海外競馬ニュース 2022年06月16日 - No.21 - 3
男性限定ディナーに参加した競馬界の重鎮たちに批判殺到(イギリス)[その他]

 競馬界の重鎮たち数百人がダービーウィークに男性限定の蝶ネクタイ着用ディナーに出席したことで、業界内の女性著名人からの激しい批判にさらされている。"このイベントは時代錯誤であり、女性に敬意を欠き、インクルージョン(包容性)を支援する業界横断的な努力と矛盾する"という批判だ。

 BHA(英国競馬統括機構)のジョー・ソーマレズ・スミス新会長はアナマリー・フェルプス氏の後任として正式に会長に就任した日である6月1日(水)に、第90回ダービークラブディナー(サヴォイホテルで開催)に過去最多の360人のゲストの1人として出席した。彼はこのイベントが男性限定であることを知らなかったとし、「今のままであれば二度と行きません」と述べた。なお、フェルプス氏はBHAのCEOジュリー・ハリントン氏と同様にこのディナーへの出席は認められなかったことだろう。

 昨年5月、英国競馬界の多くの主要組織が「英国競馬界の多様性と包容性を向上させるコミットメント」に署名した。そのコミットメントには"男女が対等な条件で競い合う誇り高い類まれな"スポーツを進歩へと導く5つの誓約が定められていた。

 その中には、「競馬界のリーダーがいっそう多様で包容的なスポーツの創造に説明責任を負うこと」、「違いを受け入れ誰もが評価される包容的なスポーツを創造するために競馬界全体に存在する多様性を披露すること」などが含まれていた。

 このコミットメントの下には、BHAのほか、アリーナレーシング社(ARC)、アスコット競馬場、全国調教師連合会(NTF)、ニューベリー競馬場、ジョッキークラブ、サラブレッド生産者協会(TBA)、馬主協会(ROA)などが集結した。

 エプソム競馬場とは関係のない非公式イベントであるダービークラブディナーの来賓リストには、ARCのCEOマーティン・クラッダス氏、ニューベリー競馬場のドミニク・バーク会長、ジョッキークラブの理事テディ・グリムソープ氏、アスコット競馬場の会長でエリザベス女王の代理人であるサー・フランシス・ブルーク氏、TBAのジュリアン・リッチモンド-ワトソン会長、ラルフ・ベケット調教師を含むNTFの数人のメンバーが名を連ねていた。

 元ROA会長でクラシック優勝馬ジャックホッブスの馬主であるレイチェル・フード氏は、男性限定のディナーは"競馬界にダメージを与えるものであり、恥ずかしい時代錯誤である"と指摘した。

 「競馬は誰にとっても、努力・才能・勤勉が報われる進歩的なスポーツであると信じています。そしてダービークラブはその観点を完全に損なわせています」。

 「これはまったく不適切であり、今こそ人々は立ち止まって"いったいなぜこのディナーに参加したいのか?"と考えるべきです。競馬界にダメージを与えるものであり、個人的には無礼なものだと思いますし、控えめに言っても不適切でしょう。女性調教師、女性騎手、女性キャスター、女性役員は競馬界で不可欠な存在となってすでに長くなります。私も馬主としてジャックホッブスで英ダービー(G1)2着と愛ダービー(G1)優勝を果たしました」。

 「素晴らしい産業であり近代スポーツであるにもかかわらず、このようにまったく恥ずべき時代錯誤なことが行われているのです。なぜそんなことをするのでしょうか?擁護できませんし、まったくがっかりさせられます。このような男性ばかりの場に出席することが適切だと考えている競馬関係者は、それが発信するメッセージを再考すべきかもしれません」。

 ソーマレズ・スミス氏はこのイベントが男性限定であるとは知らなかったと述べた。また本紙(レーシングポスト紙)が連絡を取ったほかのゲストたちは、女性の出席が認められていないことを知って"ショックを受けがっかりした"と語っている。

