マレーシアのセランゴールターフクラブ(Selangor Turf Club:SLTC)は来年シンガポールの競馬産業が終焉を迎えたとき、最多で300頭を受け入れる可能性がある。また、クランジを拠点とする調教師たちは隣国マレーシアで調教活動を継続することをすでに検討している。
6月5日(月)夕方にシンガポール政府がクランジの土地(120ヘクタール)の返還を求めることを突然決定したため、調教師・騎手・厩務員は不信感を抱いて別の拠点を探すために奔走することになった。
現在716頭の現役競走馬がいるシンガポールは、2024年10月5日に最後の競馬開催を予定している。
SLTCのCEOマイク・フォン氏は6月6日夜、本紙(ANZブラッドストックニュース)に対して"クアラルンプールの競馬センターはすでに、マレーシアの首都に調教拠点や管理馬を移すことについて調教師や馬主から問合せを受けている"とし、こう語った。
「昨日から調教師や馬主から、"どのような割合で馬を受け入れるのか"という問合せをいくつか受けています。調教師からの移籍の要望もいくつか聞き、その中にはシンガポールを拠点としているマレーシア人調教師もいました。そのうち何人かが戻ってきてここで調教活動を行う可能性を視野に入れています。また政府発表後に問い合わせてきたシンガポール移住者もいました」。
フォン氏とSLTCのタン・スリ・リチャード・チャム会長は、6月6日(火)に競馬場の調教エリアの調査に乗り出した。シンガポールからの馬と調教師の流入が見込まれるため、厩舎を追加建設できる場所を確認したのだ。
フォン氏はこう語った。「セランゴールには現在600頭以上の現役競走馬がいます。今回会長と一緒に厩舎エリアを歩き回ってみて、頭数増加に本気で対応するとした場合、200頭分の厩舎が追加建設できる場所を何か所か確認しました」。
「もうひとつ考えておかなければならないのは、これは付け焼き刃な対応になってしまうかもしれず、はたしてその頭数を維持できるかどうかという点です」。
「今その頭数を収容できる厩舎を建設しても2年ほどで頭数が減少し始めるかもしれません。SLTCにとって持続可能なビジネスを構築する方法を考えなければならないのです」。
「私たちは発売金や国際的なパートナーシップ、そして人々がここに移籍して管理馬を出走させたくなるほど魅力的な賞金額について検討しています」。
SLTCのレースを対象とした馬券は、豪州・NZ・インド・マカオ・米国・アイルランド・英国・トルコにサイマル発売されており、シンガポールの馬券購入者も引き続きシンガポール・プールズ(Singapore Pools)を通じて馬券を購入できるだろう。しかし、フォン氏は現役馬の頭数が増加することになれば、SLTCはそれらを受け入れるためにナイター競馬の開催を検討するだろうと述べた。
セランゴールはクアラルンプールの気候のおかげで、理想的なナイター競馬の開催地となっている。また西オーストラリアと時差がなく、サイマルキャストの馬券発売を行っている国々からは夜遅くの娯楽としての賭事売上げを獲得することができる。
フォン氏は、「以前はシンガポールがナイター競馬を開催して、それは我々にとって極めて重要なものでした。シンガポールは我々の収益においても大きな部分を占めていたのです。今回のことはとても大きな損失になりますね」と述べた。
フォン氏やタン・スリ・チャム会長を含むSLTCの経営陣は6月6日(火)、シンガポールターフクラブ(Singapore Turf Club)の代表者たちとズームで会談し、180年の歴史を持つシンガポールの競馬産業の終焉が刻一刻として近づいていることについて話し合った。
タン・スリ・チャム会長はシンガポールの関係者に対し、クランジ競馬場がある貴重な土地を取り戻すというシンガポール政府の決定をマレーシア側は尊重していることを表明した。
フォン氏はこう語った。「彼らは報道とほぼ同じことを話しました。せめて2026年まで期限を延ばそうと努力したものの、政府がすでに決断を下していたために、残念ながらそれは叶わなかったそうです」。
By Tim Rowe
[Racing Post 2023年6月6日「Malaysia poised to take on Singapore horses and trainers as fallout from shock news continues」]