ドバイワールドカップ(G1 ダート2000m)
フランキー・デットーリ騎手とボブ・バファート調教師という国際競馬のビッグネームがタッグを組んで、ドバイワールドカップ(G1)で勝利を収めた。カントリーグラマーが急伸し大本命のライフイズグッドを撃退したのだ。これから何日も何週間も、この快挙に紙面は割かれるだろう。
この勝利は、米国とサウジで馬主として活躍するアムル・ゼダン氏が発した熱狂的な歓喜の声により迎えられた。同氏は最近、チェルシーFCの入札に参加したことが取り沙汰されている。
ゼダン氏は、所有馬メディーナスピリットが示したベタメタゾンの陽性反応にまつわる訴訟に巻き込まれているバファート調教師を最も熱心に擁護してきた。この訴訟によりメディーナスピリットのケンタッキーダービー(G1)の優勝資格は取り消され、バファート氏は現在チャーチルダウンズ競馬場とケンタッキー州競馬委員会(KHRC)から出走停止処分を受けている。
しかしその前にレースについて語ろう。
ライフイズグッドは、ペガサスワールドカップの発走時と同様の½完歩の躓きを繰り返したように見えた。しかし、鞍上のイラッド・オルティス騎手は1番ゲートからの発走を生かしてペースを作り、ミッドナイトバーボンとカントリーグラマーからの圧力もほとんどかわした。
最後の直線に入ったとき、初の2000m戦だったがまだ十分に余力を残しているように見えた。ところが、それはあっという間になくなった。ゼダン氏の勝負服(青と赤)を身に着けたデットーリ騎手が毅然と外から追い込んできたのだ。
デットーリ騎手にとってドバイワールドカップ4勝目だが、ナドアルシバ競馬場時代以来の勝利となる。
同騎手はこう語った。「残り½マイル(約800m)までは思ったとおりの展開でしたが、ライフイズグッドが逃げ切るのではと感じました」。
「何か違うことを試してみようと思っていました。だから右に向かせて、外側を走らせ空気を吸わせて肺を満たしたのです」。
「残り1ハロンを切ったときは現実ばなれした瞬間でした。"勝ったな"と思いました」。
デットーリ騎手は、第二の故郷であるドバイの最高峰レースを16年間勝てないでいたことは、必死に満たそうとしても欲求が満たされない状態だったと述べ、この馬に騎乗するまでの経緯を明らかにした。
デットーリ騎手は「今やジェリー・ベイリーと肩を並べることになりました。彼は私のヒーローです」と述べた(訳注:ベイリー元騎手は1996年・1997年・2001年・2002年のドバイワールドカップを制覇)。ドバイミレニアム、ムーンバラッド、エレクトロキューショニストでこのレースを制したときには、デットーリ騎手はゴドルフィンブルーの勝負服を身に着けていた。
「カントリーグラマーの騎手が決まっていないことを嗅ぎつけ、ポロ競技中のゼダン氏のもとにお邪魔したのです。彼はボブに電話するように言い、ボブは自由に乗ってくれていいと断言してくれました」。
「30年以上の前にカリフォルニアで騎乗していた頃からボブのことは知っています。過去に彼の馬に調教では乗ったことがありますが、レースで乗るのは初めてだと思います」。
カントリーグラマーは、サウジカップ(G1)が自らにとって物足りない1800mだったにもかかわらず2着に健闘していた。バファート調教師の助手であるジミー・バーンズ氏はそのパフォーマンスについて、総賞金2,000万ドル(約24億円)のサウジカップは総賞金1,200万ドル(約14億4,000万円)のドバイワールドカップのプレップレースだと表現していた。
ゼダン氏はサウジカップの世界中継でかなりの時間を割いて、「メディーナスピリットは不当な扱いを受けており、しかるべき法の手続きが取られればバファート氏の嫌疑は晴らされるだろう」という考えを述べていた。
そしてこの絶好のタイミングに、祝宴の亡霊と化したバファート調教師を支持することを辞さなかった。同調教師にとってもこの勝利はドバイワールドカップ4勝目だった。
ゼダン氏はこう語った。「これは他ならぬボブ・バファートによる見事な計画の結果なのです。彼は競馬界が出会った最高のトレーナーです。カントリーグラマーはハリウッドゴールドカップ(G1)を制してからほぼ丸1年ベンチに座っていました。ジミー・バーンズをはじめバファート厩舎のチームがこの馬を最高の状態に仕上げたのは、まさに芸術です」。
メディーナスピリットは12月にサンタアニタ競馬場での追い切り中に倒れて命を落としたが、今でも米国で最も話題になっている馬である。
ゼダン氏は、「メディーナスピリットはチャンピオンです。カントリーグラマーが見せた度胸は、メディーナスピリットを彷彿とさせましたね。これらの馬にはほかでもない、勇気があるのです。フランキーやイラッドとコンビを組んだことで、彼の能力は卓越したものになりました」と付言した。
ホットロッドチャーリーと日本馬チュウワウィザードは、残り1ハロンを切ってからともにライフイズグッドを抜き去った。トッド・プレッチャー調教師がライフイズグッドの競走距離を元に戻す可能性は十分にある。
ウィンスターファームはライフイズグッドとカントリーグラマーの両方の共同馬主である。CEOのエリオット・ウォルデン氏はこう語った。「距離が延びることは分かっていました。だからカントリーグラマーも出走させたのです。1¼マイル(約2000m)ならもつだろうということが分かっていたので有力候補でした」。
ライフイズグッドはスピードがありすぎるので、10ハロン(約2000m)で輝きを維持するのは難しかったのではないかと問われて、ウォルデン氏はこう答えた。「彼は自分のレースをしました。まだまだこれからです。この距離を2分05秒台で走ったのですから。ライフイズグッドはとんでもない馬です。カントリーグラマーにとっては、今日は恵まれた日だったのでしょう」。
By Scott Burton in Dubai
(1ドル=約120円)
[Racing Post 2022年3月26日「Country Grammer gives Frankie Dettori his fourth Dubai World Cup」]