キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)でフクムを勝利に導いたジム・クローリー騎手に、20日間の騎乗停止処分と1万ポンド(約180万円)の過怠金が科された。レース中に鞭を上限回数よりも3回上回る9回使用したためだ。
2着となったウエストオーバーの鞍上を務めたロブ・ホーンビー騎手も、鞭を上限回数よりも1回上回る7回使用したために騎乗停止処分を受けた。以前であればこのレースがクラス1であることで8日間の騎乗停止処分を受けるはずだったが、7月31日(月)にBHA(英国競馬統括機構)から発表された罰則の緩和により、英国における過去200回の騎乗で鞭ルール違反による制裁を受けていなかったため4日間の騎乗停止処分で済むことになった。
この制裁が正式に発表される前、イボア開催(ヨーク 8月23日~26日)での騎乗ができないことがほぼ決定していたクローリー騎手は、制裁は違反に見合うものだと思えないと語り、同僚騎手のあいだでも新ルールに対する不満があることを強調した。
しかしBHAのスポークスマンは、キングジョージの終盤でのクローリー騎手の鞭の使い方は"ほとんど正当化できるものではない"とし、"競馬というスポーツが好意的に見られ続けるようにし、決勝線手前の接戦を公正なものとするためには"厳しい制裁が必要であると述べた。
クローリー騎手はこう語った。「困ったことに、私もロブも上限回数をオーバーしたことにまったく気づいていませんでした。裁決ルームに戻ったところ肩を叩かれたので、急に青ざめてしまいました」。
「鞭使用ルールやその厳しさについてはよく心得ています。一方で、馬の推進力やリズムをコントロールし続け、走行妨害を回避するように騎乗しなければなりません」。
「完全に集中しているので、そのような状況で鞭の使用回数をカウントするのはとても難しいのです」。
フクムとウエストオーバーの着差はわずか頭差だった。クローリー騎手はこの状況をほかのスポーツと比較して、白熱した勝負のさなかにルールを守ることの複雑さを説明しようとした。
クローリー騎手はITVでこう述べた。「モータースポーツで車を運転しているときに、高速でコースを走って周囲の車のバンパーに触れないようにしていると想像してみてください。そして、無数のことが起こっているのにとっさにカウントもしなければならないのです」。
「1馬身ぐらい引き離していたのならそうすることも簡単だったでしょう。しかしあのような状況ではきわめて難しく、説明しづらいものがありますね。ウィンブルドンの決勝で、テニスプレーヤーがラリーをしているときに、頭の中で数を数えることはできないでしょう」。
「ルールはルールですし私たちもそれを受け入れますが、この制裁が犯した違反に対して見合うものだとは思えません。納得するのは難しいでしょう。上限を超えてしまったことは過ちでしたが、2人とも"何が何でも勝つ"という精神で臨んだわけではありません」。
「ルールが発効する前に協議に参加した騎手はいましたが、現在活動している騎手の中でこのルールに同意している騎手は一人もいないと断言できます」。
後に"騎乗停止処分に対して不服申立てを行うのですか"と聞かれたクローリー騎手は、レーシングTVに対してこう答えた。「このことについて誰かと話す機会がなく、ついさっき知りました。よく考えてみることにします」。
BHAによると、3月の新しい鞭使用ルールの導入以来、延べ騎乗回数は2万3,500回以上にのぼっている。今回のクローリー騎手のフクムへの騎乗は、鞭使用回数が上限を3回超過したわずか2件目の事案だったという。
BHAのスポークスマンはこう続けた。「キングジョージでの鞭の使い方は、新ルール導入以降のビッグレースで一般的に見られている模範的な例には含まれないようなものでした。たとえば今年のチェルトナムフェスティバル・グランドナショナル開催・英ダービー開催・ロイヤルアスコット開催では、上限を超える回数の鞭を使用して勝利したジョッキーは1人もいないのです」。
「英国の鞭使用の上限回数は今や、近隣諸国を含むほとんどの主要競馬国の標準的なものとなっています」。
「キングジョージでは勝馬に上限を3回超える鞭が使われたわけであり、まず正当化できるものではありません。このような鞭の使い方を抑止するために、とりわけビッグレースでは厳格な罰則が設けられているのです。それらの罰則は、競馬というスポーツが好意的に見られ続けるようにするだけでなく、決勝線手前の接戦を公平なものとするように考案されました。騎手がルールの範囲内で騎乗するように奨励することは、賭事客とほかの騎手の利益にかないます」。
BHAは7月31日(月)、英国におけるいくつかの鞭使用ルールの改正を発表した。その中には、当該騎手が最後の制裁を科されてから英国で平地競走200回もしくは障害競走150回騎乗していた場合、鞭の上限回数を超えた使用への騎乗停止処分は最大50%軽減されるという措置が含まれていた。また総賞金15万ポンド(約2,700万円)未満のクラス2レースについては、見習騎手・アマチュア騎手限定のレースでないかぎり、制裁が2倍となることはなくなった。
騎手協会(PJA)はこの改正を"正しい方向への一歩"と評したが、RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)は8月1日(火)に"手ぬるすぎる"と批判した。
RSPCAの政策担当理事であるエマ・スラウィンスキー氏はこう語った。「今回の発表によりBHAのすでに不十分な鞭使用ルールがさらに脆弱化して緩和されることを、RSPCAは懸念しています。BHAが"激励"と称して馬を前進させる鞭の使用を維持したことに私たちはすでに失望していました。今回の発表は、またしても馬の福祉を後回しにしてルールを水で薄めているように見えます」。
By Peter Scargill
(1ポンド=約180円)
[Racing Post 2023年8月1日「Jim Crowley handed 20-day ban and fined £10,000 for overuse of the whip on King George winner Hukum」]