ジョッキークラブのCEOは4月15日(土)のグランドナショナルの発走が抗議行動により約15分遅れたことを受けて、英国競馬界は競馬廃止を望む人々の挑戦に"正面から"立ち向かう必要があると語った。
レース前に抗議者9人がコースに侵入し、第2号障害にしがみつく者や、柵に自らを縛りつけようとする者もいて、発走時刻が少し遅れることになった。
マージーサイド警察によるとこの日118人が逮捕された。動物愛護団体アニマルライジング(Animal Rising)のスポークスウーマンであるオルラ・コグラン(Orla Coghlan)氏は、土曜日の抗議行動は"始まり"に過ぎないと警告している。
エイントリー競馬場を所有するジョッキークラブのCEOネヴィン・トゥルーズデール氏は16日(日)、警察と警備スタッフの行動を称賛した。そして、15日(土)の出来事に対して断固とした態度を取るよう競馬界に呼びかけた。
「競馬界がこれについて攻勢をかけていく必要があると考えています。なぜなら、私たちはこれまで変化を成し遂げてきたという点で、人々に伝えるべき優れたストーリーと誇れる実績を持ち合わせているからです」。
「今週起きた出来事では、言われているような抗議行動や違法行為があったわけですから、当然のこととして、私たちは前に出て、自らの言い分を述べ、これらの人たちの発する誤情報に対抗して事実を説明する格好の機会が与えられていると言えるでしょう」。
「今週は競馬界として良い対応をしましたが、これからも続けていかなければなりません。私たちはサラブレッドへの愛を誇りに思うべきであり、競馬がなければサラブレッドは存在しないということを強調すべきです。今朝リチャード・ホイルズ氏(競馬実況アナウンサー)がLBCラジオでそのことを力強く語っていました」。
「これらの人たちはまったく無知な状況にあるのです。馬がどのような動きをし、どのように世話され、どのように生産されるかについて何も知らないのです。結局のところ、競馬がなければサラブレッドは存在せず、8万人分の雇用と英国経済に打撃を与えることになるのです」。
「こちらの言うことを聞こうとしない人々はいるでしょう。しかし、彼らに耳を傾けてもらって我々がしていることを見てもらう努力は怠るべきではありません。予後不良事故が3分の1減ったことは誇りに思うべき事なのですが、さらに減らすために全力を尽くしていることはより一層誇るべきことなのです。競馬界として正面から立ち向かっていきましょう」。
2012年のグランドナショナルの後にコースが大幅に変更され、2013年~2018年に予後不良事故はなかった。しかし2019年にアップフォーレビュー(Up For Review)、2021年にザロングマイル(The Long Mile)、昨年にエクレアサーフ(Eclair Surf)とディスコラマ(Discorama)が予後不良となり、今年はヒルシックスティーン(Hill Sixteen)が第1号障害で飛越に失敗して同じ運命を辿った。
ヒルシックスティーンを手掛けたサンディ・トムソン調教師は、発走が遅延しているあいだに馬のテンションが上がっていたと言う。そして、抗議者たちの行動がこの馬のキャリア初の飛越失敗の一因になったと感じていた。
今年のグランドナショナルを完走したのは17頭であり、近年の数字と一致している。2019年には19頭、2021年と2022年にはそれぞれ15頭が完走した。今年飛越に失敗した馬は4頭であり過去3年と同じだったが、騎手の落馬は過去9年間で最も多く11件だった。2019年は2件、2021年は4件、2022年は9件だった。
今年のグランドナショナルで一番大きな違いは第1号障害と第2号障害で生じた。8頭もの馬が第2号障害から先に進めなかったのだ。過去3年においてその数は2頭・1頭・2頭だった。発走時刻の遅れがレースの序盤に影響を与えた可能性があるようだ。
15日(土)の抗議行動をうけ、グランドナショナルに対する監視が強化され、さらなる変更を求める声が上がるのは確実である。この抗議行動は16日(日)に数々の全国紙の一面を飾った。世界馬福祉協会(World Horse Welfare: WHW)は声明で、グランドナショナル開催(4月13日~15日 エイントリー)で予後不良事故が3件あったことから"もっとやるべきことがある"と述べている。WHWは馬が正しい形で競馬に関わることを支援する慈善団体であり、BHA(英国競馬統括機構)の独立した福祉アドバイザーである。
