昨年秋にダービーオーナーであるサレハ・アルホメイジ氏(61歳)は驚異的な2,050万ポンド(約32億8,000万円)もの総額で馬を落札したが、その代金が支払われなかったため、それらの馬は庭先取引や春のセリで再販売されることになった。
セリ会社は気まずい立場に追い込まれることになった。アルホメイジ氏が馬購買エージェントのリチャード・ナイト氏を通じて一連の爆買いを行い、英国・アイルランド・フランス・米国の1歳セールを活気づけたわずか数ヵ月後に、彼らは購買希望者に連絡を取らなければならなくなったのだ。
ナイト氏は買い手の名前を明らかにすることはなく、未払いの購買者の正体は昨年、生産界で取りざたされることになった。しかしオーソライズドで2007年英ダービー(G1)を制したアルホメイジ氏が10月の一連の大きな購買に関わっていたことを、本紙(レーシングポスト紙)は明らかにしていた。
落札された馬の中には、ミドルパークS(G1)やモルニー賞(G1)を制したブラックビアードの全妹が含まれていた。9月のゴフス社オービーセールに上場されたこの馬は260万ユーロ(約3億6,400万円)で落札され、当時は2022年の世界最高額の1歳馬とされていた。
しかし、タタソールズ社は格式ある10月1歳セール・ブック1で馬を購買した個人に対して送付した1月6日(金)付のEメールの中でこう述べている。「未払金の発生により、庭先取引でただちに、あるいはセリが決定次第、2歳馬17頭を再販売することをお知らせします」。
このEメールには1歳セール・ブック1において1,045万5,000ギニー(約17億5,644万円)で落札された16頭が記載されている。200万ギニー(約3億3,600万円)で落札されたフランケルの牡駒(母ボールドラス)や180万ギニー(約3億240万円)で落札されたバターシュ&ジアンタークティックの半妹(父ロペデヴェガ)がその筆頭である。また、1歳セール・ブック 2でアルホメイジ氏のために落札された1頭が未払いとして記載されている。
ナイト氏は昨年、購買者の名前を公にすることを控えていた。しかし本紙は、アルホメイジ氏がこの超高額購買の影にいる謎の顧客であることを明らかにした。2人は昨年設立のSYHブラッドストック社の役員を務めている。
また、本紙はアルホメイジ氏がナイト氏を馬購買エージェントに任命していたこと、そしてナイト氏が馬主に代わってBHA(英国競馬統括機構)とのあいだでさまざまな事務手続きを行えるようにしていたことも明らかにした。
ナイト氏はアルホメイジ氏の名前は出さなかったものの、セリのあいだに馬主の願望についてこう語っていた。「競走馬の強豪チームを結成しようとしているのです。そしてもし優れた牝馬や良血の牝馬が手に入れば、それは素晴らしいことで、最終的に繁殖牝馬として繋養する可能性があります」。
ナイト氏は、馬は馴致されたあとに英国で調教されるだろうとも述べていた。優良馬の海外流出についての懸念が高まる中、英国への歓迎すべき投資が行われているように思われた。タタソールズ社のEメールによると、再販売される馬はダービージョッキーのアダム・カービー騎手により事前調教が行われていたという。
ゴフス社やタタソールズ社のような大手セリ会社は、代金はセリ会場を離れる前に全額支払わなければならないと販売条件にはっきりと記載している。しかし購買者には決済するのに通常30日またはそれ以上の猶予が与えられ、購買希望者には一定の信用枠が与えられる場合もある。
さらに、セリ会社は購買者から全額を受け取るまで売り手に代金を支払わないと規約で定めているが、本紙が理解するところ、セリ会社は売り手に代金を支払っているようだ。
ナイト氏がセリでサインした馬の販売者数名に本紙は取材した。販売者たちは落札額の支払いを受けたことを認め、セリ会社から金銭的な問題について何も聞かされていないと語った。
アルホメイジ氏はほかにも多くの上場馬を購買しようとしたが競り負けている。つまり、その購買活動は2022年の相場をつり上げ、ほかの購買者に負担をかけ、セリ会社が受け取る手数料を引き上げた。セリ会社が馬を再販売するときに発生するであろう損失を軽減するのに、その手数料はいくらか役立つことになるだろう。
アルホメイジ氏が競り負けた馬の中には、M・V・マグニア氏とピーター・ブラント氏がタタソールズ社1歳セール・ブック1において150万ギニー(約2億5,200万円)で落札したフランケル牝駒がいた。たとえばその時のタタソールズ社の手数料は 7万8,750ポンド(約1,260万円)だっただろう。
アルホメイジ氏はバーガーキング・ピザハット・タコベルなどのファーストフードのフランチャイズを運営するクウェートの複合企業、クートフードグループ(Kout Food Group)の副会長である。
アルホメイジ氏は以前、イマド・アルサガー氏とともに英国で馬を所有していた。最も有名なのはフランキー・デットーリ騎手にダービー初優勝をもたらしたオーソライズドである。
アルホメイジ氏は2018年にアルサガー氏とのパートナーシップを解消したが、単独馬主として英国で華々しく復帰すると見られていた。しかし彼自身の今後の競馬への関与、そしてナイト氏が彼のために購買した20頭以上の良血馬の未来は、今や宙に浮いた状態だ。
タタソールズ社の販売担当理事であるジミー・ジョージ氏はこう語った。「まったく嘆かわしい状況です。私たちはすべての関係者とともに、満足のいく結論に到達するよう全力をあげて取り組んでいます。一方で、問題の2歳馬をふたたび上場する手続きを開始しました」。
ゴフス社のCEOヘンリー・ビービー氏は声明の中で、「弊社はこのような事柄について、肯定であろうと否定であろうと一切コメントしないという方針を取っています」と述べた。一方キーンランド協会の広報担当者は、「弊社は顧客についての情報を開示しません」と語った。
アルカナ社にもコメントを求めたが回答は得られなかった。ナイト氏とアルホメイジ氏にもコメントを求める声が殺到している。
By Peter Scargill
(1ポンド=約160円、1ユーロ=約140円)
[Racing Post 2023年1月7日「Derby-winning owner's £20.5m of stock forced to be resold due to non-payment」]