海外競馬ニュース 2022年12月08日 - No.46 - 2
ミシュリフ、新天地の牧場で種牡馬として大いに期待される(フランス)[生産]

 12月初めの週末にモンフォール&プレオー牧場(フランス・ノルマンディー)に招待され、新天地にいる超大物のミシュリフをいち早く目にすることができてラッキーだった。牧場に着いたとき、場長のトニー・フライ氏からパン・オ・ショコラを2ついただき、それを食べながらミシュリフとほかの種牡馬を見ることができた。

 スンベ社(Sumbé)の看板の下で供用されるミシュリフをはじめとする種牡馬についてよく書いてもらうために、バターたっぷりのサクサクしたチョコレートのパンで誘惑しようとしたのなら、その必要はなかったと考える (しかし、今後賄賂としてパンをくれる人を遠ざけようとして言っているわけではない)。

 冗談は抜きにして、G1を3勝して1,200万ポンド(約19億8,000万円)近い賞金を獲得したミシュリフはとにかく格好いい馬だ。かなり脚は長いが、とても力強くバランスがとれていて、しっかりとした馬体だ。それに美しく賢そうな顔をして、豊かな鹿毛で覆われている。

 振る舞いも申し分ない。ジョン・ゴスデン調教師が今年の初めにクレアヘイヴン調教場の馬房で時おり見せていたと言っていた縄張り意識はまったく感じられなかった。これはトニーとそのチームがミシュリフを新たな役目に馴染ませたことの証である。

 スンベ社のオーナーであるヌルラン・ビザコフ氏は、ミシュリフを仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)優勝後から注目していたが、まだ若馬だったときに厩舎で見て一目惚れしていたとその日に話してくれた。彼はミシュリフを種牡馬として供用したいと申し出ていたが、当時日本やアイルランドの種馬場が提示していた価格を支払いたくはなかったという。

 しかし幸いなことに、この馬のオーナーブリーダーであるファイサル殿下は5歳となった今年もミシュリフに現役を続行させることを選んだ。おそらくサウジカップ(G1)の2勝目を主な目標としていたのだろう。しかしそれはうまくいかず、その後1勝もできなかった。それでも、エクリプスS(G1)で2着になったときはわずかに出遅れてしまっただけであり、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)、英インターナショナルS(G1)、愛チャンピオンS(G1)、BCターフ(G1)でも立派に走っていた。

 多くの人々はエクリプスS(サンダウン)の優勝馬にふさわしいのはミシュリフであると考えた。ミシュリフは前が開かずに後方で思いどおりの走りができないでいて、終盤でやっと抜け出し疾走したもののヴァデニにわずか首差で敗れてしまったのだ。もしサンダウンで勝っていれば、種牡馬としての価格はさらに高騰していただろう。しかし勝てなかったことで、その価格はビザコフ氏の評価額まで落ち、彼は「ミシュリフを手に入れることができたのはデヴィッド・イーガン騎手のおかげかもしれませんね」と冗談半分に話した。

 今やミシュリフを手に入れたビザコフ氏は力を入れてこの馬を支援しようとしており、来年迎える初年度には25頭の牝馬を送り込むと宣言している。その中には、彼の自家生産馬でブラックタイプ勝馬であるアルティンオルダ(Altyn Orda)、ナウシャ(Nausha)、ラシマ(Rasima)、そしてナウシャの母ナジム(Nazym)、繁殖牝馬として実績のあるオーリーオルガ(Ollie Olga)やタマリンド(Tamarind)などがいる。

 ほかの種付予定の牝馬にはスンベ社が新たに購買した優良馬が含まれる。タタソールズ社12月牝馬セールにおいて28万ギニー(約4,851万円)で落札したハリーローズベリーS(L)優勝馬ヴァーティジナス(父オアシスドリーム)や、同じセリにおいて25万ギニー(約4,331万円)で落札したルジア(Luzia)などである。ルジアはサンチャリオットS(G1)優勝馬フォンテインを送り出している。

 また、ファイサル殿下からの6頭の牝馬もミシュリフのもとに送り込まれる予定である。テッド・ヴォウト(Ted Voute)氏が12月3日(土)にアルカナ社のセリで殿下のナワラスタッドのために100万ユーロ(約1億4,500万円)で落札した屈強なオスキュラ(Oscula)や、12月初めにタタソールズで殿下のチームが45万ギニー(約7,796万円)で落札したG2勝馬バウンスザブルースなどである。

 スンベチームは、ミシュリフのもとに多くの牝馬を送り込むことに何の不安も感じていない。

 フライ氏は、「馬に求めるものを書き出すとしたら、健康で、トップレベルで、素晴らしい末脚に恵まれ、血統や外見がいいことなどでしょう。ミシュリフの馬房の扉を開いてみると、ほら(voilà)、そのとおりの馬がいます」と語った。英仏海峡を渡ってメズレー牧場の本部でスンベ社を運営するようになったフライ氏は、新たに習得したフランス語力を発揮している。

 そして、「特に健康なところが際立ちます。人々は2歳で引退して種牡馬になる馬を非難しますが、この馬は4シーズン現役を続け21戦しました。健康のお手本のような馬です」と続けた。

