3月14日(火)チェルトナムフェスティバル初日:チャンピオンハードル(G1)
ニッキー・ヘンダーソン調教師(72歳)はコンスティテューションヒルを評するときに"驚くべき"という言葉をよく使うが、この厩舎のスターがチャンピオンハードルで新たな高みに達したとき、ふたたびこの言葉を発した。チェルトナムフェスティバルの1日目は、この調教師が見どころを我がものとした。
ヘンダーソン調教師は9度目のチャンピオンハードル制覇を成し遂げ記録を伸ばしたが、コンスティテューションヒルのような圧倒的な強さを見せた馬はこれまでほとんどいなかった。この馬は昨年のシュプリームノヴィスハードル(G1)で驚異的な力を発揮したが(訳注: 22馬身差の勝利)、今回も同様のスタイルで他馬を圧倒した。
これまでの5戦でいつも積極的な競馬をしてきたのだから勝利を手にする権利があったが、今回はステートマンという強敵がいた。ステートマンは昨年カウンティハンデキャップハードル(G3)で優勝し、今シーズンはアイルランドで挑んだG1競走をすべて制してきた。
単勝1.4倍(4-11)の1番人気で送り出されたコンスティテューションヒルは、ステートマンに9馬身差をつけて快勝したが、ニコ・デ・ボインヴィル騎手が望めばこの着差はもっと広がっていたのではないだろうか。
彼は不必要に騒いだり派手な騎乗ぶりを見せたりはしないが、ずうたいの大きい相棒はロケット燃料がまだ満タンにあるように見えていたにせよ、あざやかなレースぶりを見せる能力は十二分にあった。
ヘンダーソン調教師は「まったく驚くべき馬ですよ」と述べ、電撃的なパフォーマンスにより醸成された電撃的な雰囲気に感動していた。
「レースキャリアのこの段階で、こんなことを成し遂げてしまうなんて信じられません。なにか不具合が起きないかいつも心配していてプレッシャーもあるのです。楽しいのはたしかですが、心の中ではご想像されているほど楽しくないのです。終わってみれば、ごもっとも、楽しいのですがね」。
ヘンダーソン調教師は長年の友人マイケル・バックリー氏のためにコンスティテューションヒル(6歳 父ブルーブレジル)を管理している。以前セブンバローズ厩舎に所属していたバリー・ジェラティ騎手に説得されてバックリー氏はこの馬を購買していた。
ジェラティ騎手はこの馬の将来性を確信していたが、コンスティテューションヒルの気性はのんびりしていたので、ヘンダーソン調教師は良い成績をあげられないではないかと心配していた。
ところが変化が訪れた。厩務員のジェイドン・リー氏と攻馬手のショーン・オブライエン氏が率いるチームが、彼の末脚の素晴らしさを知らしめたのだ。ヘンダーソン調教師はそれからずっとその末脚を褒めたたえるようになる。
ヘンダーソン調教師は最終障害での驚異的な飛越について、「彼はうんと体を伸ばすことができるのです」と付け加えた。この場面で競馬界の多くの人々はスムーズに飛越しきることだけを切望しているように感じられた。
ヘンダーソン調教師はとても人気のあるスプリンターサクレ(Sprinter Sacre)という馬を管理してきた。この馬は2マイル(約3200m)を得意とするセンセーショナルな障害競走馬だったが、心臓の障害で戦線離脱してしまった。その後、完全に回復してカムバックを果たし、クイーンマザーチャンピオンチェイス(G1)で2勝目を挙げるというおとぎ話のような一幕もあった。
ヘンダーソン調教師はコンスティテューションヒルがスプリンターサクレを凌ぐほどの、おそらくずば抜けて素晴らしい才能を秘めているのかもしれないと考える。一方、ファンに愛されているという点では、彼はすでにスプリンターサクレのレベルに達しているようだ。
ヘンダーソン調教師は満足げにこう語った。「この馬は何でも達成できるでしょう。フェンスを飛越することも、3マイル(約4800m)を走ることもできるのです。今では6戦したことになります。積極的にレースしないことはほとんどないのです。しかしいつまでも続くわけではないので、今のうちに楽しんでおきましょう」。
「スプリンターサクレは本当に素晴らしいことをしてくれました。彼がカムバックしたときの感情は半端ではありませんでした。コンスティテューションヒルは6戦しただけでそのようなレベルに到達したのです。驚くべきことが起こったのですが、彼は驚くべき馬です。ニコにはできるかぎりシンプルに乗ってくれと言いましたが、彼はそのとおりにしてくれたのです」。
デ・ボインヴィル騎手はチャンピオンハードル・チェルトナムゴールドカップ(G1)・クイーンマザーチャンピオンチェイスを制して、エリート騎手の仲間入りを果たした。ずば抜けて優秀な馬に乗っていたのはたしかだが、この勝利における彼の役割を過小評価すべきではない。「障害が残り2つとなったときに、ほかのすべての馬が迫ってくるのが感じられました。しかし彼はすべてのハードルをうまく飛越し終えました。ただ、いつボタンを押すかが重要なのです」とデ・ボインヴィル騎手は控えめな口調で語った。
バックリー氏もヘンダーソン調教師と同じく、ボタンが正常に機能したことに安堵の表情を浮かべた。フィニアンズレインボー(Finian's Rainbow)が2012年クイーンマザーチャンピオンチェイスを制して以来、自らの馬主としての経歴にチェルトナムフェスティバルの主要レースの勝鞍を1つ増やしたのである。
1970年代から馬主である企業家のバックリー氏はこう語った。「初めてここに来たのは19歳の時です。三大レースとして、チャンピオンハードル・チャンピオンチェイス・ゴールドカップが施行されていました。まさか自分が馬を所有するとは、ましてや所有馬がこれらのレースに出走したり優勝したりするとは思ってもみませんでした」。
「競馬場でこれほど素晴らしい日を過ごしたことはありませんね」。
ステートマンを管理するウィリー・マリンズ調教は落ち込むことはなかった。
「馬はよく走りました。真のチャンピオンハードラーと対戦したのですから、言い訳はできませんね。ニッキー、マイケル、そしてチーム全員に"おめでとう"と言いたいです。ニコはとても勇敢に騎乗し、最強馬に乗っているという自信をもっていました。そして自分のレースをしました。すべての関係者にとって喜ばしいことだと思います」。
「この馬は驚くべきレベルまで行く」
コンスティテューションヒルはヘンダーソン調教師にとって73頭目のチェルトナムフェスティバルの優勝馬である。また1953年にオッズ1.4倍(2-5)で圧勝したサーケン(Sir Ken)以来の低オッズのチャンピオンハードル優勝馬となった。
しかしヘンダーソン調教師にとっては、それはただの脚注に過ぎない。彼は、喜んでいる観客の方にコンスティテューションヒルを近づけるように促し、満足げに称賛を浴びていた。
「涙で目が潤んでいます。これまでも、そしてこれからもずっとそうでしょうが、このような勝利の瞬間にはほとんどの人の目に涙が浮かぶでしょう。この馬は今や驚くべきレベルに到達しようとしており、この馬を預かることができてとても光栄ですが、多くの責任が伴います」。
またもや"驚くべき"という言葉が出てきた。コンスティテューションヒルに関してヘンダーソン調教師がこの言葉を使うのは、これで最後ではなさそうな気がする。
すべての道はマージーサイド(イングランド北西部)につながる。コンスティテューションヒルは長らく今シーズンの目標としてきたエイントリーハードル(G1)に出走予定だが、今回のパフォーマンスを受けて、はたしてどの馬が彼に挑戦するのだろうか?
By James Burn