"プーマシステム(Puma System)"と呼ばれる調教法は2023年の三冠競走を一変させた。
この調教法を考案したのは"プーマ"ことグスタボ・デルガド調教師である。ベネズエラのトップトレーナーとして君臨し、ベネズエラで多くのクラシック勝利を収めて三冠を3回達成する過程で編み出したものだ。
デルガド調教師は2014年に拠点を米国に移したときにプーマシステムを持ち込んで少し手を加え、驚くなかれ、単勝16倍のメイジで総賞金300万ドル(約4億2,000万円)のケンタッキーダービー(G1 チャーチルダウンズ 5月6日)を制覇したのだ。メイジ(父グッドマジック)はキャリア4戦目だったにもかかわらず、過酷な1¼マイル(約2000m)のレースを耐え抜いた。
プーマシステムとはどのようなものか?
「父は馬を徹底的に調教するのです」と父のアシスタントトレーナーを務めるグスタボ・デルガドJr.氏は語った。
つまりこういうことである。
デルガド調教師は基本的に、追い切りで大半の米国のトレーナーよりも管理馬に長い距離を走らせ、追い切りをしないときはより精力的に運動させるのだ。米国のトレーナーが出走を控えた管理馬に要求するよりも、追い切りのタイムはゆっくりしたものになる。
デルガド調教師は「経験から編み出したのです。ベネズエラで普段やっていることです。追い切りで長めの6ハロン(約1200m)や7ハロン(約1400m)を走らせることで馬にいっそうスタミナがつくのです」と述べる。彼は米国でボーディエクスプレス(2020年クラークS)とパオロクイーン(2016年テストS)でG1を制し、北米で276勝を挙げている。
メイジにスタミナがあることは明白である。このフロリダダービー(G1)2着馬はケンタッキーダービーで16番手から追い上げ残り200mで先頭に立ち、トゥーフィルズを1馬身退けて優勝したのだ。この勝利により、メイジは5月20日のプリークネスS(G1 ピムリコ)の前売りで単勝オッズ2.6倍の1番人気に推されている。
デルガド調教師は三冠達成を目指すメイジ(母プカ 母父ビッグブラウン)をタイム測定なしのギャロップとジョグだけで微調整し、プリークネスSに送りこむ。
「メイジにたくさん調教をほどこす必要はありません。彼は調子が良さそうですし、レースごとに成長しています」とデルガド調教師は語った。
米国三冠競走の一冠目と二冠目の間隔が2週間であることを考えると、この調教法は理解できる。それでもフロリダダービー(ガルフストリームパーク)とケンタッキーダービーに向けての最終追い切りはいずれも異例なものだった。大半のトレーナーが拠り所としているようにレースの1週間前に5ハロン(約1000m)で速めの追い切りを行うのではなく、デルガド調教師はその代りにフロリダダービーの8日前である3月24日朝に6ハロン(約1200m)で緩やかな追い切りを行ったのだ。タイムは1分16秒3/5。この距離で行われた唯一の追い切りだった。
ケンタッキーダービーに向けた最終追い切りもほぼ同様で、レースの1週間前の4月29日朝に6ハロンを1分16秒4/5で駆け抜けた。またもや、この距離で行われた唯一の追い切りだった。
これに対し、ケンタッキーダービーの最初の6ハロンのタイムは1分10秒11だった。
ファシグ・ティプトン社ミッドランティック2歳調教セールでメイジを選んで29万ドル(約4,060万円)で購買した馬購買エージェントであり馬主の1人でもあるレストレポ氏はこう語った。「それこそがグスタボの調教法なのです。馬は標識ごとに速く動くようになるのです。いつも力強いギャロップで駆けて行きます。ケンタッキーダービーでは、6ハロンの追い切りは実のところマイルの追い切りを走ったほどの効果を示していました。なぜなら、ゴールを駆け抜けたあとも自ら¼マイル(約400m)か⅜マイル(約600m)を力強く走りそうな気配だったからです」。
昨年の12月後半にまでさかのぼってメイジの過去12回の追い切りを見てみると、2頭~3頭で併せ馬をする中で突き抜けるほど猛烈なスピードで走るようなことはなかった。
デルガドJr.氏は、「父の調教法にはベネズエラが影響しています。誰も父がベネズエラのトップトレーナーだったことを知らないのです」と述べた。
実際のところプーマシステムが米国で大成功したのは、このベネズエラモデルに北米のメソッドをいくらか取り入れたからだ。デルガド調教師はメイジがデビュー戦(1月28日)で勝利を収める前は特に、速い追い切りを何回か行っていた。1月14日には、メイジはいきなり5ハロン1分1秒のタイムを出した。これは48本の追い切りの中で2番目に速いものである。12月23日には最初の3ハロンを35秒3/5で走り、追い切りに臨んだほかの15頭のタイムを上回っていた
スピードを上げることとスタミナを強化していくことを折り混ぜたこの調教法は明らかに功を奏している。デルガドJr.氏はこのアプローチがここ数年で変化を遂げていることを実感している。
「父は米国のスタイルも一部取り入れ、それがうまく行きだしたのです。簡単なことではありませんでした。試行錯誤を重ねて、メイジで証明されたように適切なブレンドを見つけたのです」。
メイジは5月16日(火)、プリークネスSに向けて調教を積んでおり、ピムリコ競馬場のメインコースで1½マイル(約2400m)をゆったりと走った。
レストレポ氏はこう語った。「すべてが日課になっているのです。今やそれが最も重要なことです。それをこなし続けるようにするのです。メイジは好調で、私たちはこれ以上ないほど満足しています。この馬がグスタボの調教法を理解し、自分でペースを作っているのが分かります。ケンタッキーダービーでの動きを見ていると、自らスピードを上げていっていますね。ハビエル・カステリャーノ騎手はただメイジを導き、進むべき隙間を選び、合図を送り、ゴールさせたのです。残り200mから加速していってスピードを落とすことはありませんでした。万全の態勢でゴールするのです。本当に賢い馬で、すべてを適切にこなしますね」。
(訳注:プリークネスSの結果はナショナルトレジャーの3着だった)。
By Bob Ehalt
(1ドル=約140円)
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[bloodhorse.com 2023年5月16日「The 'Puma System' Has Mage Fit for Triple Crown Bid」]