海外競馬ニュース 2022年06月16日 - No.21 - 1
日本はいかにして競馬大国になったのか(日本)(1)[生産]

 ロイヤルアスコット開催(6月14日~18日)で注目されるのは、日本から出走する2頭が最近の日本勢の華麗な活躍ぶりに新たな1ページを加えるかどうかである。

 日本が世界トップクラスの競走馬を送り出していることは以前から明らかだ。昨年11月のブリーダーズカップ開催では日本で生産・調教された2頭が勝利を奪取し、世界最高峰をかけての戦いに鮮やかな彩りを施した。さらに昨年12月には香港国際競走で日本馬2頭が優勝し、その後サウジカップデーで4勝、ドバイワールドカップナイトで5勝を挙げた。日本馬にとっての舞台は世界となったのだ。

 そのような幾多もの快挙を踏まえれば、ロイヤルアスコット開催に参戦する日本勢には最高の敬意を払うべきだろう。ドバイシーマクラシック(G1)優勝馬シャフリヤールは6月15日(水)のプリンスオブウェールズS(G1)に、G1馬グレナディアガーズは6月18日(土)のプラチナジュビリーS(G1)に出走する。日本勢がまだ勝利の旗を掲げていないロイヤルアスコット開催でどちらかの馬が勝利するとすれば、また新たに最高峰を奪取することになる。

 サラブレッドの頂点を目指す日本勢のあくなき挑戦は、日本競馬が40年前まで外国調教馬の参戦を禁じていた事実を考えると、いっそう印象深いものに映る。1981年11月22日にそれが大きく変わり、分水嶺となったのである。

 その日の午後、日本馬が海外からの遠征馬にどう立ち向かうかを見るために東京競馬場にやって来た大勢の観客の目の前で第1回ジャパンカップが開催された。結果は興ざめもいいところだった。

 第1回ジャパンカップを制したのは米国のメアジードーツ(牝5歳 ジョン・フルトン厩舎)だった。メアジードーツはカナダのフロストキングを差しきり、3着と4着にはザベリワンとペティテートという米国調教馬が入った。日本馬は完封されたというわけだ。

 競馬専門TV局「グリーンチャンネル」のメインキャスターとして活躍する競馬評論家の合田直弘氏はこう語った。

 「日本の競馬や生産に関わるすべての人に衝撃を与えましたね。日本のトップホースが北米の二流馬に対して歯が立たないということが、日本産馬の質を上げるにはどうしたらいいかを考えるきっかけになったのです」。

 よく見てみると、日本のスピードが国際的なものよりもどれだけ劣っていたのかが分かる。メアジードーツはそれまで米国で31戦してG1未勝利だったが、ジャパンカップではコースレコードを塗り替えて優勝した。これより速く走った日本馬はいなかったのである。

 その後、事態は好転したわけでもない。カツラギエースが日本馬として初めてジャパンカップを制するのには4年の歳月がかかったのだ。1997年までジャパンカップは17回施行され、そのうち日本馬はわずか5勝しかできなかった。しかしそれ以降は日本馬が優勢である。過去27回のジャパンカップのうち外国勢は2勝しかしておらず、2005年にルカ・クマーニ調教師がアルカセットで制してからの勝星はゼロである。

 概して、第1回ジャパンカップが開催された当時から目覚ましい変貌が遂げられた。日本の生産者が最初に行ったのは、欧米のトップクラスの種牡馬に惜しみなく資金を投じることだった。1990年代には6頭もの英ダービー馬、5頭もの凱旋門賞優勝馬が輸入された。米国からも多くの種牡馬が輸入され、そのうちの1頭、サンデーサイレンスはほとんど単独で日本の生産の背景を塗り替えてしまった。

 同時に、血統と競走成績に優れた繁殖牝馬の大量流入によりこれらの優秀な種牡馬は補完された。これを先導したのは、オーナーブリーダーの吉田善哉氏である。その父善助氏は1932年第1回東京優駿(日本ダービー)の出走馬の1頭を所有していた。

 吉田善哉氏は1955年に社台ファームを設立。40年後に亡くなると、巨大な生産事業体は3人の息子に委ねられ、3つの注目すべき牧場に姿を変えた。照哉氏は社台ファーム、勝己氏はノーザンファーム、晴哉氏は追分ファームを運営する。

 ダーレー・ジャパンの代表取締役ハリー・スウィーニィ氏は、「日本の有力生産者の力量と生産馬の質の高さは誇張してもしすぎることはありません。社台は全体でおよそ1,800頭の繁殖牝馬を抱えており、そのうち250頭が自らG1馬か、あるいはG1馬の母です」と語った。

 この繁殖牝馬群はじっくりと、また多大な投資によって定着してきた。1989年以降、吉田ファミリーは繁殖牝馬のために米国のセリだけで2億ドルを投じている。これらの繁殖牝馬は、輸入されてきた種牡馬と同程度か、もしくはそれ以上に、あらゆる点で日本のサラブレッド生産を変化させるのに貢献している。

 ロイヤルアスコット開催に参戦する日本馬2頭はいずれもそのことを暗示している。2頭は吉田勝己氏と長男の俊介氏が経営するクラブ法人、サンデーレーシングの所有馬である。シャフリヤール(父ディープインパクト)の母は、2010年BCフィリー&メアスプリント(G1)優勝の2日後に110万ドル(約1億4,850万円)で落札されたドバイマジェスティである。グレナディアガーズ(父フランケル)の母は、2016年BCフィリー&メアスプリントで惜しくも2着に敗れた後に庭先取引で購買されたG1馬のウェイヴェルアベニューである。

 タタソールズ社とファシグ・ティプトン社の日本での代表も務める合田氏はこう語った。「吉田ファミリーは日本馬の質を向上させる立役者となったのです。小規模な馬主の方々がビッグレースで勝つこともありますが、世界中で日本馬が走るのを見ることができるのは大きな勢力を誇る吉田ファミリーのおかげなのです」。

By Julian Muscat

(1ドル=約135円)

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「日本はいかにして競馬大国になったのか(日本)(2)」は6月23日、「日本はいかにして競馬大国になったのか(日本)(3)」は6月30日に掲載予定です。

[Racing Post 2022年6月8日「'It was shocking' - how Japan turned it around to become a superpower in racing」]