 ソーマレズ・スミス氏はこう語った。「数ヵ月前に友人がダービークラブのディナーに招待してくれました。このイベントについてそれまで知りませんでしたし、過去に参加したこともありませんでした」。

 「招待状には男性限定イベントであることは一切書かれておらず、参加するまでそのことを知らなかったのです。男性だけのディナーであると知っていれば、出席することはなかったでしょう。このイベントのすぐあとに、"ふたたび招待されても今のままならば二度と行くことはないだろう" と多くの人に話しました」。

 「競馬界のあらゆる分野で多様性と包容性を擁護することは不可欠です。BHAと競馬産業がこの分野で遂げられた進歩をしっかりと土台にしていくことに尽力するつもりです」。

 "競馬界の女性(Women in Racing 競馬界の女性の認知度を高め上級職への採用を奨励することを目的に2009年に設立されたグループ)"のタルラ・ルイス会長は、競馬界は多様性と包容性を受け入れるために熱意を見せてきたが、ダービークラブディナーのような男性限定イベントはそれらの努力と矛盾すると語った。

 「競馬界の関係者と緊密に取り組んできて、このイベントの出席者の多くとも働いたことがあります。私たちの考えでは、質の高い仕事ができましたし、意欲的に協力してくれました。このイベントは一般的な彼らの立場を反映するものではないでしょう」。

 「しかし彼らはこれについて一旦離れてよく考えるべきです。このような競馬や競馬が象徴するものを反映しないイベントに業界の人々を参加させるのは有益なことでありません」。

 「競馬に関わっていない人もこうしたイベントに参加するのであれば、私たちは、むしろ多様性に満ちた機会と参画がそこに存在していることを見せつけるべきであり、文字通りテーブルにつくことができないような人がいるようなイベントであってはならないのです」。

 競馬における多様性促進グループの議長であるスザンナ・ギル氏はこれらの変化を求める声に賛同し、「競馬の伝統を全面的に支持しますが、だからといってこのようなイベントが進化したり近代化したりしてはいけないというわけではありません」と語った。

 ROAの副理事長でありダービークラブのメンバーでもあるクリス・ライト氏は「以前このディナーに参加したことがありますが、女性に開放されるのは歓迎すべきことです」と述べた。

 「男性だけのディナーはあまり好きではありませんね。だいたい男性だけでなく女性とも同席したいのです。ダービークラブについてはそのように考えたこともなかったですし、今でもそういうものがあるのはたしかですね」。

 「ダービークラブに何かを言うつもりはありませんが、私は多様性の信奉者であり、キャリアにおいても多様性を支持してきました。もしダービークラブが変更することを決心すれば、強く支持したいと思います」。

 ゲストは3品コースのディナーを堪能した。そしてダービーの出走馬を"購買"でき、的中すれば共同基金の一部を獲得できるクジ引きが行われた。共同基金の残りは競馬界の慈善団体に寄付される。

 ダービークラブが本紙に対して認めたところによると、このディナーに招待されたのは男性のみで、これに相当する女性限定のディナーは開催していないとのことだ。

 ダービークラブ委員会は声明の中でこう述べている。「ダービークラブディナーはダービーを祝う非公式の競馬イベントとして1932年に設立されました。以来、世界は変わり、人々にはこのイベントに出席するかしないかの選択権が与えられています」。

 「同時に初期設定から前進することをつねに考えており、これを見直す時期が来ています。新型コロナウイルスの感染拡大のため、これまでその機会がなかったのです」。

 このイベントは今回、ブックメーカーのフィッツデアーズ社が初めてスポンサーを務めた。同社のCEOウィリアム・ウッドハム氏は「私たちはダービークラブディナーを支持していますが、このイベントの進化や見直しも支持します」と述べた。

編集者注:レーシングポスト紙には、今回のダービークラブディナーに出席した社員がいました。また過去に出席した社員もいました。このイベントが男性限定であり続けるのであれば、すべての招待者と同様、今後出席することが適切かどうかを自ら判断しなければなりません。

By Peter Scargill

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