WHWのCEOロリー・オワーズ氏はこう語った。「エイントリー競馬場から世界中のテレビ画面に配信された今年のグランドナショナル開催は、見るに堪えないものでした。アンヴォワイエスペシャル(Envoye Special)、ダークレイヴン(Dark Raven)、ヒルシックスティーンの3頭が命を落としたことで、胸が張り裂けそうな思いをしています。関係者の悲しみはいかばかりかと察します。哀悼の意を表します」。
「実際のところ事故はどこでも起きてしまうものであり、リスクを完全に取り除くことはできません。一方で、障害競走には特有のリスクがあり、可能なかぎりそれを軽減し続ける責任があります。このような出来事の直後は、まさに何が起こったかを振り返って見直すときです。これまでにエイントリーと競馬界は数々の変更をしてきましたが、もっと多くのことを行う必要があることは明らかです」。
「実際面で、障害競走のリスクモデル(Jump Race Risk Model)の取組みを前面に押し出すことが必要だという緊急の注意喚起です。このリスクモデルは、グランドナショナルなどの障害競走をより安全にするための情報をもたらすための重要な手段です。しかしこれまで十分なスピードで進展してきませんでした。競馬界が王立獣医学大学と提携してこのプロジェクトを推進するようになった今、これを変える必要があります」。
「全体として検討しなければならない問題は、出走頭数、落馬を減らす方法、空馬にうまく対応する方法、スムーズな発走方法などです」。
「どのようなレースでも予後不良事故がつきものであるということを誰も認めません。どのような人であれ、少なくとも競馬界にいる者は誰も昨日のグランドナショナルで目撃したようなものは見たくないのです」。
トゥルーズデール氏は、今後全面的な見直しが行われるだろうと述べた。また、措置を取るべきであるとデータが裏づけるのであれば、少なくともグランドナショナルにおけるさらなる変更が検討されるだろうと付け加えた。
「何らかの変更を施さなかった年はほとんどありません。私たちは決して一所にとどまっているわけではありません。ただ今ここに座って、来年に向けてどのような変更があるのかを憶測するつもりはありません。それはエイントリーの馬場取締委員のスレカ・ヴァーマ(Sulekha Varma)氏とそのチーム、そしてBHAのチームが今後数ヵ月のあいだに決定することです」。
「もしデータ・分析・証拠からある変更がポジティブな違いをもたらすと分かったら、当然のことですが、少なくとも検討しなければならないでしょう」。
BHAのCEOジュリー・ハリントン氏は、今年のグランドナショナルについて再調査が行われること、そしてエイントリーで生じたほかの2つの予後不良事故についての分析が行われることを認めた。
ハリントン氏はこう語った。「BHAとエイントリー競馬場は毎年そうであるように、既存のデータを活用し、これらの事故の原因を理解するために、細部にわたって念入りにレースを分析します」。
「英国競馬界は競馬の安全性を向上させ回避可能なリスクを減らすために、たゆまぬ努力をしています。BHAは競馬場やほかの団体とともにすべての事故を検証しています。スポーツ界の一員として、長年にわたり、福祉水準を向上させたいという私どもの強い決意と責任感を適切な措置を講じる中で示してきたところです。それらの措置は、計画的で、科学的で、証拠に基づき、規制と啓蒙に基づいたものでした」。
「そういう経緯で、競馬における予後不良事故率は過去20年間で3分の1以上減少し、出走頭数の0.2%になりました」。
「英国競馬に従事する人々は当然のことながら、このスポーツに誇りを持っています。また、競走のために生産された馬に比類ないほど質の高い生活をもたらす役目も誇りにしています。馬への愛と尊敬は、私たちが行うすべてのことの中心にあるのです」。
By Lewis Porteous
[Racing Post 2023年4月16日「Jockey Club chief calls for racing to get on the front foot with sport's detractors」]