エージェント(馬売買仲介者)のジョージ・ムーア氏は、収益性の高い香港市場で馬取引を行うために投資ファンドを立ち上げた。競馬のメッカである香港では、馬主が豪州から実績のある馬を調達するのが難しくなりつつある。
ジョージ・ムーア氏は、香港でリーディングタイトルを7回獲得したジョン・ムーア元調教師の息子である。「ビューティー」の冠名の馬を出走させているクオック家など、著名な馬主のエージェントとして長年活躍してきた。しかし現在は、豪州で馬の所有と売買の事業を拡大している。
イングリス社プレミア1歳セール(3月5日~7日 メルボルン)で、ムーア氏は新しいシンジケートのためにリトゥンタイクーンの牡駒とオーシャンパークの牡駒をそれぞれ9万豪ドル(約810万円)で購買し、少なくともその30%に自ら出資することにしている。彼の関与は国際的な購買層に厚みを与えた。香港で馬取引を行うアンディ・ラウ氏とロス・ラオ氏のアッパーブラッドストック社(Upper Bloodstock)もこのセリで11頭を落札し積極的な購買活動を行った。
ムーア氏はマスククリークファーム(オーナー:デヴィッド・コブリッツ氏)が上場した選り抜きのディープフィールドの牡駒を購買しようとしたが、28万豪ドル(約2,520万円)の値をつけた香港ジョッキークラブ(HKJC)に競り負けた。また、ギルガイファーム(Gilgai Farm)が生産して上場したリトゥンバイの牡駒を購買しようとしたが、41万豪ドル(約3,690万円)の値をつけたキアロン・マー・レーシング&ベストブラックストック社に競り負けた。
プレミアセールの後にバンコクとモルディブで6日間の休暇を楽しんだムーア氏は、マジックミリオンズ社アデレード1歳セール(3月14日・15日)のために豪州に戻ってきた。そこで購買馬リストにさらに馬を加えるつもりである。
マジックミリオンズ社のモーフェットヴィルのセリ複合施設にいるムーア氏は本紙(ANZブラッドストックニュース)に対してこう語った。「私たちは8万~25万豪ドル(約720万~2,250万円)の馬をターゲットにしています。そのレベルであればリスクを抑えることができるのです。60万豪ドル(約5,400万円)で4~5頭を購買することでリスクを分散できます。それにより失敗が許される範囲がいくらか広がりますので、4~5頭を購買することには結構良い面があるのです」。
「香港のためにレーティング63の馬を1頭確保するだけで、すべてのコストをカバーできます。だからこの戦略はかなり良いと思うのです」。
父ジョン・ムーア氏はその弟ゲイリー氏とともにシドニーで一時的に厩舎を運営していたが、2021年にゴールドコーストに移った。しかし半年後にはそこでの事業をやめ、アジアに帰った。
父ジョン・ムーア氏が豪州に戻ってきたとき、親子は将来有望な種牡馬にするための牡駒を中心に購買していたが、父の引退に伴いジョージ氏はビジネスモデルを変更した。
ジョージ・ムーア氏はこう語った。「50万~80万豪ドル(約4,500万~7,200万円)程度の価格で種牡馬にふさわしい血統の馬を多く購買していました。しかし香港では個人購買したレーティング63の馬が50万~60万豪ドル(約4,500万~5,400万円)で売れるので、以前の戦略は適していません」。
「そこで友人を数人集めたのです。プレミアセールで購買した馬を見て、父は先週電話してきました。それで今では彼もシンジケートの一員なのです」。
ムーア氏は最近、4戦2勝のハイブルーシー(ジェラルド・ライアン&スターリング・アレクシウ厩舎)と、ニューキャッスルの未勝利戦で優勝したほか4回3着内に入っているキャピタルシアター(チーム・ホークス厩舎)を購買した。
ジョージ・ムーア氏はこう続けた。「昨年は8頭を共同で所有していましたが、そのうち6頭か7頭がさまざまなレベルで香港にふさわしい馬でした。そしてそのほとんどを売却しました」。
「65万豪ドル(約5,850万円)で購買したキャピタルシアターが3回連続で2着となり勝ちきれなかったので、香港に売却するとわずかにマイナスでした。しかし彼は素晴らしい馬で、少なくともクラス2の実力を持っていると考えます」。
「彼が3回連続2着となって勝ちきれなかったのは私たちにとって少し不運でしたね。そうでなければ65万豪ドル(約5,850万円)を費やしていたとしても、おそらく利益を上げることができたでしょう。しかしこれこそが8万~25万豪ドル(約720万~2,250万円)の馬をターゲットにするようになった理由なのです」。
「あらゆる馬でそれなりの利益を得ることができましたが、今は在庫がありません」。
ムーア氏は新たな1歳馬を調達しようとしている。そのために、アデレード1歳セールは重要な役割を果たすことになる。シンジケートが購買馬を預けることになる6人~7人の調教師の中には、ライアン&アレクシウ両調教師、ホークスベリーを拠点とするブラッド・ウィダップ調教師が含まれるだろう。
ムーア氏はこう続ける。「香港のために馬を個人購買することの需要は高いのですが、誰も販売してくれないので供給が追いつきません」。
「昨日(3月11日)はセリで馬を手に入れるための予算を300万豪ドル(約2億7,000万円)まで引き上げようと思って電話していたのです。誰も譲歩する気はなく本気で馬を売りたいと思っていないです」。
「スプリンターを探している顧客はたくさんいますが、たとえ300万~400万豪ドル(約2億7,000万~3億6,000万円)を出そうとしても彼らは豪州のトップスプリンターを売ろうとは思っていないのです。なぜなら現在スプリント戦の賞金はすごく高額ですから」。
「シンジケートのために4~5頭をピックアップして、豪州の厩舎に預託してレースに出走させます。そのうちの1頭か2頭をトライアルレースの優勝馬として売却して、その後は様子を見ることになるかもしれません」。
468頭が上場されるマジックミリオンズ社アデレード1歳セールは、3月14日午前10時(現地時間)に開始される[訳注:ジョージ・ムーア氏は14日、ハリーエンジェルの牡駒を23万豪ドル(約2,070万円)、キャピタリストの牡駒を22万豪ドル(約1,980万円)で購買した。また、アイラブディスシティの牡駒とシェイマスアウォードの牡駒をそれぞれ18万豪ドル(約1,620万円)で落札した。そしてシンジケートのために6万豪ドル(約540万円)のハリーエンジェルの牡駒を購買した]。
By Tim Rowe/ANZ Bloodstock News
(1豪ドル=約90円)
(関連記事)海外競馬情報 2020年No.8「ジョン・ムーア調教師、華やかなキャリアを終えて新天地へ(香港)」
[bloodhorse.com 2023年3月12日「Moore Launches Syndicate to Sell Horses to Hong Kong」]