬のあいだに仏ダービーへの出走を計画し、サウジカップへの出走も自らお決めになりました。これまで一緒に働いた中で最も成功した人々は、毎日つねに電話していて、それが生活の一部になっています。たとえ大規模な事業を運営していても、毎日馬のことを考えるために時間を費やし、計画を変え、自ら考えに凝り固まることはありません」。

 「殿下はある日電話をかけてきて、突然、『今年は当歳馬を買ってみましょうか?』と言ってくるでしょう。そういうふうにして、私たちはメイクビリーヴを購買しました」。

 ヴォウト氏は、アストンマリンズスタッドが上場したメイクビリーヴ(父マクフィ)を18万ギニー(約2,835万円)で獲得した2012年タタソールズ社12月当歳セールを振り返った。「殿下は、できるかぎり見栄えの良い牡駒を見つけてくるように言いました。私たちは最終的に10頭のリストを作りました。そのうち8頭はニューアプローチかテオフィロの産駒だったと思います。その頃はジョン・ファーガソン氏がゴドルフィンのために馬を購買していました」。

 「私たちのリストの1番目にあったのはニューアプローチ産駒でしたが、ファーガソン氏がその産駒を落札してしまいました。そして彼は2番目にあったテオフィロの産駒も、リストにあったもう1頭の産駒も買ってしまいました!」

 「殿下は、控室に行ってリストからゴドルフィンが買いそうな馬をすべて取り除いてしまおうと言いました。なぜなら、リストのうち1頭も購買できなくなりそうだったからです。そして私たちに残されていたのはマクフィの産駒で、その産駒を購買することにしました。少しの幸運が必要だということが示されたのは、まさにその時でした」。

 ファイサル殿下の繁殖牝馬群は少頭数だが選りすぐりであり、ミシュリフの母コントラディクトなどエリジャジ(Eljazzi)の牝系に属す牝馬が含まれている。殿下はセリで比較的少ない頭数しか購買せず、その頻度も少ない。

 しかし、ファイサル殿下はセリで上場される馬に目を光らせ続けている。それゆえセリについて少し調べれば、殿下にとってメイクビリーヴだけが最近の唯一のサクセスストーリーでないことが分かる。

 ヴォウト氏はこう語った。「殿下は、すべてのセリの上場馬の写真とビデオをくまなく見ています。自宅でくつろぎながら、何かを確かめに行ってほしいときは私に電話してきます。アルカナ社のセール(ドーヴィル)にいるときに、殿下から電話が掛かってきて、ビデオで見たローマン産駒がとても気に入ったのでバリーリンチスタッドの上場馬を見に行くように言われました」。

 「私は折り返して、『殿下、少しも良くありません。正面から見るとイマイチでした。しかしちょうどそこにこのロペデヴェガ産駒がいて、とても気に入りました』と言いました。すると殿下は『もしその馬を気に入ったのであれば、購買すべきです』とおっしゃいました。そしてその時に買った馬が、後にG1馬となるベラードでした」。

By James Thomas

(1ドル=約105円、1ポンド=約150円)

[Racing Post 2021年2月28日「Stallion deal on hold as Mishriff's connections formulate another ambitious plan」]