殿堂入りトレーナーのトッド・プレッチャー調教師の弁護士によると、昨年の最優秀2歳牡馬フォルテが2022年ホープフルS(G1 サラトガ)で挙げた勝利は非ステロイド性抗炎症薬メロキシカム(meloxicam)の陽性反応により取消しとなったという。
ニューヨーク州の上席裁決委員であるブラウリオ・バエザJr.氏が5月11日、勝利を取消したことに加えプレッチャー調教師に10日間の調教停止処分と過怠金1,000ドル(約13万5,000万円)を科したことを関係者に知らせたと、カレン・マーフィー弁護士は述べる。
フォルテの関係者が記者たちに現状を伝えた数時間後に、ニューヨーク州ゲーミング委員会(New York State Gaming Commission:NYGSC)はこの裁定を公表した。
プレッチャー調教師は、フォルテ(馬主:リポールステーブル&セントエリアスステーブル)にこの薬物を使用したことはなく、上訴する予定であると述べた。
「フォルテは2022年3月25日に私たちのところに入厩しましたが、メロキシカムが処方されたことも使用されたこともありません。内部調査を行いましたが、この薬物を使用したことのあるスタッフはいませんでした」とプレッチャー調教師は語った。
上訴されれば審査官の前で審議が行われ、審査官はNYGSCにどのような手続きをとるべきか勧告することができる。ただしNYGSCは審議官の勧告に縛られるわけではない。
馬主の1人、マイク・リポール氏は優勝取消しが覆らなかったら訴訟を起こすとし、こう語った。
「これまで馬を購買するのに2,000万ドル(約27億円)を費やしてきました。法廷で闘うにあたり2,000万ドルを費やすつもりです。壮絶な無能ですね。無能としか言いようがないでしょう。こんな理不尽なイジメはやめさせないといけません」。
ルイジアナ州立大学(LSU)の教授である化学者のスティーヴン・バーカー氏は、フォルテの関係者の専門家証人である。彼は競走後検査でフォルテの体内から500ピコグラム、つまり0.5ナノグラムのメロキシカムが検出されたと述べた。メロキシカムは人間に広く使われているが、サラブレッド競走馬を治療する薬物には認められておらず、検査ではゼロ・トレランス主義(ゼロ以外は陽性)がとられている。
バーカー氏はこの薬物が馬体内に微量存在していても競走能力に影響をもたらすものではなく、投与というよりは混入したことを反映していると付け加えた。さらに、競走能力に影響を与えるには、1,000ナノグラムが必要であると述べている。
「(フォルテから検出された)メロキシカムの量が競走能力に影響をもたらさないのは絶対確実なことであり、おそらくこれは混入によるものです。競馬産業が薬物使用を規制する理由は、(1)誰かが有利にならないこと、(2)誰かが危険にさらされないようにすること、(3)誰かが違法なことをしないようにするためです。今回の場合、誰かが有利になることはなく、馬もレース参加者も危険にさらされることもありませんでした。つまり何かをしたわけではなく、たまたま体内に薬物があっただけです」。
バーカー氏は、競馬産業が基準としているゼロ・トレランス主義を批判し、微量な痕跡や混入については例外を設けるべきだと主張した。
「制裁を科す場合は科学的な理由が必要です。ゼロ・トレランス主義には理由も科学もありません。間違ったことです。馬の命を奪いうる合成薬物がある一方で、これらの痕跡レベルの検出をすべて陽性にすることはかえって競馬産業にとってより大きな害悪となります。あらゆるケースにおいて混入は起こりうると考える必要があります」。
裁決委員による審問は5月10日に行われた。ちょうどニューヨークタイムズ紙が無名の消息筋2名の情報を引用して、フォルテの薬物陽性反応について報じた翌日のことだ。プレッチャー調教師の調教停止処分と過怠金は、メロキシカムの陽性反応による処分の典型例を踏まえたものである。リポール氏は"ドーピング "と報じたニューヨークタイムズ紙に対して法的措置を検討しているという。
マーフィー弁護士は、自らがプレッチャー調教師の代理として発言することや、専門家証人を呼ぶことが認められなかったとし、審問を非難した。また、ニューヨーク州馬薬物検査プログラム(New York State Equine Drug Testing Program)のディレクターであるジョージ・メイリン博士に証言してもらうよう何度か頼んだが、拒否されたという。また、リポール氏とマーフィー弁護士によると、メイリン博士がバエザ氏に"検査結果は混入によるものだと考えている"と話したという。
メイリン博士は本誌(ブラッドホース誌)の取材に対して、"混入の可能性がある"とバエザ氏に伝えたと語った。制裁に納得しているのかという質問には、「私がペナルティーを設定しているわけではありません。メロキシカムはゼロ・トレランス主義の薬物として規定されていたのです」と語った。
