海外競馬ニュース 2023年03月23日 - No.11 - 1
ギャロパンデシャン、チェルトナムゴールドカップの栄光を手に入れる(イギリス)[その他]

3月17日(金)チェルトナムフェスティバル最終日 チェルトナムゴールドカップ(G1)

 "豪華絢爛"といわれるチェルトナムゴールドカップはその期待に応えるどころか、それ以上の興奮をもたらした。ギャロパンデシャンがブレーヴマンズゲームを大きく引き離してスタミナに対する疑念を払拭し、ウィリー・マリンズ調教師とポール・タウネンド騎手の不屈のコンビに輝かしい救いの勝利をもたらしたのだ。

 ターナーズノヴィスチェイス(G1 チェルトナム)の最終障害で残酷にも飛越に失敗して競走を中止してから1年後、ハンサムなギャロパンデシャン(7歳)は7馬身差の断固たる勝利を収めて2.4倍(1番人気)の支持の正当性を見せつけた。それは事実であり疑う余地がないように見える。しかしタウネンド騎手は、雄大な目的地までの道のりで台本を粉々にしてしまう地雷のようなものを避けて通ることが要求された。

 冴えないスタートを切ったことでギャロパンデシャンは意図したよりも後方に置かれ、このタイトルの防衛を目指す昨年の覇者アプリュタールが同じく後方の内側を走り、飛越でギャロパンデシャンを遮る展開となった。また、同じ厩舎のスタットラーも最初の周回を終える前に後方に下がってきて、少し邪魔になった。さらに最後から6つ目の障害でアホイセニョールが転倒してしまい、タウネンド騎手は危うく巻き込まれそうになる。

 しかし進化したギャロパンデシャンは昨シーズンよりもはるかに御しやすく、タウネンド騎手は巧みに乗りこなせる相棒を得ていた。最後の周回に臨むときに少し外側に誘導することで、アホイセニョールから十分に離れていて転倒の影響を回避できた。この転倒によりサウンズロシアンは巻き込まれ、アプリュタールはかなり妨害された。

 その結果、ヒューウィック(ジョン・ジョセフ・ハンロン厩舎)が先頭に立ち勇敢に走っていたが、最後から2つ目の障害で転倒した。またしても、そのとき後方に下がっていたタウネンド騎手は、最終コーナーを回ったところで騎乗馬を外に遠ざけていて混雑を回避することができた。1年前にこの馬に乗っている彼を見捨てた勝利の女神が今回は守ってくれたのだ。

 タウネンド騎手は坂の上の最後の掘割(ditch)でのアホイセニョールの転倒についてこう語っている。「きわどかったですね。私たちは先行勢の後ろに着地して、目の前では馬が右往左往していたのですが、彼はいつも態勢を立て直してくれました。運が必要なのです。昨年はツイていなかったのですが、今年は運に恵まれました。序盤はゴチャゴチャしていたのですが、彼はうまく走ってリズムを取り戻してくれましたね」。

 豪華な顔ぶれが揃っていたので、ゴールドカップへの期待感は桁外れに高まっていた。結果的に、チェルトナム競馬場は特別なものを求めるコッツウォルズ地方の観衆を満腹にさせるレースを提供した。本当に素晴らしいごちそうだった。

 ブレーヴマンズゲームも一役買った。最後から2つ目の障害でプロテクトラットに並んだのだ。しかしタウネンド騎手はこの馬に狙いを定めており、ギャロパンデシャンはその動きをマークしていた。レース展開は1年前にレイチェル・ブラックモア騎手がアプリュタールで取った戦術と酷似していて、アイルランドの障害リーディングジョッキーはその障害を飛越し終えるまでじっと鞍の上に座っていた。½馬身後方で着地して、タウネンド騎手が脚部で圧迫したとたん、ギャロパンデシャンは脚を伸ばした。最終障害でギャロパンデシャンとブレーヴマンズゲームは完全に一体となって飛越し、のちの優勝馬は力強く坂を駆けのぼった。差を広げるのに数完歩を要したが、ゴール板を通過するときの優勢は疑いようがなかった。