 ミシュリフはモンフォール&プレオー牧場で初年度産駒を今年送り出したコモンウェルスカップ(G1)優勝馬ゴールデンホードとともに供用される。彼にはあらゆるパワーがあり、姿勢が低く、立派な前腕を持っている。産駒が彼に似ているとしたら、速い馬がたくさん出てくるはずだ。

 ビザコフ氏がゴールデンホード(父リーサルフォース)をとても気に入っていることは容易に察しがつく。彼の初年度産駒に非常に満足していて、能力が産駒に伝わっていると述べた。そして、「こんなにたくさんの栗毛がいるのは初めてです」と笑いながら言ったかと思うと、慌てて「それも素晴らしくて貴重な栗毛です」と付け加えた。

 ブレグジットとコロナ禍のダブルパンチのせいで、ゴールデンホードは彼のような商業的魅力をもつ馬が5年~10年前に英国やアイルランドから受け入れていたよりもおそらく15頭~20頭少ない牝馬にしか種付けを行っていないだろうと認めた。また、ゴールデンホードがミシュリフと別の方法で成功するために、牝馬の質を引き上げなければならないだろうとも述べた。

 とはいえ、ビザコフ氏はゴールデンホードにとって供用3年目となる2023年にも、自身が所有する12頭の優良牝馬を送り込むことにしている。その中にはビークイーンの半妹で1勝馬のエジン(Ezine 父ショーケーシング)が含まれる。ビークイーンはスンベ社の自家生産馬でジャンリュックラガルデール賞(G1)優勝馬のベルベックを送り出している。なお、エジンはタタソールズ社12月牝馬セールにおいて26万ギニー(約4,505万円)で落札された馬だ。

 ゴールデンホードがリーサルフォース産駒であることは万人受けしないかもしれない。たとえ、父リーサルフォースがダークエンジェル産駒であり、優秀なアクラメーション系に属していたとしてもだ。しかしビザコフ氏とフライ氏にそのことを言えば、モンフォール&プレオー牧場にいた最高の種牡馬ルアーヴルの父が流行遅れのノヴェールだったことを即座に思い出させられるだろう。

 もちろんゴールデンホードがもっと魅力的なコディアックやショーケーシングのような馬を父とすれば、ノルマンディーにはおらず英国やアイルランドで200頭以上の牝馬を集めていたということも有り得る。つまりフランスの生産者たちにとって、彼がいることは素晴らしいチャンスなのである。

 故エリザベス女王が所有していて今ではチャールズ国王が所有する豪華な種牡馬リコーダー(父ガリレオ)や、スンベ社の顧客であるラシット・シャイフディノフ氏が所有する魅力的な種牡馬ドトレヴィルを見られたことも収穫だった。G3・3着内馬ドトレヴィル(父オアシスドリーム)はトゥーダーンホットの半兄であり、わずかな数の産駒から著しく高い確率で才能豊かな馬を送り出している。

 スンベ社の種牡馬群が今後数年のうちにさらに発展してもなんら驚くことはないだろう。ビザコフ氏は2歳馬が活躍するかなり素晴らしいシーズンを過ごしており、3つのギニー競走にそれぞれ1頭ずつを出走させるという夢を抱きながら冬を迎えているのだ。

 アンドレ・ファーブル調教師は伝えられるところによると英2000ギニー(G1 ニューマーケット)にベルベック(父ショーケーシング)を出走させるつもりであり、ロジャー・ヴェリアン調教師はクリテリウムドメゾンラフィット(G2)優勝馬シャリン(Charyn 父ダークエンジェル)とニューマーケットの未勝利戦を制したコルサイ(Kolsai 父オアシスドリーム)を愛2000ギニー(G1 カラ)に登録しており、オプションとして仏2000ギニー(G1 ロンシャン)に出走させることも検討している。

 もう1頭のかなり期待されているスンベ社の2歳馬は、これまで出走したロンシャンの未勝利戦とシャンティイの条件戦をそれぞれ圧勝しているジャン-クロード・ルジェ厩舎のパディシャフ(Padishakh 父ウートンバセット)である。

 その結果、ビザコフ氏はフランスの馬主ランキングで10位に入るという素晴らしいシーズンを送っている。1位のアガ・カーン殿下の76頭、3位のヴェルテメール兄弟の97頭と比較して、ビザコフ氏の馬はわずか15頭しか出走していない。

 ビザコフ氏は2~3年後に首位争いをすることを望んでいると述べた。この週末に見たかぎりでは、彼をそこに押し上げるのがミシュリフとゴールデンホードの産駒ということは大いにありうるだろう。

 ビザコフ氏は私に、フライ氏の協力にどれだけ感謝しているかを記事の中ではっきり書いてほしいと頼んだ。フライ氏はもう12年もビザコフ氏とともに働いており、スンベ社のために2ヵ国で3つもの牧場を経営しており(メズレーとモンフォール&プレオーだけでなく、サセックスのヘスモンズスタッドも経営している)、さらにミシュリフの契約も取りまとめた。

 フライ氏は私の訪問に備えて地元のパン屋に出向いてくれた初めての場長であり、これほどの賞賛を贈ったとしてもなんの問題もないだろう。

By Martin Stevens

(1ポンド=約165円、1ユーロ=約145円)

[Racing Post 2022年12月5日

「Magnifique! Meeting the mighty Mishriff at his new home in Normandy」]