マーフィー弁護士はこう語った。「トッドは自身の事例を提示し証人を呼ばなければなりませんでした。それは調教師の戦略手帳にないものです。私は参加し発言する権利を否定されました。トッド・プレッチャー調教師は最終的に制裁を科されることになる審問で弁護人を依頼する権利を認められなかったのです。これはかなりショッキングなことです」。
マーフィー弁護士が発言できなかったことや、メイリン博士のコメントについて尋ねられたとき、NYSGCのコミュニケーション担当理事のブラッド・マイオーン(Brad Maione)氏は、「昨日の裁決委員の会合にはトッド・プレッチャー調教師が出席しました。これは調教師が裁決委員に対して自らの立場で状況を話す機会でした。つまり調査プロセスにおける標準的なステップでした。審問ではありません。今日、州の裁決委員(バエサ氏)が裁定を下しました。それ自体が雄弁に物語っているのです」。
関係者たちは9月28日にこの検査結果について知らされたと述べた。その日は、10月1日のシャンペンS(G1 アケダクト)への出馬投票が行われる日であり、フォルテが出馬投票されることはなかった。代わりに10月8日のブリーダーズフューチュリティ(G1)に出走することになった。
検査結果が出てから審問が行われるまで7ヵ月以上かかったのはフォルテの関係者のせいだという主張に、マーフィー弁護士は異議を唱えた。
「ニューヨーク州ゲーミング委員会(NYGSC)は2~3回、私たちが手続きを遅らせたと述べていますが、それは虚偽であり、少々ショックを受けています。政府の規制当局が虚偽の発言をするのは好ましいことではありませんね。少し脚色する程度のことはあるかもしれませんが、事実ではないことを言うなんてありえません。私たちは1日目から、もっと言えばそれ以前からこの問題に取り組んできました。ジョージ・メイリン博士の試験報告書さえも手に入れていません。彼らは私たちにそれを渡すことを拒否しているのです。NYGSCが分割サンプルを送ることができる試験所のリストを提供するのに4ヵ月もかかったのです」。
プレッチャー調教師は、フォルテ(父ヴァイオレンス)は5月13日にベルモントパークに輸送されるだろうと述べた。リポール氏はフォルテが6月10日のベルモントS(G1)に出走予定だと付け加えた。
リポール氏はベルモントSについて「間違いありませんね。ブラウリオ氏が私に永久業務停止処分を科さないかぎりは」と語った。
総賞金30万ドル(約4,050万円)のホープフルSでフォルテが獲得した1着賞金16万5,000ドル(約2,228万円)は没収される。このレースはフォルテの種牡馬としての価値を高めるうえでも重要だった。
ホープフルSではフォルテの優勝取消により2着のガルフポートが繰り上がり栄冠を手にする。そのほか3着のブレイジングセブンスと4着のモーストライクが1つずつ順位を上げ3着内に入る。
フォルテはホープフルSに続いてキーンランドでブリーダーズフューチュリティとBCジュベナイル(G1)を制し、冬にはエクリプス賞を受賞した。また、プレッチャー調教師は8回目となる最優秀トレーナーに輝いた。
今年に入ってフォルテは2戦2勝を果たしている。ガルフストリームパークのファウンテンオブユースS(G2)とフロリダダービー(G1)を制したのだ。ケンタッキーダービー(G1 チャーチルダウンズ)では前売りで1番人気に支持されていたものの、関係者が言うところの右前肢の挫跖のために出走取消となった。プレッチャー調教師は、5月20日のプリークネスS(G1)に向けて間に合うようにフォルテを仕上げられそうにないと述べている。フォルテはケンタッキーダービー当日である5月6日の朝にケンタッキー州競馬委員会(KHRC)の獣医師により除外とされ、現在、獣医観察リストに入れられている。そのため一定期間出走することができない。
フォルテは、具体性のない理由でダービーの前に獣医観察リストに載った6頭のうちの1頭である。"不健全な状態"から"獣医師による治療"にいたるまで、さまざまな理由でリストに載ることがある。最初にフォルテの名が現れたのは5月4日付のケンタッキー州獣医観察リストであり、それによると4月22日にリストに掲載されたという。ただし4月25日付のケンタッキー州獣医観察リストにフォルテの名はなかった。
By Bob Ehalt
(1ドル=約135円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2023年No.17「フォルテ、獣医観察リストに入れられプリークネスSも出走不可(アメリカ)」
[bloodhorse.com 2023年5月11日「Forte Disqualified From '22 Hopeful; Pletcher Suspended」]