 調教師と騎手は2019年と2020年にアルブームフォトでこの快挙を達成しており、今回が3度目のゴールドカップ制覇となった。このチェルトナムフェスティバルウィークの結末は、クロサットンを拠点とする名伯楽ウィリー・マリンズにとってふさわしい壮麗なものとなった。

 マリンズ調教師はほっとした様子でこう語った。「自らプレッシャーをかけてしまったようです。この馬にはゴールドカップを勝つのに十分なスタミナがあると言ってしまいましたからね。ゴールドカップを勝てるだけの能力があると思っていたのです。しかしアルブームフォトがゴールドカップを制したときは、それほど大きな期待はありませんでした」。

 「しかしギャロパンデシャンへの期待は相当なものでした。最後から3つ目の障害に差し掛かるまで、どれほどプレッシャーがかかっているか実感していませんでした。その障害をすんなりと飛躍して、積極的に走っているのを目の当たりにして、私は言ったのです。"これは勝てるぞ。勝ってしまいそうだ"と」。

 「レース中には"後方すぎるんじゃないか?"と思っていたのです。でも、"まわりの馬が彼のスタミナを奪おうとするだろうから彼を落ち着かせるように"とポールに頼んでいたのです。さらに"最後から2つ目の障害からは最速馬に騎乗している気持ちで乗ってほしいんだ"とも言いました。そしてポールはそれを実行しました。ポールはプレッシャーにとても強いのです。それで今週は彼にかなりのプレッシャーをかけてきました」。

 マリンズ調教師はいつもこのような調子だが、タウネンド騎手は正念場に力を発揮する不屈の精神を長年にわたって証明してきた。混戦模様の週を過ごしてきて、追い詰められた状況にあった。しかし彼はチェルトナムフェスティバルのリーディングジョッキーに輝き、その名声はさらに高まった。また言うまでもなく、彼より多くのゴールドカップを制したのはパット・ターフェ騎手だけである(訳注:パット・ターフェ騎手は1964年・1965年・1966年・1974年のゴールドカップで優勝)。

 タウネンド騎手はトレードマークである冷静な態度でこう語った。「このレースはとにかく違っているのです。このレースに勝つと、さらに上のレベルに引き上げられるのです」。

 そして、道中耐え抜かなければならなかったことについてこう述べた。「とにかく順風満帆でなかったですね。どこに行っても、ちょっとしたトラブルに見舞われたのです。最初の周回では、飛越するのに少し注意を要しましたね。しかし彼がトラブルを切り抜けさせてくれると全面的に信じていました。そして彼はそうしてくれたのです。彼はとても立派な馬です。なぜなら3つの異なるレースに出走してきたのに、それでもゴールドカップを制覇したのですから」。

 ギャロパンデシャン(父ティモス 訳注:2010年ジャパンカップで15着)はオードリー・ターリーさんとダブリンの実業家である夫のグレッグさんに所有されている。夫妻はレース後にうっとりとしていた。

 オードリーさんは夢中になってこう語った。「夢が叶ったようです。夢にも思っていなかったことです。ギャロパンデシャンという素晴らしい馬がチェルトナムフェスティバルのゴールドカップを制して、それに立ち会うなんて想像もしていませんでした。言葉がありませんし、どう考えていいのか分かりません。ただ信じられません。素晴らしいことです」。

 ミネラインドーはスタートで失敗し、一度も仕掛けて行くことなく競走中止となった。それにブラックモア騎手もアプリュタールの行く手が阻まれチャンスが潰えてしまったあとに止めてしまった。コンフレーティッドは、直前に"痛み"を訴えたデイヴィ・ラッセル騎手に代わりサム・ユーイング騎手が鞍上に起用され3着に健闘した。一方、プロテクトラットの挑戦は坂の上でしぼんでしまった。ノーブルイェーツは坂の途中で見るからに減速していたが、勇敢に走って6½馬身うしろの4着に食い込んだ。

 昨年のグランドナショナル(G3)の覇者ノーブルイェーツは魅惑的なゴールドカップで立派な活躍を見せた。今回のゴールドカップはアイリッシュ海の向こう側に有力馬が集まっていることを強く印象づけた。そのほとんどはカーロウ県クロサットンにいるようだ。チャンピオンたちの温床である。

By Richard Forristal

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