アイルランド競馬監理委員会(IHRB)は、2月最後の週末にSNS上に現れたゴードン・エリオット調教師が馬の死体の上に座っている写真を調査している。BHA(英国競馬統括機構)はその調査のあいだ、同調教師が英国で管理馬を出走させることを認めない。
IHRBがその調査結果を考察し終えるまで、BHAは競馬施行規程の下での権限を行使し、エリオット調教師の英国競馬への関与を停止させる。
しかしエリオット厩舎に馬を預けている馬主たちは、所有馬を転厩させれば英国のレースに出走させられる。エリオット調教師はチェルトナムフェスティバル(3月16日~19日)に104頭を予備登録しており、中でも最も注目されるのは無敗の超有力馬、エンヴォイアレン(Envoi Allen)である。
エンヴォイアレンの馬主であるチェヴァリーパークスタッドは、チェルトナムフェスティバルに出走予定のサーガーハード(Sir Gerhard)、バリーアダム(Ballyadam)、クイリキシオス(Quilixios)もエリオット厩舎に預けている。また、ノエル&ヴァレリー・モラン夫妻が所有するザナヒア(Zanahiyr)や、ギギンズタウンハウススタッドが所有するグランドナショナルを連覇したタイガーロールもエリオット調教師が手掛ける有力馬である。
3月1日に出されたBHAの声明にはこう記されている。
「IHRBが週末にSNS上に現れた写真を調査するあいだは、BHAはアイルランドのエリオット調教師が英国のレースに馬を出走させることを認めません。同調教師は写真が本物であることを認め、その行動について謝罪しました。アイルランドの調査結果が考察されるまでのあいだ、英国競馬を統括するBHAは競馬施行規程の下での権限を行使し、エリオット調教師が英国のレースに管理馬を出走させることを認めません。BHAのこの措置は、エリオット氏がアイルランドで調教師免許を取得していて、アイルランドの規制当局であるIHRB が独自の調査を実施中であることを尊重したものです。しかし、エリオット氏には管理馬を英国のレースに出走させるために出国したときから、英国の施行規程が適用されます。それゆえ、エリオット厩舎所属馬の英国での出走を認めないという決定は、こうした状況ではBHAが適切とみなす暫定的決定なのです。これまでに出した声明において、BHAは"馬を尊重して大切に扱う"という価値観をむしばむような写真に愕然としていると述べています」。
「憤慨と嫌悪感」
英国の調教師たちは、3月1日夜に全国調教師連合会(NTF)が発表した強い表現の声明を通じて、問題の写真から距離を置こうとしていた。
NTFはその写真について遺憾の意を表明し、憤慨したメンバーたちから24時間にわたって問合せが相次いだと述べた。
NTFの声明にはこう記されている。
「NTFは昨夜から今日にかけて、メンバーたちはSNSで出回っているエリオット氏の写真について問い合わせてきて、憤慨と嫌悪感を表明しています。エリオット氏はアイルランドを拠点としていますが、英国の調教師を代表するNTFとしては、問題の写真で示されている行為と英国の調教師は全く関わりがないということを、一般の人々に理解していただきたいと思っています。そして、英国の調教師の"競走馬への心づかい・尊重・愛が込められた価値観"を強調したいです。そのような価値観は、一般の人々の競馬への信頼を支えるものであり、競馬界で働くすべての人々の将来的発展にとって不可欠です」。
エリオット氏は競馬界のあらゆる声明において非難されており、アイルランドの競馬統括機関であるホースレーシングアイルランド(HRI)は、「問題の写真は、日常的に馬の世話を行う数千もの人々に迷惑をかけるものです」と述べた。
IHRBが実施する問題の写真に関する調査に、エリオット氏は全面的に協力しているといわれている。HRIは、"この調査を支援し、調査終了までこれ以上のコメントは出さない"としている。IHRBはこの案件に関する審問の日程を定めていない。
HRIの声明にはこう記されている。
「HRIは、週末にSNS上に現れた不穏な写真を絶対的に非難します。この写真は競走馬が受けている心づかい・配慮・尊重を反映しておらず、日常的に馬の世話を行う数千もの人々に迷惑をかけるものです。IHRBが実施するこの写真をめぐる状況についての調査を、HRIは注目し支援します。懲戒の観点については、事態は進行中なので、現時点でこの案件とその詳細についてコメントすることは適切ではないでしょう」。
BHAは、独立機関である馬福祉委員会(Horse Welfare Board:HWB)を立ち上げている。HWBは、"競走馬の揺り籠から墓場までのケア"の分野における調査の実施と改革を任務としている。また政治家や一般の人々に向けて、"競馬界は馬の福祉という領域で自己統治できている"と適切に説明する役割も担っている。
エリオット氏の写真は福祉基準の違反には当てはまらない。しかしHWBは、その写真を強く非難し、競馬界の"競走馬を最優先にする"という評判を損ねる可能性を強調する声明を出した。
HWBの声明にはこう記されている。
「競馬界の内外の多くの人々と同様に、HWBのメンバーは週末にSNS上に現れた写真に衝撃を受け、愕然としています。HWBは2020年2月に発表した戦略『充実した生涯(A Life Well Lived)』の中で、一般の人々と政治家から競馬への信頼を得ることの重要性を明確に示しています。そして最も重要なことですが、"生まれてから死を迎えるまでのあらゆる段階での馬に対する尊敬の念が、私たちが行うことすべてを支えなければならない"と強調しています。そうでなければ、馬への深い愛や思いやりをきっかけに競馬界に入った圧倒的大多数の人々に大損害を与えます。この件が緊急を要することとして全面的に調査され、アイルランドと英国の競馬統括機関が適切な措置をとることが不可欠です」。
エリオット氏はチェルトナムフェスティバルに向けて有力馬を仕上げてきた。しかし、それらの馬の障害競走最大の競馬開催への参戦には暗雲が垂れ込んでいる。
By David Jennings and Andrew Dietz